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[読書記録] 丹生都比売 (梨木香歩 著)

人の旅立ちに思いを寄せる、美しくて繊細な深い水の中のようなお話の集まり。

とても静かで安らかで、あたたかく、この雑多で混沌とした、人の生きる世界とは対局にあるように思えます。
その安らかさは境目を越えた途端に突然あらわれ、こういうものなのだろうな、と思わずにいられません。

人生はみなさまざまだ。弱者も強者も、孤独な「個」であることからは逃れられない。
収録した短い作品群はみな、この、ほぼ二十年前に書いたもともとの草壁皇子の話から、同じ蔓が伸びていったように私には感じられる。どういう流れの蔓なのか、最初は自分でもことばにできなかったのだが、改めて読むうちに、分かってきた気がする。

「丹生都比売」梨木香歩著
あとがき より

この「丹生都比売」は九篇のお話から成る短編集ですが、あとがきの通り、読み終わってしまえば、それぞれのお話を数珠のように繋ぐ蔓が確かにあるのだな、と感じます。
「丹生都比売」のキサという少女の不思議な美しさ、「夏の朝」の球根から生まれた春という少女、「トウネンの耳」の旅鳥、トウネン。
何度も書きますが、全編お話の展開とは関係なく、とてつもない静寂に包まれた、触ることのできない透明な箱の中の美しい世界、と感じます。
旅立ちは孤独でさびしいように思うけど、同時に静かであたたかく、安心できるものなのだ、と思えるのです。

丹生都比売様は、私の住む場所から車で一時間とかからないところにお祀りされています。
しばらく行っていないので、あの美しい少女、キサを思い浮かべながらまた近く訪れようと思います。

とても久しぶりの梨木香歩さんでしたが、今年は梨木香歩さんにもたくさん出会いたい、と思っています。
心を深く保ちたい時に。

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