見出し画像

送る人

「結婚おめでとう!」


口ではそう言うものの、心が痛む。

壁を背に、拳で胸を押しつけられるような感じがして、息が苦しい。

この華やかで喜びに満ちた場にはふさわしくない感情だ。


「私を置いて行かないで!」


本当はそう叫んで大好きなあの人の腕を掴み、二人きりでここから逃げ去りたい。

だけど、すでに手遅れだ。

だって、あの人の心はもう、隣で笑っているあいつの元へと行ってしまったのだから。


壮大な宴もクライマックスへと突入し、周りは皆、ハンカチで目を拭い、鼻をすすっている。

でも、私はひたすら微笑む。

だって、本当の気持ちが知られてしまいそうで、怖いから。

不要な心配だと分かっているはずなのに。


賑やかな会場を後にして、一人ぽつんと電車に揺られる。

日常の光景の中で、綺麗なドレスを着飾った自分が浮いているのを感じて、全てが終わったのだと実感する。

無地だったはずのドレスに、大きな水玉模様が二つ浮かんだ。


#旅する日本語 #途立つ

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

いつも最後まで読んでいただき、ありがとうございます。 あなたのスキがすごく励みになります。 気に入っていただけたら、シェアしていただけるとありがたいです。 これからも書き続けますので、ぜひまた見に来てください!

私もスキ!
20

虎丸娯丸

エッセイ時々小説|優しい世界で生きていたい。 ブログ:https://toragoma.com/

エッセイ集―心のままに言葉を紡ぐ―

心のままに語ったエッセイ集。嘘偽りのない本音を、言葉にのせてぶつけています。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。