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デクレッシェンドとディミヌエンドは違う意味なのか

少し前のSNSで、楽譜の記号に関して書いている記事あり、その方は、自分は「デクレッシェンド」だと思っていたが、お子さんが「ディミヌエンド」と習ってきて混乱しているとのこと。

それに関しての返信を読んでみると、実にいろんな回答があって興味深かったのですが、意外なのは「デクレッシェンド」か「ディミヌエンド」のどちらかしか知らない、という方が多かったこと。

もちろん、音楽に日頃あまり触れていない方のコメントも多いからだと思いますが、コメント欄が混乱していました。どこから仕入れてきた情報なのかわからない謎めいた解釈もたくさんありました。

結論から言えば…いや、もしかしたら持論なのかもしれませんが、デクレッシェンドもディミヌエンドもざっくり言えば同じであると、まとめてしまって良いと思います。

音楽表現に用いられる用語にはなぜ同じような意味の言葉が複数あるのか。

その前にひとつ。楽譜に書かれる楽語に、staccato(スタッカート)という言葉があります(音符の上に・のようなドットを書き込む場合が多いです)。あまり楽譜を見る機会がない方でも、学校の音楽の授業で習ったのを覚えているかもしれません。

教科書的にはこの言葉「音を短く(切る)」と解説することが多く、「書いてある音の半分の長さにする」なんて謎めいた解釈が書かれているのも目にしたことがあるのですが、この記憶がその後もずっと後を引っ張ってしまい、スタッカートが出てくると何でもかんでも音を短くしてしまうことがかなり多いです。僕自身も学生の頃は深く考えもせず、スタッカートが出てきたら短く演奏していましたが、そんな時に全音符にスタッカートが付いている楽譜に出会い、そこで「この記号、短くというだけではないのかもしれない」と考えるようになりました。

確かに「音を短く」の解釈は根本的には間違っていませんが、どんな場面でも、どんな時代の音楽でも同じように演奏してしまうのは違います。スタッカートと書かれていてもそこまで短くする必要がない場合もとても多いです。なぜなら、スタッカートという言葉は元々「離す」「距離を取る」という意味があり、音楽においては音符同士がくっつかないように演奏する、という解釈から結果的に音が短くなった、と考えるのが最も自然なのです。

そしてさらには音がくっつかないように表現するのは(その場面において)なぜか、作曲者はなぜそうして欲しいのか、作曲者の頭の中にはどんな音楽が流れているのか。こうしたことを考え、演奏に反映させることが大切です。
元気よく跳ねるような場面なのか、一歩ずつ慎重に歩むのか、ライトの点滅のような演奏か、心臓の鼓動なのか。もしかしたら銃声かもしれません。
表現の可能性は無限にあります。

楽譜は限られたデータで誰もが共通に認識できるように作られているため、作曲者は自身のイメージをできるだけ誤解なく演奏者に伝えるよう「ある程度妥協して記号や文字を選択している」と考えられます。

では本題。デクレッシェンド(decrescendo)とディミヌエンド(diminuendo)の違いは何か。
これは楽典(音楽の教科書)や楽語辞典を調べるよりも「イタリア語辞典」をひいたほうが語源が理解できてわかりやすいです。音楽に使われる言葉の多くはイタリア語です。

decrescere = 減少する、低下する、縮小する
diminuire = 減らす、少なくする、縮小する、下げる、弱める、和らげる、痩せる、細くなる

デイリーコンサイス伊和・和伊辞典より

いかがでしょうか。ちなみにデクレッシェンドの「de(デ)」は「下降」「分離」「否定」「除去」の意味で、「de」を取ったクレッシェンド(crescendo)は「育つ」「成長する」という意味もあります。

ということなので、意味としてはほぼ同じということになり、クレッシェンドとデクレッシェンドは対になっている言葉だとわかります。「forget」と「unforget」みたいな関係です。

ですから、記号で書かれていたものをデクレッシェンド、ディミヌエンド、どちらで呼ぶかはその人次第ということになり、正解も不正解もありません。と、僕は解釈しています。

問題は、作曲者が同じ作品内で文字で2つを文字を書き分けている場合です。そうなってくると、何かイメージが違うのかもしれない、と思ったほうが良いです(気まぐれかもしれないし、楽譜を浄書する上で何かが起きたのかもしれませんが)。どう解釈するかは奏者次第ですし、より深い演奏をしたいのならば調べて研究する必要があるかもしれません。

ということで、楽譜の解釈は深掘りしても面白いですが、「〇〇である」と断定してしまうと窮屈な演奏になってしまうので、イメージを膨らませて自由に解釈することも時には大切です。楽しんで演奏しましょう。


荻原明(おぎわらあきら)

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