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心に土地が重なる宿

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旅を終えふっと落ち着いた時、 ぼんやり心に残り続けた宿について。
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記事一覧

“旅が触れ合う距離” 宿 Raon Hoi An

“旅が触れ合う距離” 宿 Raon Hoi An

自らを自らとして認識し受け入れるには、異なる考えや環境が不可欠であるように思う。

私たちが日本人であることを自覚するには、異なる国の人々との交流は不可欠であり、ヒトであることを自覚するには他の動物の生態を知る必要がある。しかし、相対するものの影響力があまりに強いと、それに目を見張らせるばかりで、自身のことは見えなくなるのかもしれない。

ホイアンは南シナ海に流れ出るトゥポン川の三角州に形成された

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“f分の1でゆらぐ” 宿 LOG

“f分の1でゆらぐ” 宿 LOG

小川のせせらぎや、星のまたたきに対して私たちは無条件に心を開かれ、美しさを感じる。それらの動きは半分予測できて、半分予測できないという性質があり、脳はこの刺激を受けとると、心地よい、美しいと感じるようだ。このような自然界に見られる不安定なゆらぎは「f分の1のゆらぎ」と呼ばれる。

広島県の尾道は「坂のまち」と呼ばれており、かつて海運の主要港とされた尾道水道から、山肌沿いに向け坂道が幾つも伸びている

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“風景を眺めているつもりが、自分を眺めている” 宿 Heima

“風景を眺めているつもりが、自分を眺めている” 宿 Heima

風景を眺める私たちは、目の前の景色に身と心を預けている間、何を感じているのだろう。
頭の中をからっぽにして、ただぼーっと過ごす時間。その時間には、どんな意味があるのだろう。

Heimaは岡山県倉敷市の海沿いに立地する。

岡山駅から車で30kmほどの道のりを一時間弱。高低差のある山道を越え、瀬戸内特有の背の低い堤防が続く海沿いの道をしばらく走らせると、数棟の建物が小高い山の斜面に点在する集落が見

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“静かで陽気な港町” 宿 house hold

“静かで陽気な港町” 宿 house hold

それまで私は日本海の印象を聞かれると
「隠な感じ」と答えていた。

マイナスに印象付けようとしているのではなく、削られた岩肌と荒波、湿って重たい空気が沈んでいる日本海の厳かな印象を「隠」として感じていたからだ。

けれども、今回訪れた富山県氷見市の富山湾はそれと対照的な空気が漂っていた。凪いだ海に響くカモメとウミネコとトンビの声。それに混じる漁船のエンジン音。きらきら煌めく水面の光。砂浜ではしゃぐ

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“思い出すのは不便だったこと” 宿 yamakaoru

“思い出すのは不便だったこと” 宿 yamakaoru

仕事には人柄がでるものだと最近つくづく思う。その人が普段からなにを大切にしていて、なにを見て、どう動いているのか、それが結果的に表れるものが仕事ではないだろうか。

大分県の片隅の山香町。この町に暮らす3人家族の人柄、家族柄が大きな一棟の建物から香る宿こそがyamakaoruである。

大分県国東半島の真ん中に位置する山香町。青々とした田んぼの広がる山香町には、不思議なことに、創作的な活動をする方

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“光る瀬戸内に留まる” 宿 観海楼

“光る瀬戸内に留まる” 宿 観海楼

(※ 観海楼に宿泊機能はありません。私的な視点から広義の意味として宿と紹介しています。)

「宿す」という言葉を辞書で引いてみると上のような意味が掲げられており、図書館の自習室で思わず、なるほどと呟いてしまった。

ホテルや旅館、ゲストハウスなどの宿泊施設が、旅の休息場所として宿をかすことを「宿す」といい、精霊や怨念が物に住みつくことを「宿る」といい、女性が妊娠をすることを「子を宿す」というが、言

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“湘南の向こう側” 宿 aiaoi

“湘南の向こう側” 宿 aiaoi

古い家具や雑貨を触れる時に、少しの心構えをしていつも以上にそっと触れることがある。

ずっと年上で、遥かな時間を過ごしたそのものに、一瞬関わるだけの自分。刻まれた時間の跡を見て、敬意に似た気持ちでも湧いてるのだろうか。それは繊細な関係性であるが、ある種の心地良さを感じる。aiaoi はその雰囲気を宿全体に纏っていた。

梅雨入りをして2週間近く。江ノ電長谷駅を降りると、小雨が降っていた。
あじさい

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“異化する浅草生活” 宿 toe library

“異化する浅草生活” 宿 toe library

浅草駅から歩くこと10分、隅田川のほど近く。クリーム色に光る看板が見えたのは、23時近い夜更けであった。

toe library は本と雑貨に包まれた時間を過ごす宿。オーナーの西尾さんにより買い集められたヴィンテージ品と、人柄の感じられる選書が、カウンターや客室のあちこちに身を置いている。チェックイン時間から大幅に遅れてしまったことに、西尾さんは嫌色を示さず、手厚く迎え入れていただいた。

5階

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“媒介者であること” 宿 une hotel & diner

“媒介者であること” 宿 une hotel & diner

丹波篠山の中心地は城下町の文脈を今でも色濃く受け継いでおり、武家屋敷や商家だったものが街並みを構成している。山陰地方と京都を結ぶ要所であったため所々に旧京文化が垣間見え、流通に乗った特産品は黒豆や丹波焼をはじめ全国的な評価を受けることとなった。

une hotel & diner は中心街の入り口にあたる交差点の一角に位置し、木材問屋だった木造二階建ての建物を改装した棟貸しの宿である。外観はピス

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“出口の無い物語へ溶ける” 宿 神倉書斎

“出口の無い物語へ溶ける” 宿 神倉書斎

紀伊半島の南端に位置する和歌山県新宮市は日本神話の伝説が生き通っている街であり、イザナミやカグツチが祀られる花の窟神社は日本書紀の記載によると日本一歴史の古い神社とされている。

その東側に広がる七里御浜は22km続く日本一規模の大きな砂礫海岸であり、敷き詰められた石たちは太平洋の大波に削られ、角が取れまるまるとした趣だ。

神倉書斎は新宮市の中心街近くに位置し、民家を改装した二階建ての一棟貸し宿

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“無い場所にただ在ること” 宿 ume yamazoe

“無い場所にただ在ること” 宿 ume yamazoe

奈良市の中心部から車を走らせ、調べた道がほんとに合ってるか不安になった頃に姿を表すume yamazoe 。丘を登った先にあるこのホテルは、山添村の元村長の邸宅に手が加えられたもので、フロントと客室からは裾に広がる村を見渡すことができる。

フロント兼キッチンバーのある本棟のほか、客室となる分棟が三つあり、屋外には界隈で話題のフィンランド式サウナがひっそりと佇んでいる。ロウリュに使われる水には、裏

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