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子どもの能力を伸ばすために、今すぐできる4つのこと #名著に学ぶ子育て[4]

以前、子どもが将来成功をおさめるには「非認知能力」がカギとなる、という記事を書きました。

「非認知能力」とは、粘り強さや誠実さ、自制心などといった「性格の強み」を指します。こういった気質を備えた子どもは、その後大学を卒業し、年収の高い職業につき、犯罪歴や離婚率が低いという研究結果が出ています。

では、どうすれば子どもの「非認知能力」を伸ばせるのでしょうか。

その答えに迫ったのが、この本。

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ポール・タフ著『私たちは子どもに何ができるのか―非認知能力を育み、格差に挑むー』です。

本書から学んだ非認知能力の伸ばし方について、私なりの解釈で解説します。

そもそも非認知能力とは

本書では、子どもの能力を大きく2つに分類しています。それは「認知能力」と「非認知能力」。

「認知能力」とは語彙力、読み書き、計算能力などといった従来の学力テストで計測が可能な力のこと。IQに親しい概念です。

一方「非認知能力」は粘り強さ、自制心、誠実さ、好奇心、楽観主義といった心理上の特質を指します。より平たく言うなら”性格の強み”や“気質”。

さまざまな研究の結果、子どもが成功をおさめるには認知能力よりも非認知能力のほうが重要だ、ということが示されています。

非認知能力は”環境”によって育まれる

「非認知能力は教えることができるスキルである」と考えるよりも、「非認知能力は子供をとりまく環境の産物である」と考えたほうがより正確であり、有益でもある。(P27)

非認知能力は、認知能力とはまったくの別物です。

「粘り強さをもちなさい」「誠実さとはこういうものだ」と子どもに言い聞かせたり、ドリルを解かせたりしても、その気質が備わることはありません。

重要なのは子どもをとりまく環境にあります。非認知能力が引き出される環境を整えることが先決です。

子供たちのやり抜く力やレジリエンスや自制心を高めたいと思うなら、最初に働きかけるべき場所は、子供自身ではない。環境なのである。(p.27)

ではどんな環境を整える必要があるのか、乳児期、幼児期、そして学童期以降の年代別に解説します。

私たちにできること①ストレスに対処する(乳児期)

生後まもない子どもにとって、親とのアタッチメント(愛着形成)が重要だというのは有名な話。

子どもが音を出したり泣いたりしたとき、親がすぐに反応し、あやしたり世話を焼いたりすることが子どもの健やかな成長に欠かせません。

いちばんの問題となる環境要因は、居住する建物ではなく、子供たちが経験する人間関係なのだ。つまり、周りの大人が、とくに子供たちがストレスを受けているときにどう対応するか、である。(p.32)

特に重要なのは、子どもがストレスを感じたり癇癪を起こしたりしたときの親の対応なのだそうです。

子供が瞬間的なストレスに対処するのを助け、怯えたり癇癪を起こしたりしたあとにおちつきを取り戻すのを手伝うことのできる親は、その後の子供のストレス対処能力に大いにプラスの影響を与える。(中略)次にストレスに満ちた状況になったとき、あるいは先々さまざまな危機に直面したときに、真価を発揮する。(p.33)

子どもがストレスを抱えたとき、親が厳しい態度や予測のつかないような対応をすると、のちのち子どもは困難な環境下に対応できなくなってしまうと書かれています。

逆に、親が温かく落ち着いた態度で対応していると、子どもはストレスに対処する方法を学んでいきます。ゆくゆくは、それが非認知能力であるところの粘り強さや自制心につながっていくのです。

私たちにできること②よい行動に着目する(幼児期)

乳児期に十分な非認知能力を育むことができず自制心を養えなかった子どもは、その後の園生活などで問題行動を繰り返すことが多いもの。

これに対し厳しい規律や罰則で子どもを縛りつけることは、問題の解決にならないどころか、かえって子どもとの対立を深め、問題行動を促進してしまう可能性もあるようです。

必要なのは、一貫性のある規律が保たれ、”よい行動が褒められる”という温かな環境です。

明確なルールがあり、一貫性のある規律が保たれ、悪い行動を罰するのでなく、よい行動に着目することができればーー子供たちは脅かされていると感じることもなく、建設的でない衝動をよりうまく自制することができる。(pp..70-71)

安全で安心して過ごせる環境があれば、子どもは徐々に自制心を身につけ、お友だちとうまく付き合い、課題などにも集中して取り組めるようになるそうです。

私たちにできること③自律性、有能感、関係性を整える(学童期以降)

子どもの学習に対するモチベーションを維持するには、短略的なインセンティブでは効果がないという研究結果が出ています。テストでいい点数を取ったらご褒美を与える、といったようなやり方では学習への意欲も成績も上がらないのです。

ここでカギを握るのが”内発的動機付け”。内発的動機付けとは内面的な楽しみや意義を動機として決断を下すことであり、人が自主的に行動する原動力になります。

本書によれば、内発的動機付けに必要な要素は「自律性」「有能感」「関係性(人とのつながり)」の3つ。具体的には次のような状態を指します。

・自律性:自分が選び、自分の意思で取り組んでいる実感がある
・有能感:能力を少し超える簡単でない課題に取り組み、成功体験をする
・関係性:親や教師から価値を認められ、尊重されていると感じる

この3つを促進する環境を作り出すことが、子どもの学習へのモチベーションを維持する近道なのだそうです。

私たちにできること④失敗をポジティブに捉える言葉がけ(学童期以降)

非認知能力とは性格の強みであり、心のありようでもあります。子どもが心のありよう敏感に学び取るのは、失敗に直面したときだと書かれています。

失敗が自分の能力への最後の審判だと思えば、その生徒はあきらめてしまい、学校から距離を置くだろう。だが、失敗は一時的なつまずきに過ぎず、学んだり改善したりするための貴重なチャンスであるというメッセージを受けとれば、挫折はその生徒をより勉強に打ち込ませる推進力になる。(p.105)

子どもが”失敗はむしろ成長のチャンスだ”と思えるためには、先に紹介した3つの環境要素(自律性、有能感、関係性)が不可欠。その上で、親が失敗をポジティブに捉えられる言葉がけができると効果的でしょう。

その一つの方法として、アメリカで行われた作文添削の研究が紹介されています。教師が生徒の作文を添削する際、単にフィードバックするだけでなく生徒に期待を寄せていることをメッセージに残したところ、生徒の作文へのモチベーションが上がり、作文の質も高まったのです。

表現そのものはいたってシンプルだった。「作文にコメントを書きこんだのは、きみに大いに期待しているから、そしてきみがそれに応えられると思ったからです」(p.115)

また、努力すれば能力は伸びること、失敗は改善できることなど、ポジティブなメッセージを愚直に伝えることも効果的です。

がんばれば知能は伸びるという、「しなやかな心」をつくるメッセージを取り込むと、生徒たちはより大きな課題、より難度の高い問題に取り組むようになる。(p.112)

子どもが失敗に直面したときこそ、親は子どもに寄り添い、温かい言葉で励ましてあげたいものですね。

もっと詳しく知りたいなら

非認知能力は子どもにとって、そして大人にとっても社会を生き抜く上で不可欠なスキルです。

本書の本来の趣旨は貧困や虐待などの逆境にさらされた子どもたちの非認知能力を伸ばすことにありますが、貧困でない家庭にとっても参考になる子育てのヒントが多く書かれています。

親として子どものためにできることを詳しく知りたいなら、ぜひご一読を。

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ポール・タフ 著/ 高山真由美 訳『私たちは子どもに何ができるのか―非認知能力を育み、格差に挑むー』

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