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ブレンド 足跡 をつくる

「ブレンドコーヒー」というものに、どんなイメージがありますか。

ポジティブなところだと、「お店の顔」でしょうか。
そのお店の一番の自慢の味。
まずはこれを飲んで欲しい、というお店自身のアイデンティティのような。
あるいはどんな人にでも口に合いやすいように調合されたオールラウンダー的な存在。

ネガティブなところだと、「安上がり」でしょう。
珈琲屋以外、ファミレス含むその他の飲食店でのコーヒーは「ブレンド」という品名として記載されているところが多いので、安っぽく感じられます。
また、珈琲専門店でもブレンドはたいていシングルのコーヒーよりも安いです。

珈琲専門店以外の飲食店における「ブレンド」は、例えば大企業(飲料メーカー等)が卸用に大量生産しているコーヒーだからそもそも味に重きを置いていないとか、銘柄を明記しないことによってロスを最小限にするための「ブレンド」だとか、そういった背景があるのだと思います。

そして珈琲専門店のブレンドが安い理由は、様々あるでしょうけどひとつは店主の努力によるところだと思います。
ともすればブレンドは、古い豆や不味い豆を適当に混ぜて安くしているように思ってしまいますが(私はそう思っていました)、少なくともしっかりと味をあたって、自分の店の味だと胸を張れるものを、お客さんが飲みやすい価格で提供している。
イタリアでエスプレッソはどこでも1€で飲めるようにバールが経営努力をしている、というのと同じです。
まあお店によっては専門店でも雑に作っているところはあるとは思いますが…。


私は前者、お店の顔として、アイデンティティとしての珈琲を作ります。

以前ある方から「ブレンドは作りたい味のイメージを先に持ってから作り始める」と聞きました。
だから私はイメージを思い描きつつ、ブレンド名まで決めていました。

3日間かけて、とにかく求める風味になるかもしれない豆を、なるであろう焙煎度で、いろいろ焼いてみました。
豆自体は8種類ほどを候補にあげて、ひたすら配合を変えて抽出に次ぐ抽出、試飲に次ぐ試飲を繰り返しました。

これが、なかなかに悩ましく、難しく、苦しい作業でした。

この味とこの味を合わせたら、だいたいこうなるだろう、とあたりをつけて抽出してみるのですが、どうしたことか思う通りにいかないのです。
苦味や酸味が足し算のように増えるのか、掛け算のように混ざり合うのか、まあだいたいそうなるだろうと思うではないですか。
ところがどっこい全く予想だにしない風味や雑味が生まれてきたり、総量に占める割合がわずかであってもしっかり強く残ってしまったり。

ある意味、焙煎よりもストレスフルでした。
たぶん予め凡その予測を立ててそうなるだろうと思うものと、予測できないからとりあえずやってみようとするものの違いだと思いますが。

しかもネルドリップで抽出するので時間がかかるし、冷めてからの風味もとても大切だったので時間をかけて飲む必要もあったし、と。

結果、30パターンほど抽出して、候補の配合を3パターンほど選んで、さらに何回かデミタス量と通常量で抽出して、ひとつのパターンに決めました。

なんて苦労自慢をするようで格好悪いのですが、まあそう言いたくなるほどには大変でした。
世の珈琲屋さんは、そんな苦労をおくびにも出さずにしれっとブレンドを作ってしまうのだから、素直にすごいと思います。
とはいえ、ブレンドは私の中では「曖昧さ」が大切だとも思っています。
口に含んでみて「あ、これはあの豆が入っているなあ」と尻尾を掴めないくらい調和したひとつの珈琲になっているのが、ブレンドの理想です。
それはつまり、直感的に「これは美味い!!」という衝撃のようなものを内在していないことでもあって。
苦労して作ってもそういう衝撃を与えるものを目指せないのも少し残念なのですが。笑

ブレンド 足跡

ブレンド名は「足跡」とします。

そもそも名前をつけるお店とつけないお店がありますが、私はつける方向でいきたいと思います。
名は体を表す、といいますから。

以下、Instagramの抜粋です。

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おそらく「誰にでも飲みやすい」というタイプのブレンドではなく、作りたい風味のイメージを前提にした少し我の強いブレンドかもしれません。

深煎りと中深煎りのブレンドで、腰を落ち着けて何かをしたい時に邪魔をしない程度の静けさと、口に含むとしっかり存在感を放つ心強さをイメージしました。

甘い香りは香ばしいナッツ系か。
苦味はガツン、というよりグググッと。
背後にしっとりした果実味を。

アイスを前提にはしていませんでしたが、アイスにしても悪くなかったです。
深さと強さが生きています。


「綴」という名前を思いつく前の、店名の第一候補でした。
しかし「珈琲 足跡」というのはどうもしっくりこなくて決めきれないうちに「綴」という名が浮かんで、そちらにしたのです。
せっかく思い浮かんだ言葉なので、ブレンド名として残そうと密かに企んでいました。

足跡は自分の足元から後ろにずっと続いているものです。
振り返ってみると、まっすぐだったり曲がりくねったり、興奮気味に駆け足だったりうじうじ地団駄踏んでたり、他の誰とも違う足跡となって自分だけの道のりが残っているはずです。

そういう足跡を確認するのって、後ろ向きのようで、実はすごく前向きな作業だと思います。
少し弱って立ち止まってしまった時に、過去を振り返って自分の歩いてきた道のりを再確認するのは、もう一度前を向くため、歩き出すため。
そういう諦めない足掻く気持ちのようなものが宿っている気がしてなりません(「空の高さを知る蛙」です)。

下を向いたり後ろを振り返ったり、そういうニュアンスがネガティブで自分らしくて、そして後ろを振り返ったあとは必ず前を向く起点となるようなポジティブな願いも含めて、気に入ってました。
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ブレンドは何も考えないで、ただただボーッとする時とか、飲む人の邪魔をしない、神経を刺激しないものであってほしいです。

まだまだの出来かもしれませんが、少なくとも今の私が出来ることをやり尽くしました。
ブレンド第一号 足跡 です。

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