見出し画像

007 22 慰めの報酬

 トム・クルーズ主演スパイ映画を見終えたので、今度はダニエル・クエイグ主演スパイ映画シリーズ。『カジノ・ロワイヤル』はずいぶん前に見たので、まだ見ていない『慰めの報酬』から視聴。
 まずは概要の紹介。
 『007/慰めの報酬』は2008年制作のスパイアクション映画。
 前作『カジノ・ロワイヤル』で長年主演を務めていたピアーズ・ブロスナンが降板してしまったために、ダニエル・クエイグによる新シリーズがスタート。ここから『007』シリーズにとっての“新章”ということになる。
 『慰めの報酬』は『007』シリーズとしては4番目に高い興行収入を獲得したが、批評は賛否両論となっている。レビューサイトRotten Tomatoesでは支持率65%とやや厳しめ。日本国内の評価でもやはりやや厳しい結果となっている。

 そのストーリー内容だけど……。
 よくわからなかった。
 というのも『カジノ・ロワイヤル』の完全な続編として作られた『慰めの報酬』。『カジノ・ロワイヤル』の直後からお話が始まっている。『007』シリーズで2作に跨がってストーリーが続いたのは、今作が初だったそうだ。
 私もこの辺りの事情を知らず見始めたから……「あれ? ヴェスパーって誰だ?」ってなった。前作『カジノ・ロワイヤル』を視聴したのはもう10年以上前。憶えてないよ……。というわけで、今回は例にないくらい薄らぼんやりと見始めたのだった。

よくわからなかったのだけど、とにかく前半のストーリーを見ていこう。


 イタリア郊外。ジェームズ・ボンドはとある男に追跡されていた(前作のラストシーンからの続き……らしい)。その追跡をなんとかかわし、やりすごし、シエナの街へと入っていく。
 MI6の拠点に入り、車のトランクルームを開けると、男が1人。
 ジェームズ・ボンドはヴェスパーを操っていた男の手がかりを探っていた。この男ミスター・ホワイトはその男に繋がると思われていた。
 だが男は言う。
「何もわかってないんだな。笑える。我々はこう思っていた。“相手は天下のMI6にCIAだ。何もかも筒抜けだ”と。じゃあ教えよう。我々の仲間はあらゆる場所に出向いている。そうだろ?」
 すると、仲間の1人が突然発砲。そこにいる男達を殺して逃亡するのだった。
 ジェームズ・ボンドはその裏切り者を追うが、格闘の末、殺してしまう。

 手がかりは失われてしまった。だが裏切り者が所持していたお札から新たな手がかりが。
 MI6ではル・シッフルに入る洗浄用のお金をマークして番号を記録していた。その番号と一致するお札を、裏切り者が持っていた。1枚だけではなく、札束で。そのお金は「スレイド」の名前でハイチの銀行に預けられていた。
 さっそくハイチのホテルへ向かうが、部屋にいた男にいきなり襲われ、格闘の末殺害。またしても手がかりを失ってしまった。
 ジェームズ・ボンドはそのままホテルを去ろうとしたが、受付に「325号室に伝言は?」と尋ねると、ブリーフケースを預かっているという。そのブリーフケースを受け取り、ホテルを後にする。
 するとジェームズ・ボンドの前に急に車が止まり、女が「乗って」と呼びかける。
 女はどうやらジェームズ・ボンドを「地質学者」だと思ったらしい。ジェームズ・ボンドはその場でブリーフケースを開けて中を探るが、その中にあったのは目の前にいる女の抹殺指令だった。


 と、まあだいたい前半25分がこんな感じ。
 前作の内容をすっかり忘れていて、Wikipediaのあらすじを見ながら「こういう意味かな?」とまとめてみると、『カジノ・ロワイヤル』でジェームズ・ボンドはヴェスパーと恋仲になったが、そのヴェスパーは死んでしまった(どうして死んだのか、思い出せない……)。
 ではそのヴェスパーを操っていた男は誰なのか?
 ヴェスパーには恋人がいたが、その男は死体となってイビサ海岸に打ち上げられた。しかしDNA鑑定の結果、別人だったと判明。ジェームズ・ボンドはヴェスパーを操っていた謎の男はまだ生きていると見て、調査を進める決意をする。

 謎の男に繋がるかもしれない……という望みを託して、今回の事件に深入りしていくのだけど、関係者が次々と死んでしまうためになかなか手がかりが得られない。というところで、謎の女と遭遇することになる。

 印象的なのはアクションシーンで、とにかく1カット1カットが短い。カメラが激しく動き、一見すると何が映っているかわからないシーンも一杯。
 トスカで男と追跡するシーンは、直接のバトルシーンとは関係ないカットが大量に混じっている。競馬の様子や、混乱する群衆の姿や……果物を落として「まあ!」と言っているお婆ちゃんの横顔なんてものもある。
 ちょっとしたサブリミナル効果を狙ったアクションシーンで、とにかく大量のカットを矢継ぎ早にたたき込む。中には直接関係ないカットが一杯混じっているのだけど、あまりにも早いカットの連続で、見ていると次第に気分が上がって行く。群衆シーンの、特に関係ない振り向きでも何かしら関連を持っているかのように浮かび上がってくる。(ヒッチコックの『サイコ』のあのシーンみたいな感じだね)
 アクションシーンの内容を見ると、実際には地味なバトルシーンも結構あるのだけど、この編集方法で見ていると気分が高揚していく。サウンドもさほど盛り上がってないのに、盛り上がっているかのように見せられる。

 その一方で、撮影はやや地味。様々な地方を巡っていくけど、映像はさほど美しくない。構図もそこまで決まってない。むしろ妙に泥臭い。『007』らしい華やかさがない。この華やかさがない、というところが、今作のポイント。よくある映画的なエンタメではなくて、もっとトーンの重いドラマということを示している。

 では次の25分を見てみよう。


 謎の女はカミーユという名前で、ドミニク・グリーンの情婦だった。
 ドミニク・グリーンはメドラーノ将軍と関わりを持っていた。メドラーノ将軍はボリビアの軍事政権を指揮していた“独裁者”だったが、失脚。タヒチで身を隠していた。
 ドミニク・グリーンは「俺の組織に任せろ。1週間で返り咲ける」と誘い込み、その見返りにボリビアのある土地を求めていた。その土地というのはただの砂漠。石油も出ない。なぜそんな場所を欲しがるのか、メドラーノ将軍は不審がるが了解する。
 ドミニク・グリーンは自分の情婦であるカミーユをメドラーノ将軍に譲ろうとするが、そこにジェームズ・ボンドが突撃。カミーユを救い出して逃亡するのだった。

 ジェームズ・ボンドはすぐに謎の男「ドミニク・グリーン」について調査をする。ドミニク・グリーンは「グリーン・プラネット」のCEO。表向きには慈善団体で環境保護団体ということになっている。
 さっそくCIAにドミニク・グリーンについて尋ねると、タヒチに潜伏している諜報員のところに電話が繋がり、「当方はミスター・グリーンに関心がありません」という答えだった。
 電話がタヒチに潜伏している諜報員に繋がった。CIAもドミニク・グリーンを追っているに違いない、と当たりを付ける。

 そのCIAの諜報員ことグレゴリー・ビームはドミニク・グリーンと一緒のチャーター機に乗り、密談していた。CIAはドミニク・グリーンにボリビアでのクーデターにアメリカは関与しない。その代わりにボリビアの石油採掘権を求めていた。
 しかしドミニク・グリーンは例の砂漠で何が出るかは明言しなかった。

 チャーター機はそのままオーストリアへ。ジェームズ・ボンドはドミニク一派の後を付けて、そのままオペラ会場へと入っていく。
 オペラ「トスカ」の上演中の最中、ドミニク一派達は密談を続ける。ジェームズ・ボンドはその一味達の顔写真を捉えて、その場を去ろうとするが、そこにドミニク・グリーンと鉢合わせ。格闘になり、1人を殺してしまう。
 殺したのは特別警護部の部員だった。ジェームズ・ボンドはいよいよMI6からの援助を打ち切られ、カードは止められ、パスポートも使えなくなる。
 やむなくジェームズ・ボンドは古い知り合いを頼るのだった……。


 とまあ、こんなお話で、とにかくも内容が地味。『007』らしい秘密道具はほぼ登場せず、背景として描かれる内容も、かなり現実的。
 まずドミニク・グリーンだが、表向きには環境保護団体を運営しているが、裏ではボリビアの「水利権」を独占しようとしている。ボリビアはもともと水不足が深刻な地域だが、ダムを造って国民に水を行き渡らないようにして、水で利益を得ようとしていた。謎の砂漠地域を欲していたが、地下には大量の水があることを突き止めていて、その水を独占するためにパイプを敷設しようと計画している。
 アメリカはドミニク・グリーンが水ではなく「石油」を持っているのだと思って密かに交渉。ボリビアのクーデターと軍事政権樹立を見逃す代わりに石油を得る約束をしていた。
 MI6もドミニク・グリーンが石油を持っているのだと思い込んでいて、ドミニクが悪党だとわかっていても、「見逃す」という選択をしてしまう。MI6の背景にいるのはイギリス政府で、イギリス政府も石油が欲しかったからだ。
 MI6はイギリス政府に従って「ドミニクを見逃す」という選択をする一方、M個人はジェームズ・ボンドを信用し、彼の調査をあえて見逃すということをしている。

 謎の女カミーユの正体は、家族をメドラーノ将軍に殺されており、その復讐のために接近していた。カミーユの父親も軍人だったが、メドラーノ将軍と対立派閥だったために、家族全員殺され、当時幼かったカミーユだけ残されたのだった。
 カミーユはドミニク・グリーンの情婦になり、メドラーノ将軍と接近する機会を窺っていた。
 カミーユはヒロインとして登場するが、今作ではジェームズ・ボンドとの性的な交わりは特になし。「男と女」という関係ではなく、ともに復讐を思い抱く「同志」としての関係性を築き、ジェームズ・ボンドはカミーユに助言を与えていく。そういう関係なので、キスすらしない。
 ネタバレになるが、カミーユは最後にはジェームズ・ボンドと別れることになるが、その場所というのが墓場をすぐ側にした駅。「墓場」は「カミーユの過去がもう死んだ」ことを暗示しており、「再生と復活」を意味している。カミーユのその後は描かれないが、真っ当な人生を歩んだだろう……という示唆だけして終わる。

 さてジェームズ・ボンド自身の復讐はどうなったか。ヴェスパーを操っていたという男はどうなったか……。それは本作を見てのお楽しみ。

 前作『カジノ・ロワイヤル』がとにかく派手派手で攻めた一方、今作『慰めの報酬』は非常に地味。ジェームズ・ボンドの陰鬱な内面そのものを表現するために、とにかくトーンは低め。内容も暗いし重いし、やたらと現実的。映画全体がジェームズ・ボンドの内面を表現している。任務の最中に愛した女・ヴェスパーの死を乗り越えられるか……が本作のテーマになっている。そこでカミーユという女性が「もう一人のジェームズ・ボンド」として描かれる。ヒロインというより「鏡面」の関係性となっている。
(ジェームズ・ボンドはヴェスパーの死後、不眠症に悩まされる。が、綺麗な女性が現れるととりあえずセックス。性欲だけはあるんだな……)
 秘密道具も出なければ派手なアクションもない。サブリミナル効果が使われているのでアクションを見ていると気分が高揚しているが、内容自体は非常に地味。『007』らしさはないといえばないけれど、「ジェームズ・ボンド」という一人の男がトラウマを乗り越える物語、としては必要な映画だったかもしれない。
 ストーリーが続いている、という時点で『007』シリーズの中でも異色なのだけど、1人の男の心理に焦点が与えられた……というところでも異色な『007』ともいえる。

 とりあえず、本作を見るためにはまず『カジノ・ロワイヤル』を見ること。ヴェスパーって、どういう人だったかな……。最後まで思い出せないままだった。


この記事が参加している募集

映画感想文

とらつぐみのnoteはすべて無料で公開しています。 しかし活動を続けていくためには皆様の支援が必要です。どうか支援をお願いします。