＂以心伝心＂は本当か

言葉を交わさずとも互いの心で通じ合う。
一見素敵で綺麗な言葉だが、私は声を大にして否定したい。

…言わなくても分かるだなんて、はっきり言って【幻想】だ。
『言葉にしなければ、相手には何も伝わらない』し、『言葉にしても、相手に正しく意図を受け取って貰う事は凄く難しい』のだ。

ましてや、こういったデジタルの文面上は尚更。

『デジタル化』で削ぎ落とされるもの

ここに驚くべきデータがある。
アナログ価値研究会によると、『デジタルの文字は、手書きで伝えた時よりも気持ちを伝えることが難しい』そうだ。…文面が全く同じ内容だったとしても。

──何故か。理由の１つに、『均一化される字形』というのがある。
デジタル文字には「クセ」が無い。当然ながら、誰が打っても同じ形の文字が画面上に出力される。
…最も「ミミズがのたうち回るようなクセ」もないので、「読み取る云々の前にまず何が書いてあるか読めねぇんだよ！」みたいな障害からは無縁となるメリットもなくはないのだけど……。

話を戻そう。
では、字形が均一化されてしまう事で何が起きるのか。
『温かみや感情が削ぎ落とされてしまう』のだ。
…いきなり情緒的な話に飛んだな、とか思ってはいけない。元より「伝える」という事柄には、情緒を多分に含んでいるものだ。

『文面』で削ぎ落とされるもの

では、削ぎ落とされる『温かみや感情』とは何だろうか？
ここで、更に切り口を大きくしてみよう。
「文字を介したやり取り」と「対面のやり取り」で比較してみると、対面より文字の方が意図を伝えるのがより難しくなる。
声の調子やトーン、身振り手振り、ちょっとした表情といった『行間』が無くなってしまう為だ。

削ぎ落とされる『温かみや感情』とは、『伝えたい内容以外の情報』『文字以外の要素』なのだ。
先のデジタル文字と手書き文字でいうなら、「字形のクセのある無し」に該当する。

以心伝心の幻想

私たちは、普段のコミュニケーション、対面のやり取りで、言葉以外の情報も含めて、その意図を判断している。
それゆえ、二次的な情報のない文面のみのやり取りでは、得てして互いの意図を読み違える事も多々ある。

以心伝心。「言葉や文字では言い尽くせない事柄を、第三言語で人から人へ伝える」という、本来の意味や考え方は興味深い。

けれど、この語を「分かってもらえて当然」という思い込みや言い訳に使っているならば、少し考えを改めた方がいいのかもしれない。

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