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角田光代の「方舟を燃やす」

僕は1964年生まれ。「ノストラダムスの大予言」も「こっくりさん」も「口裂け女」も小学生の時に流行した。みんなが見ているテレビ番組があったし、キャンディーズやピンクレディを知らない日本人がいるなんて考えたこともなかった。
隅々まで行き渡った大衆感、右肩上がり空気。終末思想も流行でしかなかったし、ゴジラを環境破壊への警鐘だと捉える人など皆無。「春休み映画まつり」で楽しむ怪獣でしかなかった。
僕は、マジョリティに身を置く心地良さも狡さも考えたこともなかった。
今思えば、今では考えられないぐらい差別的な発言と差別的思想に無頓着だった時代。大人も子供も「普通の人」たちは「普通ではない人」を区別し、差別していた。

就職してバブルが崩壊したと言っても、新社会人の僕たちにたいした衝撃はなかった。
そして、ミレニアムを経ても地球は滅びなかったけど、無自覚にマジョリティではいられない出来事が起き始めた。
僕たちが家族を守る主(あるじ)の年代になった頃になって僕たちは、「自分の考えを持って判断し選択して行動すること」に迫られるようになった。
猟奇殺人、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、9.11。東日本大震災やコロナを経て、ついに「生き方」に覚悟を持たざるを得なくなった。

小説では同世代の主人公の子供時代から現在まで描かれている。昭和、平成、令和を生きた、すくなくとも僕には共感だらけの「普通の人生」。
ドラマチックな展開もエピソードもない。
だから逆に没入してしまう。
同世代の作家角田光代。この小説のおかげで僕の世代感は後世に残る。

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