見出し画像

夢の先

 夢を見た。目覚めてから鮮明に内容を思い起こせる夢はそう多くないので、記録でもしておこうと思った。

 わたしはいつもどおりに通勤しようとしていた。通勤しているはずだったが、いつもと違う景色を歩いていた。いつもと違う景色だとわかってはいたが、その道はなぜか知っている道で、その道から駅に到達できるはずだった。途中の大通りを超えれば、駅は近いと思っていたが、その大通りがあったはずの場所が、そのままアスファルトがそっくり削れてしまったような形で、大きな河のようになっているのを見た。それも人工的に整備された河川であり、前日からの雨の影響らしく、その河水はうねって氾濫せんばかりだった。その道は、その時のわたしが思うには、前日まできちんと道路として機能していたはずであったから、誰が何のために突然通りを河にしたのか、工事をするなら事前告知くらいすべきではないか、と平凡な不満を持った。なんにせよいつもの通勤路が失われたのだから、どうにかせねばならない。

 迂回して裏道をつたい、駅と思しき方面に進んでいくと、果たして駅が現れた。その風貌はいつもと違う、木造の地方ローカル線の駅のようだった。何十年も前にタイムスリップした気分だった。その駅の名前がわからなかったが、とにかく駅舎には違いなく、駅の中に入って路線図を見ると、各駅の名称は都営地下鉄と東京メトロを混ぜこぜにした名前になっていて、路線は環状線を構成しているらしかった。
 駅に改札はなかった。歳のころ40代といった明るい雰囲気の女性係員が立っており、各乗客に行き先の駅を聞き、ホームに通じるゲートを通す役割をてきぱきとこなしていた。朝の通勤ラッシュの時間帯なので、ゲートの前に数人の行列ができていた。わたしの前に並んでいる人々は皆「春日」に行くと言っていたので、わたしも思わず「春日まで」と言ってそこを通してもらったが、よく考えてみたら春日という駅は現実世界での最寄駅のひとつではあるものの、目的地すなわち勤務先とは関係ない。駅のホームに入ってから再度路線図を確認すうると、どうやら勤務先の駅は逆回りのほうがはるかに近いのだった。わたしは苦笑いしながらゲートを出ようと、先ほどの女性係員に目配せをした。係員はわたしに「逆回りですか」と聞きながら、良くあることだという感じで微笑を浮かべていた。わたしは気まずい愛想笑いを返しながら、はいと返事して、ゲートから外に出してもらった。ゲートを出ると、係員は「最近迷われる方が多いので、こういうのもありますけど、よろしければ」と言い、単行本くらいのサイズのでっかい御守りを勧めてきた。なぜ御守りで方向音痴がどうにかなるのかと思った。しかも値段は2,000円と書いてあった。わたしは「う、高い」と躊躇ったが、今日はついていない日だから思い切った転換をしたほうがいいかもしれないという思いと、なぜか買わないと敗北だという、男のプライドめいた例のわけのわからない見栄が出て、その御守りを買ってしまった。そのあたりになると、ああこれは夢だなという感じで明晰夢に近い状態になっていたが、そこでだいたい眼が覚めた。

 起きてからたわむれに、夢が何を意味するのか、適当な夢診断サイトを見ながら考えてみた。河が増水する夢は感情的になっている証しで、氾濫する夢は大きなトラブルの予兆だという。わたしが夢で見た河は、溢れるぎりぎりまで増水して氾濫していなかったが、濁流めいていたことには違いない。この先の何らかのトラブルを予期して慎重になっている心理の表れなのかもしれない。結局は河を渡ったりせず、迂回して目的地にたどり着いたので、すんなりとはいかずとも目的は達せられるという暗示だろうか。また、駅に関する夢は、駅に人が多くいる場合は吉兆で、さびれている場合は凶兆のようだ。見た夢では、駅舎はレトロな感じだったものの、人は多かった。運気は下がっているが、人には恵まれているということだろうか。そして御守りを購入する夢は、願いがかなったり、不安やトラブルが解消する吉兆だという。御守りは高価だったけれど…

 綜合すれば、将来の行き先に向けて大きなトラブルに見舞われそうになるが、高い代償を払いつつもトラブルはなんとか抜けて、不安からは逃れるという未来を予想または希望しているらしい。このところ毎日好調と不調を繰り返しているようで、運気が目まぐるしく変わっている感覚がある。気持ちよさと気持ち悪さに交互に襲われ、高揚と落ち込みが入り混じる。いろいろな意味で転機が来ているのかもしれないとも思う。





この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?