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新人作家が本を出すまで【上馬キリスト教会編】(前編)


みなさん、こんにちは。

遠山はいつも、このnoteでオリジナル漫画のアップと、twitter上で変なつぶやきしかしていません。このままでは狂気アカウントとしてしか認知されないため、たまには仕事している感じのエントリーを書こうと思います。


今回、担当させてもらっている作家さんが、初めて本を出すことになりました。自分がお声かけさせてもらって、作家になっていただいた方です。皆様、上馬キリスト教会ってご存知でしょうか。


実際のプロテスタント教会が運営するアカウントで、現在フォロワー7万人を超す大人気ぶり。運営主はまじめ担当とふざけ担当の2人。そんな彼らがこの度、講談社から本を出すまでの、ウラ話をお送りします。


上馬キリスト教会ファンはもちろん、出版にご興味がある方には、ちょっと参考になる記事かもしれません。いつもこのアカウントを見て頂けている方は、「結局何の仕事してるの?」と疑問を持たれている方もいるかと思います。そんな方は「たまには会社員やっているんだな」と思ってください。
始めから書きますので、少し長くなりますがご容赦ください。

※上馬キリスト教会のパートのみ読みたい方は、「奮起」の章以降をお読みください。

発端


話はさかのぼること、なんと2017年の夏。場所はとある広告制作会社。自分はそこの会社員として働いていました。昼休みにはスマホ片手に、Twitterまとめサイトを横目で見つつ、適当なものを機械的に口に運ぶ。


iphoneの小さい画面に映るのは、「上馬キリスト教会」の文字。

当時、上馬キリスト教会のつぶやきは、おもしろtweetとしてまとめサイトによく乗せられていたのだった。最初は、ただの暇つぶしとして見ている程度だったが、徐々に引用元になっていたtwitterアカウントも訪れるように。


通勤の行き帰りに見ては、日に日に好感度が上がっていく。運営主のこともある程度は知るようになっていた。そのとき、広告業界というまったく違う業界で、異なる業務をしているにも関わらず、「彼らの本が作れたら面白いだろうな」と思うようになっていた。


広告業界の中の業務では出版に関わることもあるが、自分のポジションでは接点の低いジャンルだった。すなわち、「やれたら面白いだろうな」と思ったところで、実現先のない話である。「いつかモルディブ行ってみたい」「イルカといっしょに泳いでみたい」「友人と起業出来たら、楽しいかもしれない」程度の、時々は頭に浮かび、冗談交じりに口にしてみるが、実際に行われることのないただの妄想であった。


転機

さて、その当時の自分は転職を考えていた。広告制作会社での業務も5年目に突入し、そろそろ次の仕事を探していた頃だった。このまま今の会社に居続けるか、違う会社でキャリアを積むか。


通常、新卒から3年目~6年目ぐらいは転機の時期である。同期もすでに数人が転職しており、さらなる大手に移動したり、海外留学したりと様々な形ながらやりたいことに注力している人ばかりだった。Facebookでは元同期の華やかな活躍を見聞きする。たまに同期と会うと、ネクストキャリアの話で持ち切りだ。次をどうするか?


ジャンルは様々で、口にのぼる言葉は異なるが、その声音が意味するところは同じだった。


「もっと自分のやりたいことをしたい」。


有名な広告会社の制作会社には、看板にひかれて様々な夢を抱いて新入社員が入ってくる。しかし、その実態やできることを知ると、途中で心折れてしまう人もいる。もちろん、ひたむきにその中で可動範囲を広げている人もいたが、新しい環境でチャレンジを試みる人もいる。


自分のやりたいことをする、というのは実に耳障りのいい言葉だが、実際にそれを追求するのは難しい。ぱっと思いついた発想があっても、リスクや現実的な問題が胸の中に沸き起こり、きらりとひらめいた欲求はすぐにその姿を消してしまう。そして、「世の中こんなもんだよね」といって、「それっぽく」生きるのだ。分かったような顔をして、胸にザリザリとした焦燥感と後悔を抱きながら。


しかし、自分にはそれができるのだろうか。


自分は、自分を生きられるかどうかの瀬戸際にいる。自分はどちら側の人間になるか。漠とした不安を常に抱え、正体のつかめない焦燥感を抱き、人の転職話に舞い上がったり急降下したり、うんうん苦しんだ。そして、決めた。


門をたたく


長い間うなったあげく、動くとなったら早かった。もともとフォローしていた編集者さんのFacebookで、出版エージェントの募集告知がシェアされているのを見つけていたのだ。


自分は究極的に、やりたいことをやる道を選択した。本は好きとは言え、出版や編集の経験はない。門前払いの可能性は高いが、断られたらそれまでである。とりあえず、門は一回ぐらい叩いてみた方がいい。開くかどうかは相手次第だが、どの門を叩くかどうかは自分で決めることだ。

門を叩きまくった結果、数回の面接を通じて、採用の連絡があった。叩いたら、開いてしまった。少し驚く。こうして、自分は出版エージェントとなった。


さて、出版エージェントという職業は、耳慣れない仕事である。一般的には編集者かと思われている。しかし、出版社にいる編集者とは異なる。作家のマネジメント会社であると言えば、多少分かりやすいだろうか。仕事内容は多岐にわたっている。


・新規作家の発掘(オファー、または作家側からの売り込み)
・会社の専属作家になってもらう
・一緒に書籍企画を立てる/企画書のブラッシュアップ
・書籍企画の出版権を出版社に売り込む
・出版社の編集者、作家とともに本を作る
・代理契約・交渉をする
・取材調整
・広報/宣伝、メディアへの売り込み

出版社ではないが、魅力的な作家を見出し、作家や編集者と並走して本作りをしている、というのがシンプルな説明になるだろうか。


奮起

さて、新しい会社に入って1カ月が経とうとしていた時に、ふっとあることを思い出した。「そういえば、上馬キリスト教会の本を作りたいと思っていたな」。


しかし、上馬キリスト教会のtweet内容に、出版社から引き合いがあったという投稿を見たことがあった。その投稿を見てから自分が出版エージェントになるまで、少し時間が経っているので、出版の話も進んでいるに違いない。そう思っていたら、こんな投稿があった。

・上馬キリスト教会のゆるいキリスト教入門書を出したい


ちょうど、年末に向けた来年の目標としての投稿だったと思う。これを見た時にはっと思った。「これは自分が行くべきではないか?」。前回声をかけた出版社ではダメになったのかもしれない。これはチャンスである。門をたたけ。


大至急、書いたこともないのに書籍企画を書いた。そしてすぐさま社内に営業し、あれやこれや説明した。「彼らは絶対に売れる。絶対に面白い」。売れると言えるマーケティング要因もあったが、面白いという確信が自分の中にあった。舌先三寸、いろいろ言ったが、最終的には自分が彼らに持っていた好感と純粋な興味が勝っていた。


情熱が勝ったのか企画の狙いがよかったのか、交渉して良いということになった。ガッツポーズ。ひとまず、相手先にメールを送ることにする。会社の実績や手掛けてきた本、会社と組むメリットを端的に伝え、かつ個人として相手にどれだけ興味があり、一緒にモノを作りたいと思うかを伝える。


はっきり言って、営業メールというものは受け手にとってうっとおしいものでもある。相手にメリットと関心、ちゃんとした会社であることが伝わらなければ、目を通してもらうことも難しい。上馬キリスト教会以外にも、複数人にラブコールを送ったことがあるが、まず会ってくれるところまでいかないことが多い。前向きに検討してもらえることも少ないうえ、さらにぜひ詳しくお話を、というところまでたどり着かないものだ。


2017年のクリスマスごろ、慎重に推敲を重ねたメールを送る。ばしゅん。あれだけ時間を考えて作ったメールなのに、送るのは一瞬なんて不思議だ。出した以上は待つしかない。はやる気持ちを抑え、スクリーンの前で時折、メールボックスを確認する。


門をたたく、ふたたび


クリスマスを少し過ぎ、今年もあと数日というころ、一通のメールが届く。

「メールありがとうございます。ぜひ、お話を聞かせてください」

飛びつくように、返信を書いた。2018年、年明けに会うスケジュールを設定する。そして年明け早々、上馬キリスト教会のある駒沢に社長とともに向かった。


そこは、ちいさな教会だった。「twitterに出てきたあそこだ・・・」。謎の感動に襲われる。そして、その扉の向こう側にはまじめ担当の方がいた。


どんな方が出てこられるのか、こちらとしても不安があったが、出迎えてくれたのは気さくなお二人である。メールでは好感触だったものの、会ってみてどう思われるかはわからない。切々とした思いをお伝えする。最終的には、あなた方と仕事がしたい以外には言っていなかったとは思うが、それでも伝える。


思いを吐き出したのち、どうか知らんと顔をうかがう。すると、あっさりとこう言われた。「ぜひ前向きに考えたいと思います。実は、以前に声掛けしてもらった出版の話がいくつもなくなってしまって」。


聞けば、すでにやはり複数社からアプローチがあり、企画会議にかけるというところまで行ったものの、結局ダメになったということであった。話が立ち消えになっていたので、こういった話は嬉しいと言っていただけた。


twitterを始めるようになったまでのお話、なぜこういった形で活動をしようと思ったのか、直接伺った。日本では仏教はともかく、それ以外の宗教に関しては、接するハードルが非常に高く思われている。もっと親しみやすく、楽しく接点を持って欲しい、とまじめ担当の横坂さんは語る。自分たちでできるうる範囲で、近寄りがたい空気の乗り越える方法はなにか?を試行錯誤したそうだ。


今では1ツイートで数千いいねが付くことも少なくないが、いいねが1つ付くだけでも大喜びしていた時代もあったらしい。その後、人気のタグにはチャレンジしたり、ネタ会議をしてコンテンツを作ったりしていた時代もあったらしい。今ではかなりコツをつかんできて、そこまで用意しなくても大丈夫になった、とふざけ担当者。


お話を聞いて、ぜひ出版に持って行きたいという気持ちがあらためて沸く。お二人は、自分たちの目標として聖☆おにいさんとマツコ会議、ドラクエに出たいと思っている、と笑いながら話してくれた。少なくとも、自分はそれの第一歩になれるようにしたい、と心から思った。



注:このように、フォロワーがたくさんいたり、面白い活動をしている方には出版社からお声がかかることが多い。ただし、出版社で最終的に出版できるかどうか決める、企画会議にかける必要がある。そこで話が止まってしまうことは、よくあることである。むしろ、ストレートに決まることの方が稀かもしれない。

詳細な条件や、契約の話をした結果、会社の所属作家になってもらえることになった。門をたたいた結果、ついにひらいたのだった。大きな安堵感を感じるとともに、ふたたび身に力を入れる。これは、最初の扉が開いたに過ぎない。書籍企画を立て、出版社に売り込まなくてはいけない。


話し合いを経て、これまで書いてきた投稿や読者のニーズを踏まえて、どういった企画が良いか、各項目まで細かく決める。新人作家の場合、著者の過去作の売れ行きという強力なバックアップがない。その分、どういったプロフィールや魅力を持っていて、書籍では何を書くのか企画書で伝えなくてはいけない。喧々諤々、横から上から叩いたうえで企画書を作っていく。


著者の想い、この本を出す意味とは何か?何を伝えたいと思っているのか?
もう一度、一緒に洗いなおして、見つめなおしてみる。「もっと気軽に、キリスト教に触れてほしい」。すべてはここから始まり、ここに終わる。企画を立てる行為は、著者の思いを見つめなおす行為でもある。手のひらに残った、希望とも呼べるものを企画に落とし込む。この作業は、あれだな、祈りに近いかもしれない、とどこかで思った。


注:この企画書作りは、出版を決めるために重要なものである。編集者に会って話したことより、最終的には企画書に書いてある内容で判断される。

次回、後篇ではいよいよ出版社への売り込み以降のお話となります。乞う、ご期待。

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実はチキン野郎でもあるので、記事が伸びていないと、地味に沈んでいます。まあ、やっぱり続けるんですけど。

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