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最低賃金制度と情報不足〜高卒給与の問題

 高卒就職問題を研究しているtransactorlabです。田舎の高校で教員をしながら個人的に調査研究を行っております。実情を多くの方々に知っていただきたく、発信を続けております。

 さて、今回は最低賃金の話です。


(参考) 東洋経済ONLINEにこのような記事がありました。

「県別の最低賃金」はどう見ても矛盾だらけだー全国一律の最低賃金」は十分検討に値する」デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長 https://toyokeizai.net/articles/-/311887?page=3


 私が独自のプログラムを使って全国の公開高卒求人票を分析したところ、給与と休日数に関しては以下のようなことが浮かび上がってきました。

(1)高卒初任給は地域別最低賃金を基準に近い。

(2)月給が地域別最低賃金基準(最賃×7.25時間×その求人票記載の月平均労働日数)ギリギリの求人票が多い。求人事業者が緻密な計算をして法律ギリギリの設定をしているものが多い。

(3)給与は都会が高く、田舎は安い。しかし、休日数も都会が多く地方は少ないのはなぜだ。

 今の地域別最低賃金制度。これがあるからダメなんじゃないのか?いっそなくしてしまったほうがいいんじゃないだろうか。

 この頃そう思えてきました。タイトル上画像をご覧下さい。地位別最低賃金(時給)の最高額は東京都1013円。最低額は792円。平均は900円前後です。最低賃金×7.25時間×平均的な月平均労働日数21.4日で計算すると    

  東京都157,167円  最安地域122,888円  平均的地域139,635円

 東京都と最安地域との差は月あたり34,279円。みなさんどう思われますか。大きすぎるでしょうか?妥当でしょうか?私は大きすぎると思います。

 では、地域別最低賃金について、ちょっと勉強してみましょう。知っているようで実はよく知られていないこの制度。いったい何なんでしょうか。そして、最賃額は誰がどのようにして決めているのでしょうか。

○最低賃金法(昭和三十四年四月十五日)(法律第百三十七号)          第三十一回通常国会 第二次岸内閣 最低賃金法をここに公布する。   最低賃金法 第一章 総則 (目的) 第一条 この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 地域別最低賃金は、この法律に基づいて作られた制度であることがわかります。すでに現状がこの法律の目的から外れているのでは?という疑問が浮かんできます。

第二節 地域別最低賃金 (平一九法一二九・節名追加) (地域別最低賃金の原則) 第九条 賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障するため、地域別最低賃金(一定の地域ごとの最低賃金をいう。以下同じ。)は、あまねく全国各地域について決定されなければならない。 2 地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならない。 3 前項の労働者の生計費を考慮するに当たつては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする。(平一九法一二九・全改)

 平成20年7月1日「都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知 最低賃金法の一部を改正する法律の施行について」を読むと、最低賃金は昭和34年公布時点では全国一律だったが、昭和43年の一部方改正後、業種別・地域別の最低賃金が設定され、昭和51年に「地域別最低賃金」が全都道府県に適用されるようになった、とあります。

(地域別最低賃金の決定) 第十条 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の地域ごとに、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会(以下「最低賃金審議会」という。)の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域別最低賃金の決定をしなければならない。 2 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、前項の規定による最低賃金審議会の意見の提出があつた場合において、その意見により難いと認めるときは、理由を付して、最低賃金審議会に再審議を求めなければならない。 (平一九法一二九・全改)

 ちなみに労働局とはこういう組織です。(厚生労働省の組織図https://www.mhlw.go.jp/general/saiyo/kokka2/kokka2-kousei/guidep53-56.pdf)

 厚生労働省(本省)ー 地方支分部局 ー 地方厚生局と都道府県労働局

 都道府県労働局 ー 労働基準監督署と公共職業安定所

 つまり、地域ごとの最低賃金はその都道府県の労働局の局長さんが決めている、ということです。

算出方法は

(1)労働者の生計費 

(2)労働者の賃金 

(3)通常の事業の賃金支払能力 

 の3点について経済団体と労働団体との双方の意見を勘案して行われています。以上が最賃制度のあらましです。さて、では、時給792円という額は、この法律の目的「労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること」にかなっているでしょうか?「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう…」に労働市場を制御しているでしょうか?

 私の答えは「いいえ」です。現在の制度には次のような問題があり、早急に改善すべきだと私は思います。

(1)この額を基準にした月給では個人が健康で文化的な生活を営むには明らかに不足。地方の最賃額が低いが、公共交通機関が発達していない地域では自動車運転免許の取得および自分の通勤のための自動車を所有しなければ就労は困難。実際に地方の求人のほとんどは普通運転免許を条件に掲げている。地方では子どもに運転免許とクルマを用意するだけの経済的余裕のない家庭の子女は地元に就職させることが難しいのが現状。

 この問題と現在の地域別最低賃金制度は強い因果関係があります。

(2)「…事業の公正な競争の確保に資する…」についてもいかがなものでしょうか。「事業の公正な競争」の定義があいまいなため、最低賃金の決定に対して経済界の意向が濃く反映されやすいのです。よって労働者の権利を保護することを目的とした労働基準法の一部でありながら、現在の最低賃金は労働者ではなく雇用者の味方になっています。(ここでいう「現在」とは最近5年ぐらいの期間を指します)現実に、平成27年ごろから高卒有効求人倍率は急上昇し、令和2年度コロナ禍においても2.5倍近いなど、高止まりの状態にありますが、高卒初任給の平均額の伸びは非常に緩やかです。地域別最低賃金も上昇はしていますが、首都圏を除けば伸びはごくわずかです。「公正な競争」が確保され高卒労働者の福祉が保護されているとは言えません。

 求人事業者は当該地域の最低賃金額を参考に給与を策定します。地域労働局は地域の労働者の平均収入を参考に地域の最低賃金を算出します。レベルが低いもの同士がお互いを参考にして自分のあり方を決めている、そして若年労働者やパートや臨時の労働者が損をする、地方から若者が出て行く、地方はますます人が減り経済が縮小し…私にはこのような負のスパイラルが見えます。

 以上のように地域別最低賃金について深く考えてみました。いっそ、無くしてしまったほうがいいのではないか、などと考えたりもしましたが、いや、無くしたらいけません。アウト/セーフのラインは必要です。

  それに加え、「良い / あまり良くない」を誰でも簡単に判断できる情報が必要なのですよ。相場情報です。高卒就職市場にはそれがない。作りたくても材料になる情報を厚労省が出していない。

 最低賃金制度は大事です。しかし、相場情報がないために事業者はどうしてもそっちに寄っていきます。そして、最低賃金制度が悪者になる。

 相場情報がないことが、地域別最低賃金制度を悪者にしてしまっている

 これが今のところ私がたどり着いた結論です。

私のホームページで高卒求人の相場情報を公開しています。下のような求人票度数散布図を全国分用意しています。生徒の支援に、自社の求人条件の再検討に、今、自分が見ている求人票の評価に、様々な使い道がありますので、どうぞご活用ください。

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 長くなってしまいました。最後までお読みくださり感謝申し上げます。

 また、私の認識に間違いがあればご指導ください。



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