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映画感想 アナベル 死霊館の人形

 『アナベル 死霊館の人形』視聴しました!
 まずこの作品の立ち位置について。

1作目『アナベル 死霊館の人形』2014年
2作目『アナベル 死霊人形の誕生』2017年
3作目『アナベル 死霊博物館』2019年

 『アナベル』シリーズは『死霊館』大ヒットの後、「あの謎の不気味な人形はなんなんだ?」という好評を受けて制作されたのがこの『アナベル』シリーズ。それもすでに3作品もあるから、どれが最初なのか、どれが何の続きなのか、時系列がよくわからない。
 私もWikipediaを見て「あれ? 『死霊人形の誕生』は既に見ているけど、その前作をまだ見てなかったぞ」と気付き、今回視聴した……というのが経緯。
 時系列の話をするとまたややこしいのだが、

①『アナベル 死霊人形の誕生』……ここでアナベル人形が生まれる。
②『アナベル 死霊館の人形』……映画の最後で、アナベル人形を買うお婆ちゃんが現れる。
③『アナベル 死霊博物館』……ウォーレン夫妻に引き取られて管理される。
④『死霊館』……引き取られた後も、アナベル人形が悪さをする。

 となっている……と思う。自信たっぷりに言えないくらい、ちょっとややこしい。大ヒットを受けて後から後から作った……というのが実情だから本当に詳しい人じゃないとわからない状態になってしまっている。後付け、建て増しなシリーズ特有の現象だ。
 まあ迷ったら、制作された順番に見ればいいでしょう。

 では本編のお話をしていきましょう。
 お話は1970年頃。研修医のジョンは、新婚で出産間近のミアに、とあるアンティーク人形をプレゼントする。それがこのアナベル人形。アンティーク人形が好きなミアは、この人形を見て「まあ素敵!」と大喜びなのだが……え? 不気味じゃない?? まあそこはこの映画の中の世界なので、そういうことにしておきましょう。ここをツッコミだすを切りがないので。
 『アナベル 死霊人形の誕生』の感想文を書いた時にも同じ話をしたけれど、本物のアナベル人形はこちら↓

アナベル人形(本物)annabelle_original.jpg_1349052094

 本物のアナベル人形の方が実は可愛い。本物のアナベル人形は職人が作った一点もの人形ではなく、工場で大量生産された普通の商品。その一つになぜか悪霊が取り憑いて、曰く付き人形になってしまった……というもの。
 「本物のアナベル人形?」ということで不思議に思う人もいるかも知れないが、『死霊館』シリーズの特徴は「実録もの」。一応実話ベースのホラーとなっている。ただし「一応」なので、大半はフィクション。今回の映画のようなお話なんかも、事実ではありません……ということを了解して見れば良いでしょう。

 呪い人形を家庭に招き入れ、平凡な日常を過ごす夫妻。テレビではチャールズ・マンソンによるカルト教団に関するニュースをやっている。
 チャールズ・マンソンは作品には関係ないが、フレーバーの一つだし、間もなく夫妻を襲う別のカルト教団への権威付けにもなっている。この時代には、こういう怪しいカルト教団がちらほらあって危ない事件が起きていたのよ……という示唆になっている。

 間もなくカルト教団が夫妻を襲う。ナイフで刺され、人形を奪おうとする。そこにやってくる警官。カルト教団は人形が置かれた部屋に籠城する。警官が突撃し、カルト教団を射殺。
 その時、カルト教団は壁に血でサインを描き、射殺で噴き出した血がたらりと垂れてアナベル人形の中に落ちる……。
 これで、悪魔の魂が人形に宿りました……ということになる。ついでに女の亡霊も、アナベル人形にとどまるようになった。追い詰められたカルト教団は即席で悪魔召喚の儀式をやって、その命を賭して、何かしらを召喚し、人形の中に魂を宿した……というわけだ。
 あの人形にはそもそも霊魂が宿っていたはずなのだが、そのうえに悪魔が召喚されて、とんでもなく厄介な存在になってしまった。

 この作品の悪魔の性質について書いておこう。
 どうも他の『死霊館』シリーズとも同じで、おそらく一貫した特徴を持っていると考えられるが、このシリーズにおける悪魔はまず長時間の実体化ができない(多分MPを消費し尽くすと姿が消えちゃうんだと思う)。影響を及ぼせる時間は短い。力はそこそこ強く、家具をひっくり返すくらいの力はある。電気を操ることができる。幻覚を見せることはできる。天井を歩くことができる。ただし壁抜けはできない。ドアを閉めると、意外にも通り抜けてこないので、部屋の窓やドアを閉めて籠城すると、ひとまずの安全は確保できる。
 おそらくこのシリーズにおける悪魔の特徴と性質はこんなものでしょう。
 後は十字架が弱点。一瞬で悪魔召喚のサインを作ることができる……などかな。
 幽霊や悪魔は作品によって特徴が違うので(共通点もある)、その性質を読み解いていくところにも面白さを見いだしていけるでしょう。

 次に悪魔の目的を見てみるとしよう。悪魔はカルト教団の即席召喚によってアンティーク人形の中に宿る。
 ここで私も疑問なのが、カルト教団は「人形」を狙っていたのか、それとも「赤ちゃん」を狙っていたのか……。赤ちゃんはあの段階で出産していなかったけれども、出産前でも悪魔召喚は可能だったかも知れない。
(いや赤ちゃんの魂を捧げて、人形に悪魔を宿すつもりだったのか……ここはよくわからない)
 まず隣人夫婦が殺された理由(カルト教団の信者は、隣人夫婦の娘だった)はおそらく「生け贄」だったんじゃないかな……という気がしている。わざわざ肉親を殺したのは、悪魔召喚に肉親を捧げなくちゃいけない理由があったんじゃないかな。
 しかし警官に追い詰められて、急遽、そこにあった霊的な人形の中に悪魔を召喚したんじゃないだろうか。
 でも悪魔は肉を持った生身の中に魂を持ちたい。そこで悪魔は赤ちゃんに乗り移ろうとした……。しかし悪魔が乗っ取るには、その人間の精神をギリギリまで追い詰めなければならない(この辺り『ヘレディタリー』と同じルールだ)。それでまず母親の精神を攻撃し、乗っ取ろうとした。
 最終的に「自殺してお前の魂をくれたら許してやんよ」と悪魔は誘うけど、これは罠。その後赤ちゃんの魂を乗っ取る気まんまんだったのだろう。
(ネタバレになるが、最終的に悪魔を退けられたのは、神聖な自己犠牲を見せたから)
 と、こういうことだったんじゃないかな……そこまで自信たっぷりには語れないけど。

 舞台はどうだろう。
 作品の舞台は、まずどこにでもある平凡な一般住宅だ。
 ホラー映画は幽霊屋敷が付きものだ。私の推測では、ホラーの原体験がイギリスにあるから。幽霊はお屋敷の中に現れると考えられていた風習が、そのままアメリカに来て、現代のホラー映画に継承されている……と考えている。
 といっても今の時代、そこまで堂々としたお屋敷は出てこないが、その代わりにどこかしらにお屋敷ふうの作りを舞台の中に作られたりするものだ。
 ところが『死霊館の人形』はごく普通の一般住宅。私はこれを見て「あれ?」という気にはなった。ホラーの楽しみどころのもう一つは、お屋敷建築だったりするわけだが、その楽しみがない。ここでちょっと気分が逸れる気がした。
 冒頭の一般住宅も、惨劇が起きた後で夫妻は住み続ける気をなくしてしまい、次はアパートへ移る。旦那さんは物語が始まった最初の段階では研修医のはずだから、背負った負担は大きかろう。なかなか良い夫だが、仕事と半狂乱になる妻の間で苦労が描かれている(顔はルパン三世みたいだけど)。
 で、一般住宅の後に次はアパートだから、「うーん」となる。ホラー映えする空間がないなぁ……と。単純に何かしらに追いかけられた時に、逃げたり籠城したりするスペースが限られてくるわけで、この狭さがちょっと舞台変換の単調さに繋がってしまっている。
(若い夫婦……という設定を考えると、収入を考慮してぎりぎりリアリティが感じられる家ではあるのだが)

 ところでアパートだが、ジョン&ミア夫妻の頭上からいつも足音が聞こえる。これがあるシーンの伏線としてうまく機能しているのだが……別のシーンをよくよく見るとアパートは6階建てで6階の部屋……。うーん、ホラーだ。

 アナベル人形だが、見ているといくつかのパターンが存在している。
 映画が始まって最初は綺麗なアナベル人形。一回捨てられて、しかし戻ってくるのだが、その時は髪はボサボサ、肌がやや黒ずんで描かれる。この時点で結構不気味。
 その後も、映画の段階を追って、アナベル人形は少しずつ肌が黒ずみ、だんだん質感が生々しくなるように描かれていく(4段階くらいかな?)。あの中に悪魔がいるんだ……という感じを持たせていて、なかなかうまい見せ方だ。

 それで、アナベル人形自体は特に何もしない。あくまでもシンボルに過ぎない。恐いのはその周辺で起きる怪奇現象のほう。どこかのシーンでいきなり首が振り向いたり……とかするのかと思ったが、そういうシーンすらなし。
 でもやっぱり存在感があるのは、見た目の不気味さがあるから。それを冒頭の場面で「素敵!」と部屋に飾っちゃうところで違和感があるのだが……。

 『死霊館の人形』はホラー映画としてどうなのか、というと映画の前半戦はあまり面白くない。異変はいくつも起きるし、ホラー描写もその中にあるのだが、恐ろしいと感じるほどのものではない。静まった部屋の中で貞子みたいなのがひたひた歩いているシーンなんかは、ホラー映画ではよくあるシーンなので、見る側にとってお馴染みすぎて恐くない。
 それでもお気に入りシーンはあり、あるシーンで部屋に見知らぬ小さな女の子が立っている。その女の子が駆けてきて、しかし途中のドアが閉じかける。女の子がパッとそのドアをはねはける。すると大人の女になっていて、手にはナイフが……!
 ホラーの良し悪しというのは、何においても見せ方をどのように工夫するか(予算の大小は関係ない)。見る側の意表を突けるか……にかかっている。ありきたりに陥ってはいけない。あのシーンは「おお凄い!」と楽しくなった場面だ。

 映画は後半に向けて、悪魔が堂々と現れるようになって、ミアに猛烈な精神攻撃を仕掛けていくようになる。幻覚攻撃が始まり、周辺に犠牲者が出てくる。その後半に向けて、じわじわと盛り上がってくる。
 知覚できない者に対するホラー……ということで少しJホラー的な趣はあるのだが、本質的にはアメリカホラー的な外部から攻撃を仕掛けてくる怪物に対して、いかに防衛するか、がテーマとなっている。迫る殺人鬼に対して、いかに対処するか、しかしその相手は不可知の存在――と条件付けが変わっている感じだ。中盤以降はその盛り上がりが一気に加速していき、楽しめる作品になっている。
 舞台がアパートということでやっぱり狭い中でお話を展開させなければならないぶん、あまり広がりを感じさせなくなっている(移動したり籠城できる場所が少ない)……という引っ掛かりはあるにはあるが、それでも細かな工夫で面白く作っている。小さな工夫をたくさん積み重ねた作品として面白かった。

 あと美人女優を追い詰める過程を見るのって、ドキドキするよね。きっと演出する側も、楽しんでたんじゃないかな。あの女優さんをどうやって怖がらせてやろうかって。

 最後のちょっと余談。
 この作品だけど、なにかとながら作業をしてよそ見をする場面が多い。ミシンをしながらテレビをちらちら見たり、運転しながらラジオの電波に気を取られたり……。こういう場面でハラハラさせようとしているのはわかるが、見ているとどうも「ながら作業するな!」という気分になってしまう。特に危ないものを扱っている間は。
 そう思うのは、私自身があまりながら作業とかしないタイプだからなのだろうか……。とにかく、危険物を扱っている時のながら作業は危険なので、やってほしくない。


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