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おやすみ、King。 Sweet dreams x


「酸素レベル下がってるって。」

遠方にいる叔母からの電話。祖父 (94) がちょっと危ないらしいっていう話だった。わたしは施設の近くに住んでるから、きのう車を飛ばして会いに行ったの。痩せ細った祖父の手を握りながら、わたしの母にそっくりの、ギリシャ彫刻みたいに美しい鼻梁 びりょうから鼻弓 びきゅうのラインをぼんやりひとりで眺めてた。まだ握力強いし、息が止まることはないから、もうちょっとだけ、生きるかな。

ザ・獅子座の祖父は、男気しかない寡黙で鷹揚 おうような King だった。茶道と華道を教える裕福な地主の家に生まれたけれど、ちょっと生い立ちが複雑で、本家で病気の前妻が亡くなるまで、隣町の家でたった一人で育てられたらしい。たぶん孤独な出自なんだろうけど、「寂しい」とか「悲しい」とかセンチメタルな言葉を口にしたことは1度もなかった。高校時代はボート部で沖に出てはタバコ吸ったり、「悪いことばっかりしてた」みたい (祖父の親友談。一体なにしてたんだろう?)。 当時、銭湯の番台の女性に好かれて特別に無料で入れてもらえるのに乗じて、男友達をみんなゾロゾロ引き連れて通い続けたら、銭湯側が「いい加減にしろ」みたいな事件になったこともあるらしい (祖父知り合い談)。

その後、GHQの農地改革で実家は没落するんだけど、インテリだった祖父は大阪で医師免許と博士号をとって、ど田舎の故郷に帰還するの。わたしの実家もあるこの地域は、今じゃ新築の家がどんどん立つ平和な住宅街になったけど、昔は山一つ越えたところにいわゆる「被差別部落」があってだいぶ荒れてたらしい。たとえば、実家と同じストリートの散髪屋さんのおばさんは、部落の悪口を陰で言っててリンチされて死んじゃったり、とかね。祖父は一切差別してなかったけど、部落出身の、いまでいう「半グレ」集団に「〇〇は差別主義者」っていう根も葉もない噂を流されたことがある。そんな時は警察も全然役に立たないから、もう「やるかやられるか」みたいな状況だったらしい。その噂を聞いた瞬間、祖父は迷わずカバンに手術用のメスを一本入れて、泣いて引き留める祖母を無視して、その集団のボスの家をたった一人で尋ねに行ったんだって。「話があるんや。」ボスと対峙して座る部屋には、何人も部下の半グレがいたんだけど、みんなが見てる前で畳の上にメスを置いて、ボスの目を見てはっきり言い放ったの。

「わしが差別した証拠があるんやったら、ここに出せ。それなら今わしはこれで腹を切って死ぬ。差別した証拠が出せへんのやったら、これでお前が腹切って死ね。どうや?」

証拠なんてあるわけもないボスは困って、懐柔策で美味しいご飯を祖父に振舞ったらしい。そこから何故か祖父は部落の人に好かれるようになって、病院にはこの地区の人がたくさん来るようになったし、警察が部落の揉め事を捌ききれない時は祖父のところに相談に来るようになった。祖父を慕ってくれてる土建屋のおっちゃんたちは、その日釣れたお魚とか今だにくれるし本当に愛されてたんだな、と思う。( 今はもう差別があった時代のことを知ってる人はとても少ないです。令和の日本は牧歌的で平和。) 

セブンスターの香り。アルファロメオの皮の質感。祖父に惚れて家まできちゃう野良猫の鳴き声。ぶちギレた時の鋭い眼光。寝室の日本刀。はっとするほど美しく無造作に生けられたお花。もうすぐ全部思い出になる。祖父の死が、わたしに昭和の終焉をはっきり告げるんだと思う。わたしは昭和を知らないけど、多分、無性に懐かしくなって泣いちゃう気がする。

おやすみ King
母に呼ばれてちゃんといいとこいくんだよ。
Sweet dreams x
♾️
Love


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