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ここに、小松菜奈がいた。今日は、僕らがいる。

はじめて『溺れるナイフ』という映画を観たのは大学3年生の頃。それまで小松菜奈という名前の女優さんがいるのは知っていた。正直、第一印象ではそこまで魅力的な俳優さんだと感じていなかったと記憶している。
けれど、『溺れるナイフ』を観てからその魅力を理解し始めた。ファンになったのだ。といっても相手はアイドルではない。握手会があるわけでもないし、サイン会があるわけでもない。だからファンといっても小松菜奈ちゃんが出ている映画やMVを観たり、写真を集めるという程度。それと併せて、いつか『溺れるナイフ』のロケ地に足を運びたいなんて想いも密かに抱いていた。

それから1年後、卒業旅行のシーズン。”学生は最後”というのにかこつけて海外旅行にでも行きたかったが、コロナの影響で断念。一方、その時期国内では
『Gotoトラベル』によって旅行や観光ムードではあった。
大学、高校、バイトの友人。同世代の仲間の多くは学生という身分が最後の年であった。僕は高校2年生の頃に仲良くしていた仲間と行く卒業旅行の行き先を『和歌山県にしよう』と提案した。友人はそこが『溺れるナイフ』のロケ地であることを後で知るのだが、文句も言わず付いて来てくれたのには感謝である。


とあるシーンで一瞬だけ映る場所。ここには菅田くんと重岡くんがいた。
ここは見覚えのある方もいいかな?

ロケ地へ行くって、いい。その場所に行くと、「ここにあの人たちがいたんだ」と
なかなか感動するものだ。映画好きの僕にとって、それが撮影された場所が旅の目的地になることはよくある。総じて、大学4年生の頃の卒業旅行はとても濃く、最高の思い出として残っている。



それから約3年ほど経過した昨年の12月。僕はもう一度、和歌山県を旅の目的地とする。『溺れるナイフ』のロケ地でどうしても行きたかった場所があるのだ。それが、『旅館あづまや』という場所。今更だがこの作品のあらすじを少し紹介する。

雑誌モデルとして中高生から絶大な支持を受けていた夏芽は、ある日突然、父の故郷の浮雲町に引っ越す事に。東京から遠く離れた田舎町に刺激を感じず、落ち込んでいたが、土地一帯を仕切る神主一族の末裔で跡取りの航一朗と出会い、強烈にひかれていく。彼も夏芽の美しさにひかれ、2人は気持ちを通わせるが、彼らの運命を変える出来事が起きる。

MOVIE WALKER PRESS



この引っ越す理由というのが、夏芽の父親が実家の旅館を継ぐことになるというもの。ここで登場する旅館は実在する旅館なのだ。それが『旅館あづまや』である。夏芽(小松菜奈ちゃん)は旅館の2階の端の部屋を自室として過ごすことになる。

一ファンである僕は、なんとしてもこの旅館に泊まりたかったのだ。もはや、小松菜奈ちゃんのファンというより『溺れるナイフ』のファンという感じ。この旅館の前の道路では重岡大毅くんが夏芽の弟とキャッチボールをするシーンが撮影されたり、旅館の玄関では小松菜奈ちゃんと重岡くんが会話をするシーンがあったりする。どうしてもこの映画の世界観に入り込みたかった。

とまあ、長くなってしまったが、昨年末にここへ宿泊してきた。実は僕の彼女も小松菜奈ちゃんが好きで、この映画も鑑賞済み。一緒に行くことには快諾してくれた。出発は12月22日の金曜日。仕事終わりだ。愛知県から和歌山県に入るには片道3時間半近くかかる。僕たちが出発する頃には22時を過ぎていたので、さすがに直接行くのはキツいということになり、一旦三重県の伊勢を越したあたりで一泊することにした。翌朝、寝坊をしてしまっては前日の夜に出発した意味がない。その日は、ホテル到着とともに就寝。

起床は7時半頃。まさかのキャリーケースが開かないというハプニングもありながら、なんとか和歌山へ向けて出発。でも、距離にして125キロ近くある。十分な睡眠をとって体力は回復したもののせっかくならどこかへ寄ってお昼を済ませて目的地へ向かうことにした。僕らが寄ったのは、三重県は熊野市という日本地図で見ればかなり下の方。

実はこの熊野市という場所には大学1年生の頃に訪れたことがあった。その話は別の機会にでもするとしよう。

国の天然記念物とされている「鬼ヶ城」は、波の侵食と数回の大地震で隆起した凝灰岩の大岩壁らしい。実際ここはすごかった。天気にも恵まれ、海の景色は日々の疲れを忘れさせてくれるような神秘的な顔をしていた。大岩壁も壮大で、地球の歴史と自然の力みたいなものがひしひしと伝わってきた。場所によっては結構危ないところもあるので、小さな子ども連れにはおすすめしない。でも、三重県の下の方に行く機会があれば是非一度は足を運んでほしいと思う。だれかに見せたい景色がまたひとつ増えた。

お昼。海の幸は美味しい。しっかり満腹になりました。


鬼ヶ城から見える町。

一部、危険な場所もあったのでそこへは彼女を置いて一人で行った。
それがこちら。危険に耐えながらも撮影してもらった。



さて、和歌山県に向けて出発。海沿いの道を走り続ける。卒業旅行のときも車で行ったのだが、懐かしい景色が目の前に広がる。あの頃となにか変わったかなと、一人で考えながら運転をする。ちなみに、運転のお供は霜降り明星のANNだ。行きは霜降り、帰りは佐久間さんを聴くというのが僕らのルール。そんなこんなで1時間半くらい運転すると、和歌山県へ。県境を通って最初にある街が新宮市という場所だ。卒業旅行で訪れたところ。先に紹介した場所以外でも、新宮市内では『溺れるナイフ』の撮影が行われていたみたい。今回は「おれはもう行ったことがある」という自分勝手極まりない都合で、新宮市内のロケ地は一ヶ所のみ巡った。それがここ。


上から2枚目の写真の反対方向にはこんな景色が広がる。

とりあえず車を泊めてぶらぶらしようと思ったのだが、この日は雪の予報も出ていたくらいで、とにかく寒くて、断念。ほんの数分で車内へ移動した。宿に行くには早すぎるということで、カフェへ寄ることに。僕らは本が好きで全国津々浦々、とまではいかないが個人で経営されているような本屋を巡ることにハマっている。「近くにあればいいな〜」という軽い気持ちで探してみると…
あるではないか。『Bookcafe kuju』。旧九重小学校をカフェ及びパン屋としてリノベーションして経営をしているらしい。山間にポツンとでてくるからびっくり。「こんなところに本当にあるのか?」とちょっと不安になりながらも車を走らせるとでてくる。ポツンと一軒家みているときのような驚きと感動。しかし、生憎その日は定休日だった…。ツイていない。でも、いい発見だった。また、和歌山県に足を運ぶ理由ができた。



そんなこんなしているうちに、太陽も沈みかけ、いい時間帯。山奥にある旅館なので、完全に沈んでしまってからでは危険だ。向かうことにした。こういう時に使うのは決まってグーグルマップだが、どうしてグーグルマップって危険な道を案内するんだろう。確かに、近道ではあるかもしれないけど、舗装されていない道を案内することも多い。これってあるあるな気がする。旅館まであと少しというところで、こんな場所を見つけた。

野球場だ。あまり人気のない場所だったが、毎週の土日はここで地元の野球チームが練習でもしているのだろうか。地方では特に少子高齢化が年々進行していて、ここも例外ではないはず。”いまは使われていない”なんて枕詞を置いて説明するのはなんだか悲しい。日も暮れ始めたせいか、なんともいえない気持ちになった。こういう田舎町にある少年野球チームって選手同士、密度の濃い時間を過ごすイメージがある。林遣都くんが主演の映画『バッテリー』を思い出した。あれこそ、僕のなかでの『THE少年野球』といった感じだ。

17時頃、宿に到着。日本最古の湯の峰温泉にある旅館あづまや。車を降りると、とても硫黄の香りが漂っていた。駐車場から宿までは近かった。そこには他にもいくつか旅館があった。クリスマスシーズンでもあるのでもう少し人がいるのかと思っていたけれど、あまり見かけなかった。
念願のロケ地。何年越しにひとつの目標というのか、やりたいことリストにチェックがついた瞬間。


これくらいの時間帯でこの場所が映るシーンがあったはず。夏芽が泣いて帰ってくるシーン。

チェックインをして館内の説明を受け、それから部屋に案内された。案内をしてくれたのはかなりご年配なのに髪色がオレンジのおじいさん。個性が溢れててすきになった。「ここって小松菜奈さんが撮影されていた旅館なんですよね?どんな感じでした?」って聴いてみたかったけど、また後にしよう、と思い部屋でゴロゴロ。運転の疲れが出てきて気づいたら畳の上で寝てしまっていた。ちなみに、部屋は1階だったので小松菜奈ちゃんが実際に使っていた部屋とは違う場所。

夕食は19時からお願いした。彼女に起こされてまだ寝起きの状態で夕食へ。お腹はぺこぺこだった。いわゆる旅館らしさ全開の夕食で、こういうとき食材や何の料理かわからないことが多い。もう大人なんだからそういう知識も付けないと、といつも思う。

これがとにかく美味しかった。撮り方は上手くない。

想像以上のボリュームで大満足。旅館の料理ってって有難いほどに本当に量が多い。全力で歓迎されている気分で心地もいい。ご当地のお酒も美味しかった。こういう旅館ってなぜか白いご飯が最後に出てくるから、前半戦は「これ、お腹いっぱいになるかな〜先に白飯欲しいな〜」と後になれば意味のないことで悩んだりもする。調べてみると、「先に白いご飯が欲しいです」と言えば、持ってきてくれるみたいだ。でも、本当のところの理由はきになる。あと、今回の旅で決意したことがある。それは、先にお風呂を済ませるということ。普段の生活だと、ご飯→お風呂、が習慣となっているため、今回の旅も例外なくご飯を先に済ませたわけだけど、食べ終わった後の満腹感と旅の疲れ、そこにアルコールが加わってお風呂なんて入れたものではない。部屋に戻って即爆睡だ。起きたら23時半。いくら旅館といってもこの時間にポツンとひとりで入るのは怖い。ちょっと後悔しながらもそのまま就寝した。



翌朝。前夜にアルコールを入れすぎたのか、疲れも相まって眠気が酷かった。もう少し寝たいところだったけど、朝食には時間がある。頑張って体を起こした。朝ごはんも贅沢なほどに豪華で多くて、美味であった。そして、満腹になり、眠気は増す。コンディションとしてはよくない。急いで露天風呂に行き、チェックインまでもう一睡眠。



9時45分、目覚める。ダッシュで準備。さっきよりよくなったと思う。チェックアウトの時間は15分後まで迫っている。まずい。急いでチェックアウト。と、忘れてはいけないのは、旅館の人に小松菜奈ちゃんのことを聞くことだ。オレンジの髪のおじいさんに聞いてみた。

僕「あの〜、ここって小松菜奈ちゃんが映画の撮影で来てましたよね?」

おじいさん「あ〜そうですね、小松菜奈”子”ちゃんね!僕が働き始める前かな!」

僕「…!そうですよね!ありがとうございます!」


ありがとうございますってなんだろう、と自分でも思ったが、小松菜奈子ちゃんと認識されているのが少し悲しかった。まあ、ご年齢的にもあまり詳しくないのだろう。仕方ない。でも、旅館も温泉もとにかく最高だった。温泉は正直もっとゆっくり入りたかった。温泉こそあづまやの売りなのに、堪能できなかった。でも、それを差し引いてもこの上ない感動と満足感を得られたことは間違いない。そして、旅行の夜はお酒を控え、夕食よりも前にお風呂に入るというのも学びになった。25歳で気づけたことはよかったと思う。

チェックアウトと支払いを済ませ、荷物を車に詰めたら、少しだけ散歩することにした。天気は快晴。二日目も天候に恵まれた。もう一度朝の旅館をパシャリ。


コウが夏芽を追いかけるシーン

ロケ地へ行くって、いい。ロケ地の魅力を語るつもりが、ただの旅の記録になってしまった。映画はフィクションだけど、映像にうつしだされる場所は実在するから、なんだか僕らの世界とも繋がっているように感じた。そして、役者の方々は間違いここにいて、短い時間だがこの街の空気を吸い、この街の人と会話をし、この場所から見える景色をみたのだ。東京に住んでいた頃は、あの人もこの東京という街のどこかにいるんだよね、と考えることはあったが、それよりもよっぽど現実味を感じられた。菜奈ちゃんと菅田くんは映画の共演では『溺れるナイフ』が2回目。映画の公開が2016年くらいだったはずだから、撮影は2014年と15年だったのかな。もう10年も前だ。二人は現実世界で、結婚することになる。僕らが旅館を訪れたときはクリスマスだったから、「もしかして二人が泊まりに来てたりするかもね〜」と彼女と話したりもした。

僕にとって、この旅は忘れられないものとなった。また訪れたい場所にもなった。すだななのお二人も同じように思ったりしているのかな。実はあれから一度くらい訪れたりしているのかな。きっかけは一本の映画。なんでもない僕たちが、遠い世界に住む大スターのお二人と少しだけ繋がっているような気がして、ちょっと嬉しかった。

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