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誰が為のゲーム原作を問う注目作「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」【レビュー】

というわけで「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」を見てきましたので、さっそく感想を述べていきたいと思います。

ネタバレされてつまらなくなるようなタイプの映画ではありませんが、映画の内容にも触れていきますので、その旨ご了承の上よろしくお願いします。

今作の特長は、単なるゲームの映画化ということではなく、権利者の任天堂制作(イルミネーションとの共作)で、生みの親の宮本茂さんがガッツリと関わって作られていること。

マリオといえば、ドンキーコングやノーマルのマリオブラザーズから親しんでいましたし、自分もゲームクリエイターの端くれとして、どんな形で映画化されているのか非常に興味深く思っていました。


1.安心、安全のマリオ映画

結論から言えば、本作は『安心してください、マリオですよ!』って感じの内容で、客観的には特に文句のない、満足度の高い映画だったんじゃないかと思います。

こちらは不安なマリオ

最初に、スクリーンにドットのマリオが動き出したときは、おっ?ドットの世界からスタートして、徐々に3Dになっていく、マリオの歴史を追体験するような内容なのかな。と意表を突かれましたが、そんなことはなく、ピクサーの電気スタンドのアニメーションみたいな、任天堂制作を示すロゴアニメでしたが、それはそれで新たな映画の歴史の始まりを見たようで感動しました。

その後の冒頭シーン、予告映像にもあるクッパがペンギン城を落とすシーンは大迫力のCGで、最初のドットからはもちろんですが、近年のマリオと比較してもクオリティの高い映像で、ハリウッドを本気にさせるオラが町のヒーロー、マリオ…みたいな感じで、目頭が熱くなりました。

しかし、最終的な評価として「客観的には~」と、奥歯に何か挟まっているかのような物言いになっているのは、これから言うことが、いろいろ判断した結果と理解した上で無いものねだりをしてしまう我儘な意見だと分かっているからです。

以下はそんな個人的な、人によっては全く気にならない難癖みたいな話になってしまうと思いますので、本作を存分に楽しんだ方はこのままそっと閉じていただいて、なんかモヤモヤするけど理由が分からないみたいな人は、その理由を紐解くキッカケみたいになるかもしれないので参考にしていただければと思います。

2.なんだかんだ言って洋画

最初に述べたように本作は任天堂との共作とは言え、映画そのものの制作はミニオンズなどで有名な「イルミネーション」スタジオが行っており、ベースは洋画テイストになっています。

具体的には、マリオの両親を始めとする家族が当たり前のように登場し、親父からダメ男扱いされて奮起するといった動機付けや、その後の初仕事のドタバタなどは向こうの映画のセオリーという印象で、あまり共感できないというか、テンプレっぽく感じてしまいました。

また、いくつかのシーンでTake On Meとか、向こうのヒット曲が挿入されるんですが、ゲーム原作映画としてはちょっと違和感があり、日本でもヒットしたような曲を選曲してはいましたが、カルチャーとしては通ってないので、「いや、知らんし」みたいな感じになってしまいました。

そういうのは、SINGでやってくれれば十分かなあと

3.何が見たかったのか

自分がこの映画に期待していたのは、

1)本編ゲームの次回作に繋がるような、新キャラクターやギミック・舞台装置の登場
2)これまでの作品で出てきた各種ゲーム設定の存在理由や、思いもよらない使われ方
3)あの作品のアレがこんなところで!?といった、イースターエッグ的なお遊び要素

といったものでしたが、当然あると思った3も意外と控えめ(自分が気付かなかっただけかもしれませんが)で、1と2は意図的に考慮されていなかったように思います

自分としては、本作をきっかけにゲームも進化して欲しいといったイメージで、序盤の営業車がパンクして街中でパルクールみたいに現場に向かうシーンはゲームでやりたい!と思いましたが、舞台がキノコ王国に移ってからは、すでにゲームで知っている内容が大半で、設定的な部分になると「なんでブロックが浮いてるの~?」とかセリフには出てくるけど、そういうもの!って感じで回答は与えずに華麗にスルーしまくるので、別に良いんですけど、そういうことだったのか!みたいな驚きはありませんでした。

予告編を見て、こうした部分は期待できない気がしていましたので、落胆はしていないものの、思った以上に想像した通りだったので、ちょっと拍子抜けしてしまいました。

4.岩田社長の置き土産

宮本さんのインタビューによると、本作は岩田社長時代の「ゲーム人口の拡大」に基づいた「ゲーム機を持っていないような人にもゲームを知ってもらう、ゲームを疑似体験してもらう」といったコンセプトで立ち上がっているようで、もちろんゲームファンにも向けているけれども、「マリオという存在を知ってもらうこと」自体が大きな目的であったようです。

そう考えると、自分の期待していた「ゲーム世界の拡大や裏付け」はステップとしてまだ早く、ある程度映画の文脈に乗っ取って物語が進んでいくというのも、今するべきこととして考えられた結果なのかという気がしました。

(とはいえ、自分の中のマリオは映画の文脈では生きていないので、先に述べたテンプレっぽい感じや、最後に親父に認められてめでたしみたいな展開は「いらんいらん!」って思ってしまいましたが)

なので、雰囲気的には新作とは言わないまでもリブート作品を期待してゲームを始めたら、めっちゃゴージャスなリメイクだったみたいな感覚でした。

その意味では「THE FIRST SLUM DUNK」は初めましての人にも、生粋のファンの人にも新鮮な体験を与えることに成功していましたが、本作はすでにファンの人にとってはやや新鮮味に欠ける内容だったようにも思います。

もちろん、ターゲットに対して最適なアプローチをして、すでに記録的なヒットを飛ばしているのですから、大成功であることは間違いありませんし、逆に自分が期待していたような形でこれ以上突っ込んだ内容にすると、当初の目的から外れて、映画からゲームに入った人が「あれ、コレできないの?」みたいになるので、難しかった気がします。

5.映画としてはどうだったのか

それでは、純粋にマリオを題材とした映画としてはどうだったのかというと、先に述べたスタイルの問題はさておき、地下水路に降りたときにさりげなくゲームの地下ステージのBGMのフレーズが流れたり、マリオカートのパートでカートのカスタマイズのシーンがゲームのUIを踏襲していたりとニヤリとするところも多く、勇敢なピーチ姫やイケイケボンボンのコング、ずけずけとした傍若無人なキノピオなど、登場人物の性格もそれぞれ特徴的で、お前そんな奴やったんかと意外性もあり、楽しかったです。

逆に、なんでそんな性格なのかといった背景や、映画を通しての移り変わりみたいな部分は描かれず、深堀りはされないので批評家の評価が低いのは、それはそれでわかる気がします。

自分の好みやマリオを知っている前提で評価すると客観性に欠けるので、一見さんが観た前提で減点法で採点していて、上で述べたような設定の背景が語られなかったり、主人公の動機づけがありきたりだったり、キャラクターの精神的な成長が描かれないなど、減点ポイントがあることから高評価にならないということだと思いますが、一般の評価は高い訳なので、すでに前提の認識が誤っている気がします。

特に近年はMCU「スーパーヒーロー疲れ」や、ディズニーのポリコレ映画が揶揄されることが多くなっており、そうしたものとは無縁の(一応、姫を助けるのはやめていますが)単純明快なクラシカルな娯楽映画としての作りが評価されているのではないかと思いました。

6.個人的注目ポイント

また、単純なマリオ映画としてみた場合、「僕の知らないマリオ」という意味では、先に述べた序盤のパルクール的なシーンと、最後の人間界にゲームの世界が侵食したシーンは「ロスト・ワールド/ジュラシックパーク」でティラノサウルスがアメリカ上陸したときみたいな感覚でドキドキしました。

どうせなら、ハイテクとか人間界でしかできない方法でクッパを撃退するとかの展開にしてくれたら新鮮だったと思いますが、流れとしてはああするしかないだろうという感じでしたし、「シン・仮面ライダー」を見たばかりだったので、Wライダーキック張りのキメ技には笑ってしまいましたが、素直に盛り上がり、爽快感があったと思います。

ただ、ちょっと気になったのは、人間界でのゲームの扱いでしょうか。

映画の中でマリオや他のキャラクターがゲームをするシーンがあるのですが、パルテナの鏡はまあいいとして、普通にドンキーコングとかもやっていたので、「それマリオ出てるやん、まだ知らん世界のドンキーもいるやん!」ってやきもきしてしまいました。

気にするようなことではないのかもしれませんが、リアルな感じで家族とか登場させるなら、もうちょっとうまいことやってくれても良かったのになと思いました(自分の会社のプロモーションで自分が出てるゲーム作ったのかなとかも考えましたが、それなら「マリオブラザーズ」の方が適切ですし、ちょっと良く分かりませんでした)。

↓※上記は、認識に誤りがありましたので、次の記事で訂正しています。

7.それでも高まる続編への期待

さて、本作はスタッフロールの後におまけとしてあるキャラクターが登場?します。

他にも、ルイージとともに捕らえられていたチコ(ルマリー)(「スーパーマリオギャラクシー」で出てくるキャラクター)が意味ありげなセリフを言って割とフィーチャーされる割に何も起きずに終わるなど、続編を匂わす振りがあり、また、先に述べたように興行収入もすでに記録的な訳ですから、続編は決まったようなものだと思います。

今作では、映画業界をリスペクトして”ゲームの世界からこんにちは”と自己紹介にとどまったマリオさんですが、次回作ではもうその枷もないので、上映館や上映回ごとにストーリーが変わるとか、観客の反応で展開が分岐するとか、従来の映画にとらわれず、自由な発想で映画を作って欲しいなと思います。

後、今作では(多分)出てこなかった、個人的に大好きな「スーパーマリオサンシャイン」のネタを入れ込んでくれれば言うことありません。

頭から離れない…ピーチ、ピーチ、ピーチピチピーチ~♪

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