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町中華のおばあちゃん

昼どき。昔ながらの町中華の暖簾をくぐると、ご案内待ちの先客のおばあちゃんがひとり。店員に「おふたり様ですか?」と聞かれる。親子に見えたのだろうか。ふたりの「あ、違います」が不意にシンクロしておばあちゃんと目が合う。少し恥ずかしくなる。

店員に「ご相席でも大丈夫ですか?」と聞かれる。おばあちゃんと僕がシンクロして「はい」と答える。人気店なのだろう。相席も仕方ない。

席に案内されるのを待つ間、足で床の具合を確かめると、清潔ながらも少しヌルヌルしている。年季の入ったヌルヌル。うまい店の証拠かもしれない、なんてことを考える。

さっきとは別の店員が来て「あそこのテーブルにどうぞ」とおばあちゃんが案内される。間髪を入れず「あ、どうぞ」と僕も同じテーブルに案内され、ふたりでひとつのテーブルに座ることに。

さて、どっちだろう。これはおふたり様なのか、相席なのか。

やがて店員が注文を取りに来る。ひとつのテーブルなので、当然のようにふたり同時に注文を聞かれる。

おばあちゃん「ラーメンと餃子のセット。あと半チャーハン」
僕「野菜炒め定食。ライスは半分でいいです」

つい、おばあちゃんのボディラインに目が行く。普通だ。むしろ痩せている。おばあちゃん大丈夫か。いけるのか。顔を覗き込むが、平然としている。いつもこの量なのだろうか。

やがて店員が料理を運んでくる。予想はしていたけど、ラーメン+餃子+半チャーハンセットはやはり当たり前のように僕の前に置かれた。僕は笑顔で料理をおばあちゃんの前にスライドさせる。

おばあちゃんは「ありがとうございます」と丁寧な笑顔を見せてくれた。「んん、おいしい」と言いながら食べるおばあちゃんを見て、糖質制限をしている自分が少しカッコ悪く思えた。

先に食べ終わった僕は、食べ続けているおばあちゃんを置いてレジに向かう。さて、どっちだろう?と考えながら。

「お会計はご一緒ですか?別々ですか?」

お二人様だった。

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