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MYP-Math-代数でビジネスを分析

岐阜市にあるサニーサイドインターナショナルスクールでの中等部における数学の実践についてまとめていきます。このnoteを通して「世の中を数学的に見ることができる人を育成すること。」を目指していくプロセスをシェアできたらと思います。

「小学校から高校までの12年間算数・数学を学んできた私たちは、算数・数学で教わったことのどれくらいを日常生活でいかせているでしょうか?」

恐らく数学に苦手意識のある多くの人がは「数学は難しい」「小学校の算数レベルだと日常生活の中で行かせているかもしれない」と感じていると思います。実は、今数学を教えている私もつい最近までその1人でした。

今の私の指導観の支えになっている「思考する教室をつくる」の著書には、次のように書かれています。

多項式方程式を解く手順を全部覚えている人がいったい何人いるだろうか。多くの人は覚えていない。なぜなら、私たちが高校で多項式方程式を解いているときに、その課題が現実の世界に関連していると理解していなかったからだ。実際、最後に多項式方程式を解いたのはいつだろうか?おそらく高校であるだろう。記憶が失われている理由はまた、多項式について学んでいるときに、公式や定理の背後にある概念についてけっして本当には理解していなかったせいもある。私たちは、理解することなくアルゴリズムを「やっていた」のである。

「思考する教室をつくる」(pg.52)

子どもたちが「世の中を数学的に見ることができる人を育成すること。」を目的とし、どのような授業実践をしているのかをまだまだ数学教師1年目の実践をシェアさせていただけたらと思います。


Unit1では「数の起源の探究」を行い、Unit2では「現代社会で起きている不平等や格差を数字で明らかにする探究」を行い、Unit3では「幾何学的な美しさの探究」を行ってきました。

Unit4でも数学科で大切にしたいことは同じです。

「世の中を数学的に見ることができる人を育成すること」

Unit4では、MYPの数学の枠組みにある、4つの学習分野の1つである「代数」の分野を行っていきます。
「なぜ、私たちはを代数を学ぶのか?」

代数は、数を扱う際に最初に用いられる概念の抽象化であり、より高度な数学を学習する上で必要不可欠なものです。代数では、文字と記号を用いて数や量、演算が表現され、 数学の問題を解くために変数が用いられます。

「数学」指導の手引き参考(pg.32)

また、「数学」指導の手引きには「代数を問題解決の手法としての理解」を促す考え方として、次のように書かれています。

教師は、代数に関する知識やスキルを問題解決に応用できるようにするために実生活における状況を利用することにより、生徒が代数について理解を深めることができるよう支援すべきです。代数に関するトピックをモデル化、表現、つながりといった概念と関連づけることにより、問題解決手法について理解をより深めることができます。

「数学」指導の手引き参考(pg.32)

Unit4のカリキュラム内容

こちらが、Unit4のカリキュラムの概要になります。

【探究テーマ】
モデルを使って関係性を表現することは使命を維持する能力に影響を与える重要な意思決定の判断材料となる。
【重要概念】関係性
【関連概念】表現 / モデル
【グローバルな文脈】公平性と発展
【事実的問い】
・線形システムとは何か?
・損益分岐点とは何か?
【概念的問い】
・どのようにして関係をモデルにすることができるのか?
【議論的な問い】

【評価基準】
・パターン
・実生活への数学の応用

探究の流れ

具体的な探究の流れはこちらです。

【導入】   
・損益分岐点のグラフ(See-Think-Wonder)
・スポーツデイの屋台の売り上げの課題分析
【展開2】昨年度の屋台の分析 
・昨年度の売り上げを固定費、変動費から分析
・売り上げと変動費から損益分岐点を分析
・人件費を固定費に加え、予想される販売数から価格の再設定
【評価課題】
>スポーツデイの屋台で赤字が出てしまい、このビジネスを立て直すためのビジネスコンテストが行われることになしました。昨年度の価格の分析を関数のグラフを用いて行い、ビジネスとして利益がでるように価格設定の見直しを行ってください。
・ビジネスコンテスト

また、授業ではガイドされた探究(Guided inquiry)の考え方をベースに、生徒主体の学びと逆向き設計のカリキュラムの間を行き来しながら構成主義的な学びを目指していきます。

参考リンク

導入1(OPEN)

参考グラフ(リンク

導入では、今回のユニットの肝である「損益分岐点」のグラフが書かれた2つの関数を見て思考ルーティーンの1つである「See-Think-Wonder」を行うとことから探究が始まりました。ここでは、生徒がこれから始まるユニットへの興味関心が開かれたり、疑問が出てくることを大切にしました。

【See】
固定費、変動費、売上高、点P、収益、比、比例、グラフ、P点で交差
【Think】
単理的な増え方、株に似ている、物価かな
【Wonder】
比って何?売上高って?何を表している?変動費って?交わっている点Pの意味って?図の見方は?AとBはどちらが収益が多いの?点Pがあるのはいいこと?

導入2(IMMERSE)

ここでは、生徒にとってこのユニットで学ぶことがこれまで経験してきた知識とどのように繋がりがあるのかを感じることを大切にしました。背景として、私たちの学校ではG6とG7-9がスポーツデイで屋台を行います。ここでは、数学の知識(減価率や損益分岐点)がない状態で、これまでの生活経験のスキルを活かして商品決め、材料の調達、価格設定、事前販売から販売個数の予測を行い当日の屋台を行います。全ての屋台プロジェクトが終わるまで、子どもたちはこの屋台の売上が良かったのか、悪かったのかを知ることはありませんでした。

スポーツデイの背景(補足)

収入とそれぞれの商品の減価率を分析
支出の整理と仕分け

スポーツデイが終わった次のMathで実際にかかった費用と利益を調べるために、レシートをかき集めて価格の分析を行いました。実際に計算をしてみて、G6はギリギリ黒字になり安心する様子で、G7-9は減価率が約30%でしっかり利益を出すことができていました。そして、それぞれの学年のデータを 共有し、G6の児童が「なぜこのような結果になったのか?」を疑問が浮かび上がってきた所でこの問いを眠らせていました。

ここで半年以上が経ち、先ほどの問いを投げかけました。

あなたたちは起業家で、昨年のスポーツデイで屋台をしました。
昨年度の屋台の売り上げはビジネスとしてどうでしたか?

G7-9にとっては、減価率が約30%だったので、なぜビジネスとして成功できたのかについて改めて成功要因の分析をし、G6については減価率が130%の商品もあったので、価格設定の見直しを行う必要感からこのユニットにグッと入っていきました。

展開1(EXPLORE)

ビジネスとして良かったのか、悪かったのかを試行ルーティーンの「Tag of war」で行い、更に原因の分析を行なっていきました。ここでは、自分たちの経験をもとに自由に原因について考え、洗い出していきました。そこで数学的なスキルや知識と関連して出てきたのが、価格設定、計算スキル、商品の選択の仕方、販売利益の予測というものが出てきました。中には、チームワークやコミュニケーションの課題も出てきましたが、ここでは今回のユニットの中心的な問いになる、計画性や予測に着目していきました。

展開2(IDENTIFY)

様々な原因がある中で、今回のユニットでフォーカスしていくのは「予想される利益を数学的に予測可能かどうか」についてでした。これは、このユニットの肝になる損益分岐点の理解につながるアイデアでした。

展開3(GATHER)

上のグラフのように、自分たちが持っている情報(販売価格、販売個数、経費)から、固定費と変動費をそれぞれ計算し、そこから固定費と変動費の式を導き出し、グラフにすることで、持っているデータを情報に変えていきました。ここから更に損益分岐点の考え方を取り入れ、かかった経費と売り上げ金額がちょうどプラスナイス0になる分岐点から更に深い学びへと入っていきました。

展開4(CREATE)

そしていよいよ最終アセスメント課題に入っていきました。ここでは、昨年度のスポーツデイの屋台で赤字が出てしまったビジネスを立て直すためのアイデアを生み出し、ビジネスコンテストを行う設定で行いました。生徒は学んだ数学的な手法を用いて、人件費を固定費に加えたり、昨年度の売り上げ個数から販売個数を推測し、価格の調整を行いました。ここでは、損益分岐点が昨年度の販売個数より少ない数で交わるようにしたり、価格を変えることで調整する生徒の姿が見られました。

振り返る1(SHARE & EVALUATE)

この後の展開としては、G7-9で1つのアイデア、G6で2つのアイデアを出すことで最終的に適切だと思われるビジネスアイデアを決めていきます。そして、それぞれのビジネスアイデアに相互フィードバックを行い、このユニットで学んだことが次のスポーツデイの屋台に行かされたらと考えています。

今回のユニットでは、代数に関する知識やスキルを問題解決に応用できるようにするために実生活における状況を利用することにより、生徒が代数について理解を深めることができることを大切にしました。生徒にとって実際に経験したことを題材に扱うことで、実生活とのつながりを感じられたのではないかと思いました。

いつも読んでいただきありがとうございます。子どもたちの探究は続いていきます。

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