Day 0 - 「うつの発覚」

―2019年5月20日(月)16時頃―

「今まで真面目に頑張りすぎてたんでしょう。まず休みましょう」

そう目の前の医師から告げられて、「あぁやっぱりか」という気持ちと「まさか自分が」という気持ちが半々くらいで入り乱れていた。

診断書には「傷病名:抑うつ状態」というタイトルと「症状改善のため、1ヶ月程度の休養が必要であると判断致します。」という内容が簡素に書かれていた。

診断書ってこんなに簡単にいいんだろうかと思いながら、帰り際に薬局で処方してもらった「ミルタザピン」とかいう抗うつ薬を1週間分と、なぜか粗品でもらったタオルを無機質なグレーのビニール袋に突っ込んで帰宅した。

―朝―

土日明けの月曜日、いつも通りに一般的なサラリーマンらしく「会社に行かないと」と思って準備をした。歯を磨く、髭を剃る、シャワーを浴びる、ここまではいつものルーティーン。

いざ家を出ようと思って動こうとした。でも何故か、ただ靴を履いてそこにある玄関の扉一枚を開けることができなくなっていた。直感で「おかしい」と察した。

どうしても一歩が踏み出せないので、仕方なく会社にはお休みの連絡をした。自分の気持ちが整理できずに「発熱と頭痛で休む」と伝えていた。

休みの連絡を入れたあと、とりあえずベッドに横になった。眠いわけではなく、ただずっと「この気持ちはなんだ」というモヤモヤとの葛藤。体は鉛のように重くて全く動けなかった。

ベッドにただ横になること約2時間。正午を過ぎていた。体の重さも少し取れてきたので、このままではまずいと思いスマホでメンタルクリニックを探した。実は以前にもかかろうとした病院が銀座に新しく開院したらしく、なんとか気力を振り絞って電話。受付あるあるの無機質な会話よりも少し柔和なトーンで、受付の女性から午後診察の空き時間を教えていただいた。15:15頃なら空きがあるらしいので予約を入れた。そこで人生で初めて「心療内科」というのにかかることになった。

―病院にて―

新橋に程近い雑居ビルにそのクリニックはあった。「こんなところで大丈夫かなぁ」なんて思いながら、ふらつく頭と足でエレベーターを上がった。

クリニックの扉を開けると白を貴重にした真新しい空間が拡がっていた。受付で予約した名前を伝え、保険証を手渡すと、問診票を渡された。待合室で待っていたのは男性一人。20代後半くらいだろうか。少しうつむき加減で、「同じような悩みなのかなぁ」なんて思いながら問診票に記載を始めた。

さすがにいつもの健康診断で書き込むような、全部はい、ないしはいいえの選択肢は少なかった(当たり前だが)。心理面に関する項目が多数あった。中には出身を書く欄などもあり、「こんなことも書くのか」、なんて少し関心しながら記載をした。

かれこれ30分くらい待っていたと思う。院内のBGMが「リラックス」にカテゴライズされるようなまさにそのジャンルの音楽に少しだけ心が安らぐ。その間に男性、女性の患者が続々と受付に来ていた。傍から見たらメンタル的には全然問題無さそうな方も居た。(受け答えもはっきりしていたし、顔色も悪いようには見えなかった)

―問診―

男性の医師と、サポートの女性のスタッフがいる個室に呼ばれた。事前に書いた問診票をベースに色々お話をした。なぜ今日来ようと思ったのか、今までの仕事はどうだったのか、学生時代はどうだったのか、など。数ヶ月前までは睡眠時間が短くてもバリバリ動けて、色々アンテナ貼りながら頑張れてた時期もあったりしたので、それを伝えると「双極性障害かもしれない」と言われた。ただ明確な決め手にはならなかったのか、現段階での抑うつ状態を見て、一回薬を飲んでみましょうと促された。精神病の薬には言いしれぬ恐怖感があって、事前の問診では薬の服用の質問に「できれば避けたい」としたはずなのだが。そう思いつつも、薬で今の精神状態が良くなればいいかと思い、「わかりました」と答えた。あとは冒頭の通り、「とにかく何でも真面目にこなそうとやってきたのでしょう。一回ちゃんと休まないとダメです。」と言われた。

ただ「休む=休職」である。今までのサラリーマン人生、あるいは学生時代を振り返っても、風邪やインフルエンザ以外で「休み」をとったことが殆ど無い人生を過ごしてきた。有給休暇も、サラリーマン人生約10年で「両手に収まるくらいの日数」しかたぶんとっていない。

そんな今までの経緯から、「休職」という行為に対して後ろめたさと罪悪感が尋常じゃなかった。ましてや急成長中のスタートアップだし(僕のバックグラウンドは別のエントリーで書きます)、個人的に抱えていたトラブルなどもほっぽり出して休んでしまうことにとてつもない申し訳無さを感じていた。なので医師の「1ヶ月まず休みましょう」の提案に素直に「はい」と言えなかった。

「うーん休職かぁ」と思い悩みながらもじもじしていたら「会社と相談して決めても良いですよ」と言われた。それもありかなぁと思いながらも医師は「ただ今後のことを考えると、下手に中途半端に頑張るよりは今しっかり休んで回復されたほうが一番良いです。会社には、医者からどうしても休めと言われたって言ってください。何なら私(医師の名前)出してもらっていいですから」とまで言われたので、ちょっと悩みながらも「休職」という選択肢を選んだ。ちなみにメンタルだけではなく、内科観点からの検査もあるそうだ。本来採血しての検査なのだが、今日は看護師がいないので来週また来てもらって、そこで採血をしましょうと告げられた。

診察室を出ると心理カウンセリングの説明があった。受ける受けないは自由らしい。真っ白な紙に木の絵を書かされた。これで心理状態がわかるそうだ。「相変わらず絵下手だな」と思いながら、幹、枝、葉をざっくり書いて受付に提出した。そしてまた来週月曜に診察の予約を入れた。

ついでに書くと、お会計は9000円弱だった。診察料、次回の心理カウンセリング代、診断書代がそれぞれ3000円ほど。診断書はあの紙ペラ一枚でなんでそんなに高いんだと日本の医療制度を恨んだ。

―帰宅―

なんだかふわふわした気持ちで帰宅した。そして診断書と薬と対峙した。改めて自分が「うつだったんだ」と思うとショックが大きかった。

しばらく「あー」とか言いながら、ため息をついたりしてテーブルに突っ伏したり、ベッドで悶々としながら過ごした。朝ほどではないが体が重くて、なんとか動かせる腕の可動域でひたすら「うつ」「双極性障害」「ミルタザピン(薬)」みたいな言葉を数珠つなぎのようにひたすら調べていた。

気づいたら夜の22時頃だったと思う。この日はまだまともに食事をしていなかった。気力を振り絞って近所のスーパーで冷凍のパスタとサラダを買って帰った。食欲もないし、五感も鈍っていたりするので、パスタはやたらしょっぱさが目立って仕方なかった。

食事のあとも結局うつについてひたすら調べていた。調べすぎてだいたいどのページも見尽くした気がした。

いつの間にか日付は変わっていたと思う。いつものように床で寝てしまっていて、いつものように朝4時頃に目が覚めた。寝る前に飲むよう促された薬のことを思い出した。「しまった、忘れた」と、また罪悪感を感じながらも、どうしようもないので諦めた。そして這いつくばるようにしてベッドに移動して横になった。

発覚する前の兆候はこちらにまとめます。


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