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やはり身につけておくべきは本田透「がっかり力」。

といふことで当初は映画の件にしようとも思っていたの
ですが、ノート写経を眺めていたら、この一文に妙に感動
したので、まずはそれを紹介するところから。

ロボットの精神とは、どうあるべきなのか・・・・・・という
テーマは、かくも暗く語られてきた。しかし『To Heart』
(Leaf)は長年にわたるこのロボット論争にスゴイかたちで
終止符を打った。

マルチを作ったとおぼしき科学者風の男と主人公の俺は、
ある日、公園でハトに餌をやりながら、ジョン・レノンも
びっくりの思想を「発明」するのだ。それは・・・・・・、

「すべての人間がマルチに萌えれば憎しみの連鎖は終わり、
世界は平和になる」

本田透「電波男」(三才ブックス)(2005.03)p309

行きつ戻りつして、ようやくここに辿り着いたか、と思わせる
この一文に結構改めてやられたものです。

因みに「電波男」の要諦と主文は大体このあたりです。

 オタクは妄想力があるので、二次元で暴れればだいたい
満足できてしまう人種なのだ。逆にいえば、現代において
これだけ萌えが流行っている、ということは、それだけ三次元
の女によってとりかえしのつかない打撃を受けている男が
たくさんいるということなのかもしれない。

本田透「電波男」(三才ブックス)(2005.03)p258-259

まあ妄想力(は想像力)のありなしはやはり生きる上で大事な
要素である、といふことを把握するのは大事で、だからこそ、
そこをしっかり汲み取れる(可能の助動詞)辻村深月は古式
ゆかしきドラえもん映画のメソッドをキープしつつ昇華
(アウフヘーベン)出来るから『のび太の月面探査記』は
すごいんですが。

まっしろな毛玉 @5oclock_eda
『のび太の月面探査記』において人間の欲が想像力が破壊を
生み出すのだと言われ誰も反論のできなくなってしまう場面が
あるのだけれど、「想像力は未来だ!人への思いやりだ!それを
あきらめた時に、破壊が生まれるんだ!」とドラえもんが力強く
言い返してくれるものだから人目も憚らずに泣いてしまった
2019-02-11 22:24:28

『のび太の月面探査記』をもう一推しするツイートはこれも
捨てがたい。

コロンブス @koronbus
のび太の月面探査記鑑賞。キーワードはあべこべ、異説と定説。
キーとなる秘密道具の設定を用いた伏線の回収が見事。皆川純子の
演技力が別次元故に、他ゲストの広瀬すずと柳楽優弥の演技の差が
凄く顕著。CV皆川純子+ウサミミ+黒スパッツのショタ、控え目に
言って最高。
2019-03-02 16:17:13

このあたりを踏まえて、この奧に控えている「バブル女は
死ねばいい」って本もあるわけですが(それに絡めて一度書いた
記憶もある)、まあここを蒸し返すにはもう少し手業が必要
なので、今日の時点ではここまで。

本題に戻すから、ここで閑話休題、といふわけで。
(昔コミケの同人誌で「閑話休題」の使い方がおかしい、って
ハナシはさんざ観たような)

本題はむしろ基礎編の把握ですね。なのでメインテクストはこれ。

以前コメントで、例文として赤瀬川源平の「老人力」と共に
この本田透「がっかり力」を紹介したコメントをしたことは
あるのですが、まあ身につけていて損はしないので、「がっかり力」
の基礎はここに記しておこうかと。

まあここは「現国」こと『現実主義勇者の王国再建記』の21話
でも描かれた基本原則にも通じる大枠を把握することがまず大事。

つまりですね、心に「がっかり力」を持ちながら人々が
「少しがっかり、長くがっかり」という安定した人生を送る
ためには、社会が人々をどこまでもカリカリさせるような
追い込みシステムを作ってはならない、ということですよ。

がっかり社会に必要なものは「正義」とか「誇り」とかそういう
お腹(なか)のたしにならないカリカリした理念ではなくて、
食い物であり仕事であり生活費なんですよ。

本田透「がっかり力」(講談社アフタヌーン新書)(2009.04)p143

『現実主義勇者の王国再建記』の21話でアミドニアの姫が
主張するのは「本当に必要なのは仕事とご飯」としっかり
相通ずるわけですが。

で、「がっかり力」の基礎はこの2つ、だっけ。

まずは、「あとづけの、がっかり」です。
すでに起こってしまったがっかりな現実に対して、いかに
がっかり感、という心理的ダメージを減らすことができるか、
という技術です。
 これは、がっかりな現実をどう受け取るか、という受け取り方
の問題です。

本田透「がっかり力」(講談社アフタヌーン新書)(2009.04)p20

まあこれがある向きによっては「あちこちオードリー」でも
さんざ議論された「キャッチマン」こと「ネタ受け取り人」
のスタンスに立てば立つほどダメージは限りなく少ない
(まあそこが責任を取る立場にない、ってことで危機回避を
そもそもしてるから、ダメージなんてない)ってロジックが
絡んでいるのである種絶望でもあり、希望にもなりうる皮肉の
パラドックスで出来上がっているのが「なんともはや」で、
だからこそそんな時にはやはり「あとづけの、がっかり」に
して客観視に努めるのは「メンタルファースト」においても
有効だったりするわけで。

もう一つはこれか。

もう一つのテクニックが、「さきばしりの、がっかり」です。
これは、何かを始める前に、「あらかじめ、がっかりしておく」
という高等技術です。
 もちろん、ただがっかりしているだけでは何も行動できません。
だからとりあえず後悔のないように可能なかぎりの努力はする
けれども、でも結果には過剰に期待しない、という心得ですね。

本田透「がっかり力」(講談社アフタヌーン新書)(2009.04)p23

あとはこの「がっかり力」を用いながら何に費やすことが
大事か、はこないだミトちゃんの夏休みでオードリー若林と
対談してた小薮一豊の「玉葱の芯」論とも相通じるところが
あるとは思いますが。

つまり、自分自身のもっとも大切な部分、絶対に譲っては
いけないことについては、どんなに酷(むご)い目に遭おうが
カリカリしないといかんのです。

本田透「がっかり力」(講談社アフタヌーン新書)(2009.04)p62

といふことで新庄が札幌ドームのホーム最終戦で「BIG BOSS」の
ユニフォームを脱いで来年は「SHINJO」で頑張る、というパフォー
マンスがお壊れたようですが、これも何かの矜恃があってこそ、
のパフォーマンスが「儀式」として必要だったんだろうな、
と普段から「がっかり力」を持っていると理解出来るわけで。

昨年の時点で同意出来た拾ったツイートのコメント、ってこれか。

マキシマ
@maximamax11
新庄監督は応援される選手・チームになるってことを
言いたいのだと思うけど、今のハムには大事だよなぁ。

応援されるチーム=強いだけでなく、人間性の部分も触れて
たしコンプラ意識もちゃんとやろうぜってことでしょ。
午後3:16 2021年11月4日

ヤフコメで同意出来た参考コメントはこのあたりか。

松本剛が首位打者を狙えるレベルに導くとはビックリしたよ。
そら毎年のようにこのようなタイトルを取れる選手が出てくるなら
苦労しないと思うけど、宇佐見や谷内も昨年より良くなったし、
若い選手なら清宮は一軍で起用したいレベルにはなってきた。
上川畑もしっかり経験積ませたし、石井も明らかに良くなっている。
前政権は内野がスッカスカだったけど、
一年で希望が湧いただけでもgood jobですよ。

もう一つはここを拾っておくか。

さすがファンを楽しませることに関しては超一流だよなぁ。
日ハムファンではないけど、ファンは楽しいシーズン
だったんだろうなと思う。
勝っても負けてもファンを楽しませるのがプロだからね。

他の球団もそういうところは見習った方がいいと思う。
高校野球じゃないんだから、勝てばいい、じゃない。
いかに勝つか、いかに負けるか。
それがプロ。

新庄は大したもんだと思う。

そしてこの「がっかり力」は福留の「偶然だぞ」や阪神タイガース
日本一後の見事なオチや山下大矢のアスキーアートなど、野球ネタの
「がっかり力」に満ちているのですが、多分プロ野球ネタも封印に
なりそうな気配のする中で例を挙げるのはここだけにしようかと。

いったい何度、代打・川藤のポップフライで試合終了、という負け
試合を見せられてきたことか。「川藤アホー」と何度神宮の外野で
叫んだことか。でもね、それが幸せでした。

本田透「がっかり力」(講談社アフタヌーン新書)(2009.04)p45

で、ここで哲学者の一文を挟んでおくくらいが適切かな。

 要するに、個性、というものは自然に伸びてくるものではなく、
当人の大変苦しいあがきからしか生まれてこず、誰だってそんな
苦しいことはしたくないのだから、あえてそうするのには当人に
それだけの事情があるからであり、その事情を他人がつくって
やることはできない(当人に悪意をもっている者が苦しめてやろう
と思ってやったことが、個性を伸ばすチャンスを与えたことになる、
ということはあるが)。

岸田秀「不惑の雑考」(文春文庫版)(1993)p85

ちゅうことで本来月別の記事数でいくとこれは200記事になる
ハズなのですが、一つミスリードでこさえてしまった派生記事を
今月一つ消しているのがカウントされていると思うので、これは
199回目の記事になると。まだまだ達成はなしよ、といふ「がっかり
力」は付いているのですが、そんな感じで次は本当の200記事目を
書こうとは思います。

やはり身につけておくべきは本田透「がっかり力」、でした。

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