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セキュアベース(安全基地)があるから挑戦できる、の実体験

”実務協業型”人事制度構築・導入支援を行うTrigger 代表の安松です。

人材開発・組織開発領域で昨今よく話題に上る「心理的安全性」ー「心理的安全性が高い組織はパフォーマンスが高い」。
Gooleの社内リサーチ「プロジェクト アリストテレス」が有名です。

この「心理的安全性」ですが、単に居心地が良いということとは別のことであると理解しています。リーダーがメンバーの安全基地(セキュアベース)となっていればこそ、メンバーはリスクをとったり挑戦できたりする。その結果、高い目標に挑戦しようという意欲やチームの一体感が生まれたり、創発によるイノベーションが生まれたりするもの。この「挑戦や創発が生まれる」ということこそ大事なのだと思います。

セキュアベースが難しい課題への挑戦や創発意欲の源泉になるということを、自分自身が体感した例について回想してみました。

「焦り」は仕事の敵。拠り所をつくり、焦りを除く。

私がマネージャーを務めるチームでは、新たに構築・導入した人事制度を、プロセス構築しながら運用するという方法で推進していました。人事制度刷新後のタスクとして、新制度の対象となる全従業員に、報酬通知書を発行し期日までに交付するというオペレーションがありました。
ところが、報酬を決めるために各部署から受け取るアサインメントの情報がカオス状態であることが直前に判明。発行が期日に間に合わなくなってしまいました。すぐさま全社に期日延伸のアナウンスは行いましたが、新人事制度の根幹となるオペレーションであるため、延伸期日は死守する必要性がありました。

この問題に対処するために、近しい部署・メンバーに協力を得ることとし、メンバーたちは業務の切り出しを始めたのですが、焦りのためか、いったい何が問題で、どうしてほしいと思っているのかが伝わらず、協力者も含めた全員にかえって不安が広がる、という状態になってしまいました。
状況を見ていた私自身も内心焦っていて、なんとか力技で進めようとしていたのですが、状況が悪化する一方であることを見るにつけ、ある時、自分の心の中に開き直りが起こりました。そして、皆さんに、あえて「1日何もしなくて良い」と伝えました。もちろんその間、私が何もしなかったわけではありません。業務構造の中で問題が起こっている個所を特定し、課題と対応方針をまとめて、絶対死守事項とそうでないものの切り分けを行いました。これらを1日落ち着いて整理し考え私の上長ともスタンスを固めた上で、翌日メンバー示したことにより、活動に1つの軸を置くことができたのだと思います。「これに沿ってやっていけばできるかもしれない」という安堵のムードが広がり、空気が変わったことが読み取れました。問題解決への具体的方策が生まれ、連携やコミュニケーションも見違えるように良くなりました。

全員が焦る気持ちに対して敢えていったん落ち着こうと声をかけたこと、組織のスタンスとして死守事項とそうでないものを示せたこと、それにより見通しを持てたこと。こういったことがメンバーの活動のセキュアベースになったのだと思います。プレッシャーは感じながらも、ゴールをクリアすることができました。

就任間もないリーダーの不安に寄り添う

以前勤めていた会社で、私の配下に、就任したてのチームリーダーがいました。一担当者からリーダーになった場合、そのチームのすべての仕事、すべてのメンバーの担当業務を詳細に熟知して就任するわけではないケースがほとんどだと思います。そうすると、チームの仕事の全容をどう把握して、課題解決をしながら、チームとしての成果に導いていくか、最初はまったく見当もつきません。とにかく目の前の事象に対応していくことで精いっぱい。彼もそんな状態にありました。

昨今の組織は、業務が専門化し、メンバー個々が自律して仕事を進める環境です。私自身も業務情報に熟知しているわけでもなく、明確な解を持っているわけでもありませんでしたが、彼のチームの仕事の棚卸を一緒にやってみることにしました。ゆっくりと質問を投げかけながら、彼自身の理解と、どうしたいか?を話してもらい、仕事のストラクチャーを1つ1つ、連関が見えるように書き表していきました。書き出しただけで状況が解決するわけではありません。すべての課題にとまではいきませんでしたが、いくつか重要なものについては、メンバーへのdirection方法なども話し合いました。

それから数日後。チームの状況には変化が生じていました。彼とメンバーの間でのコミュニケーションが図られ、仕事の分業と連携が進みました。彼自身も、リーダーとしての立ち位置を少しずつですが確立しはじめたようでした。

だいじょうぶ、と思えること

スイスにある世界有数のビジネススクール・IMDでリーダーシップと組織行動を研究する教授陣による著書『セキュアベース・リーダーシップ』では、世界中の企業幹部を対象とした調査を通じ、セキュアベース・リーダーの9つの特性を示しています。
(1)冷静でいること、(2)人として受け入れること、(3)可能性を見通すこと、(4)傾聴し質問すること、(5)力強いメッセージを発すること、(6)プラス面にフォーカスすること、(7)リスクをとるように促すこと、(8)内発的動機で動かすこと、(9)いつでも話せることを示すこと、だそうです。

上記の事例がこれらのどの要素に該当するか、考察はさておき、なんとなくわかります。なによりメンバーに、「私たちは大丈夫なんだ」と思ってもらえるための言葉と雰囲気・関わり方をリーダーが続けていることが大事であるということを体感しました。「私たちは大丈夫」=「自分たちならやれる」(自己効力感)なのだと思います。この「やれる感」が、プレッシャーの中でも挑戦や創発を作り出していく鍵なのではないか。そんなことを感じた出来事の話でした。

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