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『おいしいものには理由がある』番外編

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食に関係する生産現場のルポです。
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熊本県の南、多良木町にある那須酒造場を見学してきました

熊本県の南、多良木町にある那須酒造場を見学してきました

球磨焼酎という単語、聞いたことありますか? 球磨と書いて「くま」と読みますが、僕は正直「聞いたことはある気もするけど……」くらいの感覚で、まったくの無知でした。現地でいただいたパンフレットに

という具合に自分の知っている蔵元(or 焼酎)がいくつかあって「あれって球磨焼酎だったのか」と気づくような始末です。白状すると僕は焼酎にまったく詳しくないので、まったくの初歩の初歩からまとめていきます。ご存

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日本唯一、ジビエの競り市を見学した

日本唯一、ジビエの競り市を見学した

変わり続ける日本の食文化。「ジビエ」という単語も二十年前にはほとんど聞かなかったと思いますが、よく耳にするようになりました。その背景にあるのは深刻さを増す野生鳥獣による農林水産物の被害。農林水産省の統計によると平成29年度の被害額は164億円で、全体の6割を鹿と猪が占めます。鹿や猪に関しては捕獲後、食肉として利用することが推進されています。いわゆる「国産ジビエ」です。地域によってはアナグマやハクビ

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おいしいものには理由がある 番外編「蜜入り紅玉」

おいしいものには理由がある 番外編「蜜入り紅玉」

今年、日本を襲った台風15号、19号による農林水産関係の被害総額は1500億を超え、さらに増える見通しです。知人の農家、佐藤浩信さんの果樹園も大きな被害を受け、例えば収穫間近だったふじは九割が落ちてしまったそうです。そうしたなかで佐藤さんがリンゴをシードルに加工して販売する試みをはじめました。

僕が取材したのは2年前。佐藤さんはもともと福島で果樹農家を営んでいましたが、東日本大震災の影響で売上が

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フルーツと料理の可能性を考える

フルーツと料理の可能性を考える

先週(10月4日)、岩手県産の果物のPRを目的とした「いわて果実 ボヌールコース」の試食会に参加してきました。会場となったのは日本橋のフレンチレストランLa Paix(ラペ)。

きれいな写真と料理解説はコーディネートを担当したやまけんさんのブログを見たほうがいいか、と思います。正直、岩手とフルーツというのはイメージとしてあまり結びつきませんでしたが、結果として産地としてのポテンシャルを感じたイベ

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小岩井カブはめっちゃおいしい

小岩井カブはめっちゃおいしい

知人から小岩井カブというめずらしいカブを頂きました。岩手県の有名な種継農家、田村和大さんが育てたもの、だそう。

種継とはなんぞや、と思うかもしれませんが、野菜を扱っているとこの種の問題に行き着きます。今、現在、日本で流通している野菜はほぼすべて(といっていいでしょう)がF1品種という種苗メーカーが開発した一代交配種です。F1は形質や終了が安定しているので、例えばある時期に一気に収穫する、みたいな

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600日飼育の鶏でブイヨンをとってみた

600日飼育の鶏でブイヨンをとってみた

先週、山梨に行ってきたのですが、その途中で『たまご村 塩山店』という直売所に立ち寄りました。ここは平飼い、オーガニックの卵で有名な黒富士農場の直営店。

日本では入手困難な平飼い卵というだけでもすごいのですが、アニマルウェルフェアなどにも配慮した養鶏を行い、農林水産祭内閣総理大臣賞をはじめ様々な賞を受賞しているすごい農場です。

そこで『自然放牧鶏のチキン』(鶏とチキンが被ってますが)という鶏肉を

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都市農業について考えた

都市農業について考えた

都市農業とは「市街化区域内農地とその周辺で営まれる農業」と定義されています。

昔は住宅地のなかにもあった畑ですが、今ではすっかり見なくなりました。最初の転換点は昭和43年に新都市計画法という法律が制定され、都市部の農地は届け出さえすれば転用が可能になったこと。バブル期に入ると農地の宅地化がさらに進みます。平成3年以降は宅地化する農地に対して、固定資産税の宅地並み課税、相続税の納税猶予制度の不適用

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未来の食について考えた

未来の食について考えた

ここ数年、食×テクノロジーという分野が注目されています。インターネット、センシング技術、ディープラーニングなどの技術と食を組み合わせ、イノベーションを起こそうという動きです。3Dプリンター×食や植物性食材の開発などは日本よりも欧米地域で活発で、例えばamazonのような大企業が食関係のスタートアップに出資した、というような話がよく報じられていますね。

そうしたなか2018年11月の初旬にソニーが

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「OKOME COLLECTION2018」レポ

「OKOME COLLECTION2018」レポ

10月21日、銀座三越9Fで開かれた「OKOME COLLECTION」というイベントに行ってきました。

このイベントを企画したのは銀座三越に出店している米店、米屋彦太郎(山田屋本店)の秋沢毬衣さん。(参考、山田屋本店で米について考えた)イベントの狙いは一番おいしいお米を探したり、ランクをつけるのではなく、好みのお米を探してもらうこと。秋沢さんが平成生まれで、今年が平成最後の年ということに因んで

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カクキュー八丁味噌の蔵を見学してきました

カクキュー八丁味噌の蔵を見学してきました

八丁味噌は愛知らしさ、の代名詞的食品だ。味噌カツや味噌煮込みうどんのようないわゆる名古屋飯に使われるが、伝統的製法の八丁味噌を製造しているのは尾張名古屋ではなく、三河岡崎。そもそも八丁味噌という名前は岡崎城より西へ八町(約800m)離れた八丁村でつくられていたことに由来している。

現在、当時と同じ製法を守っているのは東海道を挟んだ二軒──カクキューとまるや八丁味噌の二軒。本物という言葉は好きでは

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時間がつくる甘さ〜杉浦みりんの愛桜本みりん〜

時間がつくる甘さ〜杉浦みりんの愛桜本みりん〜

今日はみりんの話なのですが、ちょっとややこしいので事前に少しだけ予備知識を。

みりんは日本料理の土台となる調味料です。砂糖は単純なショ糖の甘味ですが、みりんの甘味はブドウ糖など様々な糖がいくつもあわさった複雑な甘さなので、みりんの代わりに砂糖と酒で……というわけにはいきません。

みりんとして世の中に流通している調味料にはまず酒類の「本みりん」と非酒類の「みりん風調味料」「発酵調味料」という類似

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熊本のホロホロ鳥とドライエイジングあか牛経産牛のセミナーに行ってきました

熊本のホロホロ鳥とドライエイジングあか牛経産牛のセミナーに行ってきました

昨日、「九州食材のセミナー」に行ってきました。講師は流通ジャーナリストの山本謙治さん(通称、やまけんさん)。

やまけんさんは「月刊専門料理」などの専門誌でもお馴染みで、日本に「赤身肉」や「熟成肉」ブームを定着させた業界の有名人。農作物や生産物の流通コンサルティングのかたわら、ジャーナリストの立場で本も多数、出版されています。縁があって僕も以前、インタビューをしていただいたことがあります。

この

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豆味噌を深く知る〜中定商店の宝山味噌〜

豆味噌を深く知る〜中定商店の宝山味噌〜

 豆味噌は岡崎の八丁味噌が有名だが、海を挟んで向かい側の知多半島でもつくられている。岡崎は三河の国、知多半島は尾張の国で、別の国だったが食文化という点では共通する部分が多い。しかし、その豆味噌は八丁味噌とは別物で、知人の話では「両方知らないと豆味噌について知ったことにはならない」らしい。

 調べてみると知多半島には半田、常滑など醸造業の盛んな町が多い。なかでも武豊町の特産品は豆味噌とたまり醤油。

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白醤油を極めたら醤油ではなくなったという話〜日東醸造の白たまり〜

白醤油を極めたら醤油ではなくなったという話〜日東醸造の白たまり〜

 JAS規格で定められている醤油は五種類。
 濃口醤油は最も一般的な醤油で、生産量全体の84%(データはそれぞれ平成23年のもの)を占める。普通、醤油といえば濃口をさすが、土地によって味は微妙に異なり、九州に行くと甘くなったりする。
 次に生産量が多いのは薄口醤油。生産量は全体の12.6%である。薄口(JAS分類上は淡口)は吸地やうどんのつゆなど、色を濃くしたくない時に用いる。昔、関東では薄口醤油

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