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“後伸び”の力をはぐくむ教育が、地方都市の未来を変える。 「ヤマガタデザイン株式会社」代表 山中さん対談 | 後編

「n’estate(ネステート)」の新たな拠点に追加される山形県鶴岡市の「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(ショウナイホテル スイデンテラス)」。今回は同ホテルを運営するヤマガタデザイン株式会社 代表の山中大介さんと「n’estate」プロジェクトリーダー櫻井の対談をお届けします。後編では、それぞれに父としての顔も持つふたりが、地方都市こそ教育を充実させるべき理由、子育て世代からみた地方でのくらしの魅力を語り合いました。


>プロフィール&前編の記事はこちら
“個”が自由に行き交うことで、地方都市はもっと面白くなる。

櫻井:ヤマガタデザインを創業して、今年で9年目。山形県の庄内エリアで事業を展開してきて、どんなところに地域のよさを実感しますか?

山中:まず庄内エリアは、日本の地方都市における典型的ないいところが全部揃っているんです。歴史文化でいうと、庄内藩の藩主である酒井家、いわゆるお殿様が今なお、住み続けていたり、出羽三山という山を信仰の対象とした山伏の修験道があったり、唯一無二のものがある。食においても海の幸、山の幸どちらもあって本当においしいし、日本ではじめてユネスコ食文化創造都市になった地域でもあるんですよ。

櫻井:地域の歴史や文化を身近に感じられるのはいいよね。あと、東京から飛行機で1時間半と意外と近いんだよね。

山中:冬季は一日に4便(3〜10月は5便)しかないけれどね(笑)。でも、そんなところも庄内エリアの面白いところだと思っていて。山形県も山形市内には新幹線が通っているし、隣接する新潟県や秋田県も地続きで繋がっているから、いろいろな文化が流れ込むんですよ。でも、庄内エリアにはそれがない。ある意味ガラパゴス的な、よくも悪くも都会かぶれしていないところも魅力的に感じますね。

櫻井:ヤマガタデザインは「スイデンテラス」をはじめとした観光、農業、人材、教育と数々の事業を通じて地域の活性化に取り組んでいるわけだけれど、今後どういった領域に力を入れていくのだろう?

山中:今取り組んでいるどの事業も、いろいろな人といろいろなところで出会えて、社会がいい方向に変わっていくことに貢献できている実感があります。だからビジネスをしていてとても楽しいし、成長させていくことに対してのモチベーションもある。でも、10年後、20年後に自分が何をやっているかって考えても、正直分からないですね。そのときに、いいと思ったことをやっているんじゃないかな。

櫻井:それもそうだよね。10年後には、地域の課題も変わっているだろうし。

山中:ただ唯一、教育の分野は今後も追求していきたい。教育というものが社会に与えられるインパクトはものすごく大きいと考えているので、将来的にはその一端を担える会社になりたいと思っています。
現在も「KIDS DOME SORAI(キッズドームソライ)」という児童教育施設を運営しているんだけれど、ここでは庄内藩校の致道館というところで古くから教えられてきた徂徠学そらいがくが掲げる「天性重視 個性伸長」がコンセプトの核になっています。

それこそ教育は正解があるものではないから、我々が会社としてある一定の力を以て社会に還元をしていくことも、ひとつの教育のかたち。教育環境を充実させて、社会で活躍できる人材を輩出することは、持続可能な地方都市を実現するためにとても重要です。

子どもの“気付き”を引き出すことで、広がる人生の選択肢。

櫻井:なるほどね。たしかに僕も子どもが生まれて、幼児期とか児童期の体験とか学びのあり方を大人がどう考え、施していくのか。それが、子どもの将来に大きく影響を与えるんだと実感することが増えたな。

山中:自分自身を振り返ると、大学まではずっと部活動に励んでいた典型的な体育会の学生だったので、ある意味すごく視野が狭かったと思っていて。それが社会人になってから「自分が常識だと思っていたことが常識じゃないんだ」「あれ、もしかして社会ってこういうことなんじゃない」みたいな気付きを得ることが多かった。思考のスイッチが切り替わるような瞬間を経験したんだよね。

そういう気付きの機会が、もっと小・中学生とか高校生とか早い段階であれば、より多くの選択肢を持つことができる。社会的な常識とされるものごとから自由になることでその子たちが活躍してくれれば、もっと社会の生産性も高まるだろうなと思っています。

櫻井:そういうのって定量的には測れないものだけれど、例えば「n’estate with kids」で「スイデンテラス」に1~2週間滞在してのびのびと過ごすだけでも、子どもたちにとってはものすごい体験価値になるよね。

山中:「n’estate with kids」は未就学児向けのプランだけれど、なんなら小中学校くらいまでは地方で過ごした方がいいと思っているんだよね。

これは教育に対する個人的な見解なんだけれど、人生って後伸びの方が本来は強いんですよ。子どものころに天才だって持て囃されている人よりも、やんちゃだったり目立たない子のほうが、大人になって急成長していることってあるじゃない?

櫻井:あるある。大人になってから「いつのまに、そんな立派になったの?」って。

山中:それは、今の学校教育に課題があって。学校では勉強ができる子をつくるのが教育じゃないですか。でも、これからの時代に必要なことって、学び続ける意欲を育むことだと思うんです。
勉強ができる子たちって、勉強をすることにゴールを設定してしまっているから、いざ社会に出たときに答えがないもの、自ら問いを立てて答えを出していくみたいなことが苦手なんだよね。

櫻井:なるほどね。

山中:その点、幼少期にのびのびと過ごして自分のモチベーション(の源泉)を見つけることができると、その子はどんな環境でもモチベーションをキープして、自ら学び続けて成長していくことができる。だから「n’estate with kids」で、都市部に暮らす子どもたちが地方の保育園に通って、全く違う価値観を持つ地方の子たちと触れ合う体験は、すごくいいことなんだと思います。

櫻井:そういう意味では、山中自身も子育てをしている真っ最中じゃない?  地方都市での子育てについて、いいところ、悪いところもふくめ、父・山中として思うことはありますか。

山中:これはもう、教育に対する考え方の違いなんだけれど、小学校からお受験させたい親御さんにとっては、庄内エリアには国立・私立の小学校もないし、学びの選択肢がないからそもそも合わないんだと思うんですよね。その点「キッズドームソライ」では、公教育以外の学びの選択肢をつくってあげたいとの想いから、フリースクールをつくるなどの取り組みはしているんですけれどね。

一方で、先ほど話したような“後伸び”の人間が強いと考えるのならば、少なくとも幼少期はこちらで過ごすほうがいい。夏は海に潜って魚と一緒に泳いだり、冬はスキーに行って雪道を滑ったり、春や秋といった収穫の季節には、畑で採れたての野菜をそのまま食べるとか、地方にはそういう体験が溢れているから、幼少期に子育てをするには適した環境なんじゃないかな。

櫻井:そうだね。僕もまさに現役の子育て世代なんだけれど、都市部って極端に言えば、ビルインの小さな保育園に登園して、お散歩カートに乗ってネコの額ほどの公園に行って遊ぶみたいなライフスタイルなんですよ。親にとって“便利”だからそこに通わせているだけで、それで子どもの体験や学びが左右されてしまうのはいかがなものかという疑問は日々感じているんです。

とはいえ、都市部に生活の基盤がある人にとって、くらしの利便性を捨てるのはなかなか難しいことだから。まさにそういう方々にこそ「n’estate」を利用してもらいたいです。その中で地方都市のくらしをイメージしてみたり、仕事のスタイルを少しずつ変えていったり。そうすることで、生活や人生が少しずつ拡張されていけばいいなと。その入り口として教育・保育というものが大きな動機になっていくんじゃないかな。

子どものために何かしてあげたい。本物の体験をさせてあげたい。でも、どんなことからはじめればいいのか分からない。そんな親御さんには必ず響くと思っています。

町ぐるみで子育てを応援する、地方ならではのあたたかさ。

山中:お子さんありきでくらしを見直してみるのも、いいよね。うちは今、古民家に住んでいるんだけれど、隣の家まで何十メートルと離れているから、どれだけ子どもたちがはしゃいでも、飛び跳ねても迷惑がかからないという安心感はあるかな。都市部って、ちょっとおしゃれなレストランで子どもが走り回ろうものなら、もうヤバいみたいな雰囲気になるじゃない。

櫻井:そもそも、子どもと一緒に入れないお店も多いしね。

山中:庄内で子育てをしていて感じたのは、周りのみんなが子どもに対して寛容なんですよ。むしろ店員さんが一緒に子どもをあやしてくれる。地方には子どもが少ないのもあるかもしれないけれど、子どもを大切にしようとしてくれる姿勢やあたたかさを親としても実感しますね。
うちの娘は、近所に仲良しのおばあちゃんがいて、姿が見えないなと思うと村の集会所のような場所に遊びに行っては、おばあちゃんたちからお菓子や食べものをもらって帰って来たりしている(笑)。

櫻井:いいね、完全に地域に溶け込んでるね。

山中:子どもだけじゃなくて、家族ぐるみでお世話になっています。朝起きてバルコニーを開けたら、農家さんのお裾分けで大量の枝豆が置いてあったり、別の日には郵便ボックスの上に猟師さんが捕ってきたイノシシの肉が置いてあったり。

櫻井:面白いね。一方で、地域のコミュニティがあるからこその苦労とかはなかった?  最初、馴染むまでに時間がかかったとか。

山中:町内会とかに入る必要はあるかもしれないけれど、最初に「n’estate」が展開していくような地方の“都市部”で、気を遣い過ぎる必要はないんじゃないかな。どちらかというと、自分で能動的にアクセスしてコミュニティをつくりに行ける。自衛自治の考え方がベースにあるから必要な情報共有はするけれど、別にマストではない。

櫻井:なるほどね。

山中:僕も仕事が立て込んでいるときは町内会に出れないことも多いけれど、村の人たちも頑張れって応援してくれます。ただ、年に数回の堰(用水路の)掃除とかには参加する。そこに泥がたまっちゃうと、水が流れないからね。そういうことは村の一員としてやりましょう、みたいな共通認識はあるかな。

櫻井:同じ地域で生きる人同士の互助みたいなね。

山中:逆に、今後もし「n’estate」が村の古民家を拠点にすることがあったとして、それを村の人たちがどのように扱うかは興味深いですね。たぶん、村の人たちとの共同運営になっていくじゃない?

櫻井:「n’estate」に入居する人と村の関係性、ということね。

山中:そう。村の人たちからすると、多拠点とか短期利用とか言われてもイメージが湧かないと思うんですよ。そんなかたちで施設が使われる前提がないから、町内のルールもない。でも、「n’estate」の利用者がどのように地域のコミュニティと関わっていくといいか一緒に決めましょうと相談すれば協力してくれると思うし、ウェルカムな村も比較的多いんじゃないかな。

櫻井:そういう意味では、庄内エリアは今回「スイデンテラス」というホテルに滞在するかたちではじめさせていただくので、ほどよい距離感から地域との関わりを持つことができそうだよね。
将来的には、空き家の活用とかにも取り組んでいきたいし、徐々に地域との関わりも深めながら「n’estate」の輪を広げていけたらいいなと思っています。まだまだ小さな取り組みだけれど、こうして社会を揺さぶっていくこと、変化をもたらしていくことは、きっと大きなうねりを生むよね!

今日は、ありがとう。 同期入社の山中と、こういったかたちで話しができてうれしかったよ!

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