見出し画像

映画感想 ミッション・インポッシブル5 ローグネイション

 『ミッション・インポッシブル』第5作目! 『ローグネイション』!
 監督はクリストファー・マッカリー。クリストファー・マッカリーはどちらかといえば「脚本家」として有名で、『ユージュアル・サスペクツ』『ゴールデンボーイ』『X-MAN』『ワルキューレ』といった大ヒット映画の脚本を手がけてきた。トム・クルーズとは2008年に『ワルキューレ』では脚本を担当し、それに続いて監督作『アウトロー』でもコンビを組んだ。映画監督としての経験は浅いが、しかしそこはトム・クルーズの勘の良さ。経験はさておきとして、『ミッション・インポッシブル』の制作に誘い、成功を収めている。
 『ミッション・インポッシブル』シリーズは毎回監督が変わり、毎回テイストがまるっきり変わっているが、しかし一貫性が保たれている。どうしてこんなことができるのか。これはハリウッド特有の事情で、監督よりもプロデューサーの権限が強いから。プロデューサーは第1作目から主演のトム・クルーズが兼ねているから、作品の方向性がブレることはない。トム・クルーズがプロデューサーとして方向性をきちんと指揮しているから、毎回テイストが変わりつつも、全体を通した一貫性が見て取れるように作られている。プロデューサーが主演も兼ねているから……という強味もあるのだろう。
 ところで、今回の作品には中国資本が少し入り込んでいる。そういうわけもあって、中国人女優が登場するし、途中のオペラのシーンは中国風に作られている。オープニングクレジットにも中国人女優であるチャン・チンチューの名前が出てくるが、登場シーンはベンジー・ダンに嘘発見器に掛けて質問をするだけ。舞台が中国に向かうことはなく、それ以上の中国色は出てこない。中国人女優が出てくるのはスポンサーへの配慮か、それとも「この女優を使いたまえ」という指示があったか定かではないが、うまくかわして作品を作っているようだ。

 では前半のストーリーを見ていこう。


 ベラルーシ。イーサン・ハントたちはとある軍事施設に張り込み、エアバスA400Mの離陸を阻止しようとしていた。遠隔操作で止める予定だったが、燃料も電気系統も油圧計も暗号化して手が出せない……!
 そこに、イーサン・ハントが直接乗り込む。エアバスA400Mの壁面に貼り付き、ドアを開けて中に入り、大量の神経ガスを強奪するのだった。
 続いてロンドン。イーサン・ハントはとあるレコード店に入り、次なる指令をもらおうとしていた。レコード店の試聴室に入り、指令が収められた映像を見ているのだが……なにかがおかしい。
「君の推測通り、西側に友好的な国々でテロを起こし、革命を画策する影の組織が存在する。IMFの疑念通り、その組織こそ、君が去年から追っている《シンジケート》だ。IMFの疑念は正しい。通常なら君たちの任務はその組織の破壊だ。だが今回はそうではない。我々がそのシンジケートなのだ。我々の標的は君たちだ。今回の君の任務は運命と向き合うこと」
 IMFの指令ではない!? シンジケートからのメッセージだ!
 罠に嵌められた。イーサン・ハントはそこから脱出しようとするが、催眠ガスに包まれて眠ってしまう。
 イーサン・ハントはシンジケートたちに捕らえられ、拷問をかけられるのだった。しかし、そこにいた謎の女性の助けがあって、どうにか逃亡する。
 一方ワシントンDCではCIA長官によるIMFバッシングが始まっていた。前作の核ミサイルがサンフランシスコ上空をかすめた一件は、IMFがテロリストにコードを漏らしたからではないか? IMFの存在は現代の透明性と監視を重視する時代に逆行する。今こそIMFを解体し、CIAの一部に組み込むべきではないか――とCIA長官は主張するのであった。
 CIAはシンジケートもイーサン・ハントがIMFを存続するためのでっち上げではないか、と疑っていた。
「必ずハントを探し出し、奴が過去に引き起こした騒動の責任を取らせてやる」
 CIA長官はイーサン・ハント逮捕を指示するのだった。


 ここまでで前半25分。

 まず冒頭のシーン。離陸するエアバスA400Mの壁面に貼り付くシーンだが、ご存じの通り、スタントなし、CGなし。いや、本当は命綱がしっかり結びつけられていて、その命綱をデジタルで消すくらいのことはやっているのだが、地上1500メートル上空を飛び、しがみついているのは本当。映画史上に残る危険な撮影である。さすがトム・クルーズ、やってくれるぜ! 周りで撮影している人達は、ヒヤヒヤものだったはずだけど。

 今回の敵である「シンジケート」だが……。
 シンジケートとは? シンジケートとは「組合」あるいは「出資者の集団」を意味する言葉で、とある事業をやろうと思い立った時、1人では資金の用意ができないから、お金を持っている人達に出資を募る。その後、儲けが出たら、出資者たちが出した金額に応じて儲けを収める……という形式のことである。
 というのは私の解釈であって、Wikipediaで確認するとシンジケートとは「企業組合」と説明されている。色んな意味があるようだが、「出資者による連合」や「企業同士の連合」という意味は合っているようだ。
 映画の世界ではシンジケートといえば何かと犯罪組織に絡んだところで出てくるので物騒な感じがするが、実際の社会でも普通に使われる言葉だし、意味は出資者や企業同士の連合を指す。
 このシンジケートが今回の「敵」として登場する。……もうちょっといい名前はなかったのかな? 本作に出てくるシンジケートは単独の組織だったわけだから、あまり相応しい名前ではないような気もする。

 では次の25分の紹介をしよう。


 あれから半年……。CIAはイーサン・ハントの逮捕を! と息巻いていたが、消息すら掴めずに時間ばかりが過ぎていた。
 ベンジー・ダンはCIAの所属になり、諜報員としての退屈な仕事、それから毎日の嘘発見器のテストを受けていた。
 そんなベンジー・ダンのもとに、ウィーンオペラの招待券が届く。かねてより応募していたチケットだった。
 週末の休日にウィーンへ行くと、そこで接触を持ってきたのがイーサン・ハントだった。イーサン・ハントはこのオペラに、自分を追い詰めた謎の男、ソロモン・レーンが現れることを突き止めていた。イーサン・ハントは1人ではやりきれないと判断し、ベンジー・ダンにオペラのチケットを送り、協力を求めるつもりだった。
 そのオペラ会場に現れたのはオーストリア首相。シンジケートたちの狙いは、オーストリア首相の命だ! イーサン・ハントとベンジー・ダンはソロモン・レーンの捜索をやりつつ、オーストリア首相を守るために戦うのだった。
 オペラでのミッションは、謎の女・イルサの助けがあって、どうにかうまく行き、オペラ会場を脱走。イルサは「見付けられるはず」という言葉だけを残して、姿を消すのだった。
 イーサン・ハントは失踪後もシンジケートとソロモン・レーンの行方を追っていた。ソロモン・レーンの行方を追って世界中を回っていたのだが、彼の現れるところでは必ず要人の暗殺が起きている。暗殺が起き、戦争の切っ掛けが起きていた。ソロモン・レーンは元諜報員たちを集め、訓練し洗脳し、世界が混乱する切っ掛けをあちこちで作っていた。いわばIMFの敵……。
 しかしオペラ会場ではとうとうソロモン・レーンの姿を見付けることができず、またしても手がかりを喪ってしまった。が、イルサが残して行った口紅の中にデータを発見する。データの中にはモロッコ銀行の図面が隠されていた……。


 前作も実質IMFは解体し、「ゴースト・プロトコル」発令……それでもどうにか戦争が起きる切っ掛けを抑えたのだったが、今回も再びIMFの危機。あの人たち、いっつも危機だなぁ……とか思いながら見ていたのだけど、これは「安心・安全」のお話は作りません、という意思表示。イーサン・ハント個人が危機一髪の活劇をする……というだけではなく、IMFという組織自体も存亡の危機をかけてミッションに挑む……という展開を取っている。「お約束」や「お馴染みの展開」を崩しつつ、いかに新しいことを描けるか、というシリーズへの挑戦的意欲が見えてくる。
 CIA長官は「イーサン・ハントを逮捕する!」とあんなに勢いよく言っていたのに、半年も消息を掴めないとは……。CIA大丈夫か?

 それで、今回は前作とエンタメの在り方がまるっきり違う。前作は細かい「駆け引き」を積み重ねていかに面白く作れるか……という構造だったけれど、今回は「状況」でどのように判断するべきか、というところに重点を置いている。
 大きな状況は「IMF解体」という課題を前に、どうやって組織を復活させるか……というお題目が置かれている。小さな状況は、例えばオペラ会場のシーンでは、3人の狙撃手がオーストリア首相を狙っている。そのうちの1人を殴り倒したけれど、あとの2人はどうやって止めるか……。撃つべきは女のスナイパーか、それとも男のスナイパーか……? こうした状況を見せることで、場面のハラハラ感を作っている。
 もう一つ、全体を支えている要素は、謎の女、イルサの存在。前半の拷問シーンでイーサン・ハントを助けて逃がしたのだが、果たしてイルサは敵か味方か……? オペラ会場のシーンでも、オーストリア首相を狙う狙撃手の1人が実はイルサ。敵か、味方か、撃つか、撃たないでおくか……。イーサン・ハントは何を選択するのか……というところでも緊迫感が出ている。

 こうした内容なので、『ミッション・インポッシブル』シリーズといえば楽しいガジェット一杯……今回も未知のガジェットが一杯出てくるのだけど、そうではなくIMFを取り巻く社会が出てくる。IMFを疎ましく思っているCIAであるとか、イギリス諜報機関であるとか。そういった社会や政治性が物語の大きな軸となっている。
 こういった作りも、今回の『ミッション・インポッシブル』の作っている「状況」の1つで、IMFを取り巻く大きな社会を描き、IMFがその社会の中に1人という構図を作り出す。すると、世界観がこれまでにない広さや複雑さを持つように感じられる。さらに、そういう状況の中で何を選択するか……どうやったらIMF復活に繋がるのか、これを選択していく物語が今回のエンタメ的面白さとなっている。
 ただ、こういう内容で作ったので、ウィリアム・ブラントは完全に中間管理職のポジションになってしまい、今回はアクションシーンはなし。そういう役の割り振り……ということだけど、あれだけ動ける人がアクションなし……というのはちょっと惜しい気がする。

 中盤から以降も、危機一髪のアクションが一杯。モロッコの金庫では水中での危険なミッション。そこから続いて、モロッコの街中での派手なカーチェイス、さらにまたしてもトム・クルーズによるノーヘル・バイクチェイス! もちろん、スタントなし。すれ違う車の一部にCGが使われているようだが、ノーヘルでバイクに乗っているのは本物のトム・クルーズ。やっぱりやってくれるぜ! 最高だぜトム・クルーズ! 2作目のノーヘルバイクチェイスよりはるかに見応えあるシーンになっている。
 おいおい、ノーヘルなんて道交法はどうなんだよ……という人もいるかもしれないが、トム・クルーズだからいいんだ。そもそもあの速度で爆走している時点で、道交法もへったくれもないんだけど。法律なんざ、トム・クルーズの後についてくればいい。
 このバイクチェイスシーンがとんでもない速度感だし、トム・クルーズの乗るバイクにどんどんカメラが寄っていく。あんなに接近して本当に事故とか起きなかったのだろうか……と後から見ているだけでも気持ちがヒヤヒヤする。いつもながら体張ってるなぁ……。

 監督が変われば、作品の方向性もまるっきり変わる。エンタメとしての軸も変わるし、面白がり方も変わる。なるほど、こういう作り方をすれば、面白さを無限に作り出せるなぁ……と感心の『ミッション・インポッシブル』シリーズ。
 第4作目『ゴースト・プロトコル』は細かな駆け引きの物語、ガジェットを活用した活劇の物語に集中していたが、第5作目『ローグネイション』は大きな社会が出てきて、その中でいかに状況を選択していくか、状況を制しているか……という形式に変わっている。同じシリーズでありながら、楽しみ方がぜんぜん違う。ここまで違っていながら、しかしきちんと1つのシリーズ作品としての連続性が作られている。1つの作品としても面白いが、シリーズ全体を通しても興味深い。これは追いかけて見る価値のある作品かな、と感じた。


この記事が参加している募集

映画感想文

とらつぐみのnoteはすべて無料で公開しています。 しかし活動を続けていくためには皆様の支援が必要です。どうか支援をお願いします。