Tsuyoshi Nakayama

Tsuyoshi Nakayama

最近の記事

ほねほねザウルス

「がんばったら〇〇」 目の前のニンジンは人間を動かす原動力になる。 子供はいろいろなことにすぐ興味を持ち、いろいろなものをすぐに欲しがるもの。しかしわが息子は、なぜが物欲が少ない。もっと小さいころからずっとそう。すでに満たされているからとかそういうことでは恐らくなく、どうしてもこれが欲しい!という強い意思をあまり見せたことがない。 ある日息子に「ほねほねザウルスが欲しい」と言われた。どうしても欲しいと言われた。 なんだそれは。名前に漂う昭和感。超合金のロボットか何かか。

    • 母に学ぶ

      昭和50年代。クーラーのきいた涼しい友だちの家。冷たいカルピスとお菓子をいただきながら、友だちみんなでたっぷりファミコンで遊んだとある日。 夕焼けチャイムでしぶしぶ家に帰ると、玄関に出てきた母が、汗もかかず服がきれいなままの僕を見てひと言。 「もう一度遊びに行ってきなさい」 僕は、誰もいない薄暗い公園の砂場で、一人ででんぐり返しをしたりヘッドスライディングの練習をした。何度も。そしてたっぷり汗をかいてしっかり服を汚したあと、家に帰った。再び玄関に出てきた母が、優しく僕を

      • 開かない傘

        会社で置き傘が事実上禁止になった。 傘立てに放置された傘は処分しますよ、と。 所有者不明のみんなで使い回せるビニール傘で急な雨をしのいでいたのに。 傘シェアリング制度の終わり。困った。どうしよう。 同僚にモンベルの折り畳み傘を勧められた。 とにかく軽い、邪魔にならない。耐久性も撥水性も悪くない。と。 勧められるがまま、さっそく購入した。 おお、軽い。とにかく軽い。バッグに入れても気にならない。まったく邪魔にならない。耐久性もありそうだ。これはいい買い物をした。カラーバリエ

        • 町中華のおばあちゃん

          昼どき。昔ながらの町中華の暖簾をくぐると、ご案内待ちの先客のおばあちゃんがひとり。店員に「おふたり様ですか?」と聞かれる。親子に見えたのだろうか。ふたりの「あ、違います」が不意にシンクロしておばあちゃんと目が合う。少し恥ずかしくなる。 店員に「ご相席でも大丈夫ですか?」と聞かれる。おばあちゃんと僕がシンクロして「はい」と答える。人気店なのだろう。相席も仕方ない。 席に案内されるのを待つ間、足で床の具合を確かめると、清潔ながらも少しヌルヌルしている。年季の入ったヌルヌル。う

        ほねほねザウルス

          壊れたサンダルと養老の滝

          世界一の人口密度ってどんなだろう。 バングラデシュ行きを決めたのは、ただそれだけの理由だった。 どれだけ混み合っているんだろう。東京だってそれなりのはずだけど、街が、道が、店が、いったいどれだけの人で溢れかえっているんだろう。 一週間の有給休暇を取得し、バックパックを背負い、一人で首都・ダッカに向かった。 ダッカの街は、道という道が人とリキシャとバスとCNG(三輪自動車)で溢れかえっていた。インフラは未整備。無信号で無秩序。大渋滞が当たり前で、つねにクラクションと怒号が

          壊れたサンダルと養老の滝

          時計をつなぐ

          今どきの小学生は忙しい。昭和世代からしたら不憫に思えるほど、何かと時間に追われている。学校が終わったら友だちと公園で遊んで、夕焼けチャイムが鳴ったら家に帰る。というざっくりスケジュールのスタンダードはもう過去の話。 先日、普段はなかなか物欲を見せない10歳の息子が、腕時計が欲しいと言い出した。理由はふたつ。ひとつは外で遊んでいるときに帰る時間がわからないから、という理にかなったもの。もうひとつは、お父さんみたいに丈夫でかっこいい時計をつけてみたい、というアイデンティティの変

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          ネパール 母と二人旅の写真

          ネパール 母と二人旅の写真

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          28年前の約束

          母が泣いている。背中を向けていても泣いているのがわかる。泣いている母の姿を見たのはもうかなり前、僕がずっと若いころ、父の葬儀以来かもしれない。 母の手には、証明写真みたいに小さな父の写真がある。写真が小刻みに震えているのが見える。母の肩も震えている。この光景、どこかで見たな。あ、自分の結婚式だ。父の葬儀以来じゃなかったか。 28年前、僕はネパールにいた。初の海外。初の一人旅。日本円でたった1万円分だけ現金を握りしめ、汚いバックパックを背負い、徒歩で山に登り、ヒマラヤを見た

          28年前の約束