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どんなスープも、あなたと。【ショートストーリー】

「なんだ、この不味いスープ」
私の夫になった人は、ガスパチョを一口飲んでそう言った。

新婚旅行で訪れたバルセロナ。
旅を満喫したい私と、観光地の人混みに疲れきった彼の会話が、徐々に冷えていく。

彼はスプーンを置いて、スマホを取りだした。
目の前に異国の風景が広がっているのに、SNSに夢中になるなんて。
意味がわからなくて、彼のことを現地の店員よりも他人のように感じる。

私、なんでこの人と結婚したんだっけ?

「新婚旅行は、いい思い出にしたかった」そんな言葉が、口から零れた。
「は?まだ5泊あるだろ。食事を一回はずしたくらいで、大袈裟だな」
「不味いなら、不味いって一緒に笑いたかった。あなたとは、そうやって生きて行きたい」

彼が、長いため息をつく。
「病めるときも、健やかなるときも、人混みでも、スープが不味くても?」
頷く私を、彼がまっすぐに見る。

「誓うよ」
夫は、私の手を取りそう言った。

ふたりの長い旅が今、はじまる。

お読み頂き、ありがとうございました。 読んでくれる方がいるだけで、めっちゃ嬉しいです!