【イギリス生活】ロンドンで暮らしてみて、マイノリティについて思うこと
こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。
2022年の夏からイギリスのロンドンに住んでいる弁護士です。
タイトルのとおり、これまで現地で暮らしてみて、マイノリティについて感じたことを書いてみたいと思います。
この種の話題は、客観的なデータとともに語るのは筋だと思うものの、個人的なエッセイと言うことでご容赦ください。
ロンドンで人種差別を受けたことがあるか?
冒頭に書いたとおり、ぼくは、2022年の夏にイギリスにやってきました。つまり、ロンドンに住み始めてもうすぐ1年10か月になりますが、実は、まだ差別らしい差別を受けたことはありません。
唯一思い当たること
2022年の秋に、当時通っていたロースクールの友人たちとパブで飲んだ帰りに、酔っぱらってふらつきながら交差点を横断したときに、車に轢かれかけたときのことです。
直進で入ってきた車がキーッと音を立ててぼくの前で急ブレーキをかけて止まり、ハッとして信号を見ると赤でした。ぼくが急いで道路を渡りきると、運転手はパワーウィンドウを開けて、「ファッキンエイジアン!」と怒鳴りながら走り去っていきました。
これまで、面と向かってそういう言葉を浴びせられたこともなかったので、事故に遭いかけたことも相まって、酔いはすっかり醒め、家に着くまで心臓の鼓動がずっと鳴っていたことを覚えています。まあ、今思うと、ぼくが赤信号を渡っていたのが原因なので、日本で同じことをやっても、「死ねおっさん!」と言われていただけのオチかもしれません。
ぼくがロンドンで経験したのは、本当にこれぐらいのマイルドなもので、SNSで聞くような強烈な差別というのはまだ経験していません。
マイノリティであることを感じる日々
とはいえ、ぼくが日本で暮らしていたときと感覚と、イギリスで暮らす感覚は、イコールではありません。言語の違いを差し引いても、ことあるごとに、自分は、イギリスではマイノリティなのだと実感します。
たとえば、この前、娘とおもちゃ屋さんに行ったとき、女の子の人形を見ていると、白人、黒人、褐色の肌の人形だけが置いてあり、東アジア系の人種を模した人形は置いてありませんでした。
ロンドンは世界的に見ても他民族、多国籍の都市ですが、それでも、日本人の割合はごくわずかです。日本人コミュニティに入り浸っているぼくですら、ひしひしと感じます。
そもそもイギリスのセンサスでは、日本人は、「その他アジア人」です。これは、他にはバングラデシュ人、インド人、パキスタン人、中国人で構成される「アジア」グループのいちカテゴリーです。
中国はまだしも、その他3つの国と一緒のグループになるのは、ちょっと違和感がないでしょうか。差別的な意味ではなく、文化も宗教も違うことを考えると、という意味です。ただ、センサスの分類に特別の意図があるわけでは無く、それぐらい東アジア人が少ないということなのだと思います。
マイノリティへの差別はないのか?
イギリスを含む欧州(特に西欧)の国々は、マイノリティの擁護に熱心であると一般的に言われており、実際に暮らしてみたぼくの感触としても、それは間違っていないと思います。
ただ、マイノリティへの差別がないかというと、そうではないと思います。もちろん、犯罪行為などの極端なものは法で規制できますが、より広い意味での「生きづらさ」を考えた場合、マイノリティの苦労はまだしばらく続くのだろうと感じています。
ローファームの就職活動
ロースクール(LLM)の生徒は、ほとんどが外国人であり、卒業後は元の国に戻る人もいますが、ぼくの周りだと、3分の1程度は、イギリスで働くためにロンドンに残って就職活動をしています。多くの知り合いは、無事に就職を決めていますが、残念ながら法律事務所のアソシエイトとして採用されたケースはあまり多くありません。
ついこの前、就職活動をしていたタイ出身の友人と話したのですが、それなりの規模以上のローファームは、採用の際に人種的なダイバーシティをかなり意識しているようです。
こう聞くとむしろマイノリティに優しいように思うかもしれませんが、友人いわく、彼らの考えるダイバーシティの主な対象は黒人であり、我々のような「その他アジア人」を採用する優先度は低いと感じたと言っていました。偶然にも、同じような話を韓国の友人からも聞いていたので、ちょっとショックを受けました。
真偽はともかく、全ての応募者が公平だと感じられる制度になるのは、まだもう少し先かもしれません。
犯罪者の人種的な偏り
ぼくは、通勤時の電車で駅構内に置いてあるフリーペーパーを読むことが多いです。犯罪に関する記事を読むたび、街中で見かける人種構成と比べて、犯罪者として取り上げられる人種に偏りがあると感じています。
これに関連する話として、近年の刑事司法に関する統計を見ると、一定の傾向が見てとれます。
当たり前ながら、個々人についての話をすれば、人種のみでその人の犯罪性向を決めるつけることは出来ません。また、人種それ自体ではなく、人種間で統計上の差がある経済状況こそが真なるファクターであるという反論もあり得ると思います。でも、それらを常に理性的に判断できるほど、多くの人は利口ではありません。
上記の表では、Populationの割合に対して、アジア人と黒人がStop and Searchを受ける割合がかなり高いです。
ぼくは幸いにも職質を受けたことはありませんが、ヘラヘラして何を考えているか分からないアジア人だと、周りの人から思われているときがあるかもしれません。
ロンドンで日本人として暮らすこと
ここまで色々と書きましたが、ぼくがマイノリティであることを噛みしめながら苦しんで生活しているかいうと、ちょっと違います。
これまで人生を振り返ってみる
色々な方のnoteを拝見すると山あり谷ありの人生を歩まれていることが多い気がします。それに比べるとぼくは、これまでの何の辛さもない人生を送ってきたように思います。
日本人の、男として、五体満足で、都市部で生まれて、大学まで行って、自身の性的指向に従って女性と結婚して、若干忙しいながらもお金には困らず生活していたわけです。考えてみると、おそろしいぐらいに「じゃない方」を経験したことがありません。
初めてマイノリティを経験する
その意味で、ロンドンでの生活は、マイノリティとしての立場で日常生活を送る初めての経験でした。
名古屋の入管収容施設でスリランカ人の女性が亡くなった事件は記憶に新しいと思います。ぼくは詳しい事情を知らないので、意見は言えません。ただ、日本にいるときに、なんとなく「外国人に関する大変な事件があったんだな」と思っていたぼくが、今はロンドンで、その外国人として暮らしているのです。
留学のメリットとして、「多様な価値観に触れられる」ことが、しばしば挙げられます。この言説をぼくなりに解釈すると、本来の自分とは異なる立場で社会を見られることも含まれるように思っています。そして、その経験は当然ながら、得難いものです。
ロンドンで暮らし続けられるか?
もっとも、ぼくは、所定の期間が過ぎれば日本に帰る立場にあります。その地位を捨てて、ロンドンに家を建てて、子供たちにこちらで教育を受けさせて、死んだあとは近くの墓地に埋葬されたいかというと、それは率直にNOです。
ぼくの仕事は、とても言葉が重要なので、その壁が大きいのが主な理由ですが、もし、英語がペラペラになったとしても、やはり迷うと思います。
ぼくが、今のマイノリティとしての生活を「得難い」経験などと言えるのは、それが一時的なものだからです。極論、ロンドンでの生活が嫌になれば、明日にでも飛行機を取って日本に戻れば、超マジョリティとしての生活を今すぐにでも送れます。
マイノリティであることをやめられない人たち
他方で、多くのマイノリティの人々は、自分の力ではその立場を脱することができません。そもそも、マイノリティであることもその人のアイデンティティの一部ですから、それを都合よく捨てられません。
例えば、ケニアの移民の二世として生まれた黒人の子供は、黒人であるとともにイギリス人です。ケニアに戻って暮らすことは文化の違いで苦しむかもしれませんし、白人としてイギリスで暮らすことは尚更できません。そして、イギリスに限らず、どの国でも同じような境遇にある人たちはいます。
ぼくはそのような立場になく、真の意味で彼らの生きづらさを体感することはできないです。できるとすれば、想像するぐらいでしょうか。でも、日本にいたままだと想像するきっかけすらなかったかもしれないことを考えると、ほぼ貯金を使い果たしそうなロンドンの生活にも意味があったのだろうと思えます。
おわりに
まとめると、ロンドンで暮らしてみて、マイノリティの立場を実感できてよかったよ、というありがちな結論になってしまいました。
そこに少しだけ、ぼくの感想を付け加えるとすれば、マイノリティであることをやめられない人の生きづらさについて気づきを得られたということでしょうか。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
このエントリーが留学について考えることの一助になれば嬉しいです。
X(Twitter)もやっています。
こちらから、フォローお願いします!
このほかにも、イギリスでの暮らしのあれこれを書いています。
よければ、ご覧ください!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?