垂直居士

水平からの離脱にあがく漫筆家。 人が何を考えて生きているかに興味をもって、生きていま…

垂直居士

水平からの離脱にあがく漫筆家。 人が何を考えて生きているかに興味をもって、生きています。名前はそのまま「すいちょく」で差し支えありません。居士は号で、仕官せず野にある男子の読書人の意ですが、必ずしも本人を適切に表してはおりません。

マガジン

  • 詩と詩人のはなし

    詩についての考え方や、詩人のエピソードをまとめてみました。

  • 言葉の砂漠、文字の海

    言葉や文字にまつわる書き物をまとめました。

  • 読書論雑感

    「読書」という営みについての断片を、自分のための整理もかねて、ひとまとめにしていく予定です。

  • こどもシリーズ

    大人が想像した、摩訶不思議な子供たちの世界。 「文明社会の中で生きていると、だんだんにその文明が入っていってしまうが、それ以前に子供は、非常に強い問題を、太古の言葉で、哲学的な質問として投げかけてくる。これに対して、『子供は黙っていなさい』とか『大人になりゃわかる』なんて言い返すのは間違っている。子供の質問は、極めて哲学的なものなのだ。」(鶴見俊輔「イシが伝えてくれたこと」より)

  • 近未来アニマルペディア

    実験的短編『近未来アニマルペディア』をまとめました。

最近の記事

  • 固定された記事

垂直に生き、論理で乗り越えよ。

 一人の学徒として、学問に向き合う態度はいかにあるべきか。  人それぞれの考え方はあるとしても、自分にとって、学問とは常に生き方の問題であり、自己確認であり、自らの来し方を反芻自問することに他ならない。すなわち、ここにこうして奇妙な回想の類や自己批判の駄文を連ねることも、これまでの経験を振り返り、自分の立ち位置を確認し、吟味して批判するという、ひとつの学問的修練につながるものだと考えている。馬鹿げた考えかもしれないが、修練の成果が出て来れば、駄文が駄文でなくなって磨かれるは

    • 周回遅れの男

       コロナに罹患した。今さら、である。私の人生ではいつもこんなふうに、何かを踏み出そうとしたときに出鼻をくじくような感じで、少し流行から外れたようなものが一周遅れてやってくるようだ。思えばこの4月の初めはたくさんの新しい出来事に遭遇し、さらに仕事においても予想外の事態があって多忙が続いたため、心身に負荷がかかったと思われる。  コロナ罹患者の症状の辛さについては様々な人々によって記録されているとおりだが、多くの人が証言しているのと同様、私が今回もっとも辛かったのは喉の痛みであ

      • 私も参加している文芸同人誌『夢幻』創刊号、販売開始しました。よろしければ商品ページのサンプル画像だけでも楽しんでください。よろしくお願いいたします。 https://reve8realite.official.ec

        • 社会の発展と呼ばれるものは、プリミティブな問題ないし状況が整理されて、制度の名のもとに次々と包み隠されていくことではないのか。

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        垂直に生き、論理で乗り越えよ。

        • 周回遅れの男

        • 私も参加している文芸同人誌『夢幻』創刊号、販売開始しました。よろしければ商品ページのサンプル画像だけでも楽しんでください。よろしくお願いいたします。 https://reve8realite.official.ec

        • 社会の発展と呼ばれるものは、プリミティブな問題ないし状況が整理されて、制度の名のもとに次々と包み隠されていくことではないのか。

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        記事

          四月に新しい風

           この四月から、人生においていくつかの新しいことが始まります。私にとってはそれらが全て「書く」ことに関連していると思っているので、noteでの記事にしておこうと思いました。  まず、大学院に通うことになりました。  私の記事には、ぐちぐちと研究や学術活動への未練めいたことを書き散らすものがしばしばあったのですが、そう書きながらもアカデミズムの世界で研究するなんて全然向いてないと思っていました。ここ数年は大学に戻るとは考えたこともなく、趣味としての研究や独学の道をマイペースで

          四月に新しい風

          夢のまにまに

           あまり熟睡していないのか、最近は以前よりもしばしば夢を見るようになった。ある日の夢はこんなだった。  自分は船団のような集まりの指揮を取る、どうやら艦長的な立場にあるらしかった。何か大きな意志に反して、全ての船を撤収させなければならないという苦悩に直面しているようで、前艦長らしいベテランや副官らしい女性に、本当に撤収していいのかということを何度も確認された。その理由も状況も具体的でないのだが、なんとしても撤退しなければならないと自分の中では決めていた。根拠なく重要な決定を

          夢のまにまに

          詩と情熱によって世界を捉える

           以前からことあるごとに目にして気になっていた数学者・岡潔と批評家・小林秀雄の対談本『人間の建設』(新潮文庫)を読んだ。この本は帯や裏表紙の解説では「知的雑談」とうたわれているが、両人からほとばしって縦横無尽に披露されている知識や教養は味付けにすぎない。本書でほぼ一貫して語られているのは、人間における情感の優位ということであるように思われた。その流れの中で、詩をめぐっての考え方がしばしば出て来る。  最初に詩についての関心を持ちだすのは、意外にも数学者の岡潔である。 「よい

          詩と情熱によって世界を捉える

          読書すればそれなりに脳が刺激されて書きたいことは増えるのに、どうもまとめきることができず、記事を途中まで書くのに気に入らなくて放り出してしまうことが多い。以前からそういう傾向があるが、このところ特にそんな感じで頭の中が混濁して整理されない。落ち着くためにとりあえず椅子を新調した。

          読書すればそれなりに脳が刺激されて書きたいことは増えるのに、どうもまとめきることができず、記事を途中まで書くのに気に入らなくて放り出してしまうことが多い。以前からそういう傾向があるが、このところ特にそんな感じで頭の中が混濁して整理されない。落ち着くためにとりあえず椅子を新調した。

          勝本清一郎の森鷗外論

           近代文学者について少しずつ掘り下げていきたいと思っていて、森鷗外はその対象の一人である。評論家・文学史家の勝本清一郎に『近代文学ノート』という著作があって、その第3巻に収められている一連の森鷗外論を興味深く読んでいたが、とりあえず以下に要点をメモしておくことにした。 「世界観芸術の屈折」  日本音楽は、鳥の声や渓流や雲や霧の世界に悟り切っていき、西洋音楽にみえる「人間臭さ」がみられない。勝本は、西欧的教養を身につけたはずの鷗外の作品に、これと同様の「人間臭さ」の排除という

          勝本清一郎の森鷗外論

          免許更新と母親

           誕生日や記念日などの特別な日はなるべく一人で静かに過ごすようにしている。というより、普通の日と同じように過ごしていれば自然とそうなるだけなのだが。  誕生日、どうせ暇なので免許更新の予定を入れておいた。思い返せば過去何度かの更新も全て誕生日の当日に行くのが常だった。ペーパードライバー暦20年以上の私は、もちろん無事故無違反のゴールド免許である。18の歳に地元で取得したはいいが、そこから一体何度運転したというのか。もしかしたら前回の更新から5年間、今日まで一度も運転しなかっ

          免許更新と母親

          心を溶かして芽吹かせる

           noteをはじめて4年経ったという通知がきました。なんと4年とは!驚くばかりです。実際は記事を本格的に書き始めるまで半年ほどブランクがあったので、実質的に続いたのは3年半程度ということになりますが、それでもよく続いたものです。自分は根っからの怠け者でケジメもなく、努力や勉強が好きではないと思っているのですが、実はコツコツ積み重ねることが唯一の取り柄なのかもしれません。ただ、物事をほとんど達成したところで急に諦めたり、ぷつりと断ち切ったりする悪癖があるため、これからも充分注意

          心を溶かして芽吹かせる

          死んだ状態をあらわす

           大江健三郎と古井由吉の対談本『文学の淵を渡る』(新潮文庫)には、文学の本質についての示唆が多く含まれている。  この本の冒頭近くで、「死んで在る」という状態をどのように描くかという問題がとりあげられており、大江健三郎は次のように述べている。  大江健三郎のデビュー作である『死者の奢り』において、主人公の一人語りという形態をとりつつも、脱走兵の死体に語らせるという発想には、死んでいる状態の人間と生きている状態の人間はいかにしてつながれるのか、というモチーフがすでに表れてい

          死んだ状態をあらわす

          森鷗外の「あそび」

           森鷗外の「あそび」という短編の中に、今の自分のあるべき心境に近い記述があった。   もちろん自分は文学者でもなければ文学者として人に知られているわけでもない。しかしそういうものになりたい気はしている。つけたりのような仕事をしていて、頭が禿げかけてきてもいっこうに幅が利かないのに、ろくなものを書いていないのは同じである。  しかしこの主人公「木村」は、仕事においてはうだつが上がらないわけではなく、仕事場に早く来て、晴れ晴れとした顔で次々とこなしてゆく、どちらかといえばデキる

          森鷗外の「あそび」

          夢のあり方

           引用の文章は、この部分だけ切り取ると、いかにも作家の詩情が発揮された美しい表現なのであるが、これには前段がある。妻の不貞を夢に見てやり切れぬと言っている男に対して、妻への処罰の方法はどうするかという問題に答えて、空を見よと述べているのである。  「夢なのだから気にすることはない」とアドバイスしないのが、様々な文学的実験を行ったこの作家らしい態度である。論理的に考えれば、星や月は実際にあるし、それを見ている我々人間も現実として存在しているはずである。星や月が浮かぶ場所を夜空

          夢のあり方

          お客様の中に神様はおられますか

           近所には洋服の修理店が二店舗あるのだけれども、どちらもネットでの口コミ評判は良くない。両店とも★5のうちほぼ★1~2というなかなか極めつけの低評価で、書き込みを見ると、技術面の不備を指摘する声も一部にはあるが、接客に対する不評判が大勢を占めるようだ。客に対する扱いの粗雑さに憤慨する書き込みが、両店舗ともに見られる。そして、実際に両店舗とも使った経験からすると、残念ながら自分もほとんど口コミと同様の印象を持たざるをえない。  私の自宅から近いほうの店舗Aは、一応フランチャイ

          お客様の中に神様はおられますか

          「小説を書くことは―とくに若い書き手たちが新しく小説を書きはじめることは―、自分としての文化のかたちを、ひとつの風景のように建設するという、根本の意志に根ざしてはいないだろうか。自分としての文化のモデルを提出しようとする意志、といいかえてもよい」 大江健三郎『新しい文学のために』

          「小説を書くことは―とくに若い書き手たちが新しく小説を書きはじめることは―、自分としての文化のかたちを、ひとつの風景のように建設するという、根本の意志に根ざしてはいないだろうか。自分としての文化のモデルを提出しようとする意志、といいかえてもよい」 大江健三郎『新しい文学のために』