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「ゆうれい居酒屋」 山口恵似子

まさにタイトル通りの居酒屋である。舞台は新小岩の商店街にある小さな居酒屋である「米屋」。「こめや」ではなく「よねや」である。何年も前に主人及び女将も亡くなって今は存在しない「米屋」が舞台。そして各章の物語は女将が居間でちゃぶ台に突っ伏してのうたた寝から目覚めるシーンで始まるのだが、恐らくこれは女将が亡くなった時の状態がそうであったのだろう。

毎回同じシーンからスタートするので女将としては毎回リセットされて来客に応じているような感じであるが、とはいえそれ以前の来客のお勧め料理をそれとなく準備して振舞ったりと、連続性も保たれている。そして時代は数十年の時差があるため、スマホにびっくりしたり、Jリーグを理解していなかったりという状況も描かれているが、そこは上手く?かわすような感じでストーリーが展開し、女将と来客は時空を超えて会話が繋がっていく。

物語は一貫して来客が悩みを打ち明け、女将がそれを聞き、会話していく中で来客が悩みを解決し、後日お礼のために「米屋」を訪れるとそこに居酒屋はもう存在せず、向かいの焼き鳥屋で驚愕の事実を知る、というパターンであるが、全体を通して非常に温かく、心が温もる作品である。

調べてみると著者は江戸川区出身とのことであった。舞台は新小岩。微妙に江戸川区ではない葛飾区という若干ややこしい地名であるが笑、著者もよく知る土地なのだろう。また、著者は食堂で働きながら50歳を超えて作品を世に出したことで、ある賞を受賞した際は「食堂のおばちゃんが受賞した」と話題になったそうだ。著者は他にも食堂を舞台とした作品を多く出しているようなので、他の著書も手に取ってみたい。

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