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多元宇宙のうた

昨年、韓国の現代美術館でメディアアーティストのPeter Weibelの作品をみた。オーストリアのポストコンセプチュアルアーティスト、キュレーター、ニューメディア理論家である彼の作品には、バーチャルリアリティ、デジタルアート、メディアアートとしての音楽の歴史やビジュアル・アート、さらに作曲家、音楽家、建築家としての作品を考察し、その進化と可能性を描き出している。

彼の多元宇宙のうた(直訳)という作品が印象的だった。

体育館くらいの大きさの部屋に、大きなスクリーンがいくつも天井からぶら下がるように設置されている。映ってる映像は、下手すると、視力が落ちるんじゃないかってくらいサイケだ。嫌でもダイレクトに目に飛び込むようになっている。スピーカーもどこについているのかわからないが、それがノイズなのか「音楽」なのか、フォルテとかピアノとか、さまざまな強弱のある「音楽」が複数に再生され、右から、左から、上からシャワーのように降ってくるかと思えば下から地響きがしている。音という空気で纏われている、捕らわれているような感覚だった。

この音と空間がこの世のものであるのは確かな現実だった。そういう意味では写真のようで同時に、それはまるで宇宙だ。とも思った。わたしはそこに五分ほど捕らわれるように立っていた。まるで自分が写真の中にいるようだとも思った。

この作品は1980 年代後半に 2 年間蓄積したさまざまな商用ビデオ映像、写真、フィルム、デジタル特殊効果を組み合わせ、それらをリミックスして「オーディオビジュアル プルリバース」を作成した。the Korea times の記事には”ヴィデオ・アートの父とも呼ばれる、ビデオ アートの先見者であるナム ジュン パイクという韓国生まれのアメリカの現代美術家が同時期に作成した電子画像のサイケデリックなコラージュを思い起こさせる。”といわれている。

peter weibelは「通常、メディアアートは、アートの歴史の中で、イメージの媒体、世界を描写する表現の媒体として見られています」「しかし、私は別の立場をとっています。私は、メディアはすべての感覚器官の延長(エクステンション)であり、人工感覚器官です。そして、これらの器官によって、私たちは世界を受け取るだけでなく、世界を生み出します。」と言っている。

人口感覚器官という自分の身体の一部として英語でいうorganという言葉は彼にとっても私たちにとってもおそらくかなり重要で、現代社会や現代美術において、メディアアートというジャンルに対してクラフトなこと(たとえば工芸や手芸という)いわゆる「身体的」と言われるジャンルに分けられがちなところがある。それはやはり電子機器を使う時代を私たちはまたがってきたからこその感覚かもしれないと思う。

”身体的”とは、”身体的でない”とは。
工芸美術とメディアアートは決して同じものではない。

しかし、芸術は”身体の感覚器官の延長で、人工感覚器官を通し、またこれらの器官によって、私たちは世界を受け取るだけでなく、世界を生み出していく”のがアーティストだ。
と言われたような気がした。

表現にとらわれず、表現の向こう側を行く、行くことができるはずだと思った。自分の手の中にある多元な万華鏡を覗き、想像し、見えたものを受け取りそして自ら世界を生み出していくことが本当に出来るんじゃないか。と。

それがビデオであれ、写真であれ、誰もが繋がっていた臍の緒のように、ひろげて、ひらいて行き、内側から外へ、誰かの内なる領域に入り、繋がって行けるのだと、わたしも信じている。

"Normally, media art is seen in the history of art as a medium of images, as a medium of representation to depict the world," Weibel, who could not attend the press preview in person held early this month at the museum, said in a video message.

"But I have a different position: I say the media are extensions of all sensory organs, artificial sensory organs. And with these organs, we don't only receive the world, we also produce the world."

参考文献

https://m.koreatimes.co.kr/pages/article.amp.asp?newsIdx=346043

https://www.e-flux.com/announcements/511306/respectively-peter-weibel-art-as-an-act-of-cognition/

https://artreview.com/peter-weibel-artist-curator-and-advocate-of-media-art-1944-2023/

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