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ファッション業界で進むショールーミング化、OMOは本物か?

ネットショッピングの利用が加速し、以前にも増してそれぞれのライフスタイルに合った時間や場所で買い物ができるようになっています。その裏側ではお買い物体験の向上のため、様々な店舗側の工夫が存在しているようです。今回は、ショールーミング化の現状と店舗の取り組みについて、「ファッション販売」編集部の河波昌美さんにレポート頂きました。

ECの浸透で「待つこと」が許容されるように

新型コロナウイルス感染症の影響により長らく続いた外出自粛は、消費者の購買行動に大きな変化をもたらしました。社会的な背景として非接触・非対面への要請が高まり、ネットショッピングの急速な浸透とともに店舗での買い物客が減少しましたが、特にアパレル業界にとっては販売形態に大きな変化がありました。

このところ、店舗では在庫を持たず、商品サンプルだけを見せるショールーミングの導入が百貨店やショッピングモールなどの商業施設で進んでいます。もっとも、コロナ以前から、ショールーム型の店舗で予約生産方式を取る小規模アパレルは少しずつ出てきていました。しかし、当時は店に陳列されたサンプル商品を見て購入を決めると、その場でタブレット端末から注文を促される仕組みが今ほど浸透しておらず、通常の対面販売とは違う買い物体験にいささか戸惑いがありました。目の前に商品があるのに、今日は購入品を持ち帰れないのか……と、数日〜数週間後の配達を待ち遠しく思いながら、手ぶらで帰途についたものでした。

また、サンプル商品の見せ方も、各アパレルが自前の店舗に各々で自社商品を並べていることがほとんどで、いろいろ見たい場合は自分で何カ所も店舗を歩いて回るしかない状況でした。

しかし、コロナ禍で買い物を巡る環境は一変します。度重なる休業要請や時短営業、人々の外出自粛など、実店舗での買い物が物理的に困難な期間を経て、今ではネットショッピングがすっかり定着しています。外出しなくてもネット経由で様々な商品を見て回ることができ、営業時間を気にせず、自分のタイミングで欲しいものを注文すれば自宅に届けてもらえる。この便利さにすっかり慣れてしまった人も多いのではないでしょうか。そうなると、欲しいものを手に入れるには多少の配達時間が必要なことが前提となり、以前よりも待つことへの抵抗感が少なくなった感があります。

コロナ禍で変わった、店舗運営の在り方

消費者は配達までの時間を待つことに慣れたものの、やはり画面上だけでは商品のサイズ感や色のニュアンス等は分かりづらいものです。ネットで注文した商品が届いたら、思っていたよりも大きかったり、または小さかったり、色が画像イメージと違ったりなど、事前に実物を確認できないことによる弊害は残ります。

このように、ECにおける便利さ/不便さの体験を経て、行動制限の解除後、百貨店を中心にあちらこちらの店頭に立ち上がったショールーミングスペースに立ち寄ってみると、短時間で様々な商品との思わぬ出会いを楽しむことができ、コロナ以前にあったショールーム型の受注販売とは違う新鮮さがありました。

以前との違いは、企業もジャンルも横断して、様々な商品が一堂に会するキュレーション的な要素を持つショールーミングストアが増えたことかもしれません。注文品の配達を待つ時間は発生しますが、そのぶん、あちこち歩き回って商品を見なくても良いという、新たな価値が増したように感じます。

そして、ショールーミングストアであれば、在庫にスペースを取られることなく、コンパクトな空間に商品を陳列できるので、少しのスキマ時間でもお客が多くの品を見られる点も魅力です。利便性の高い立地ほど在庫のための広いスペースを取りづらいので、ショールーミングは理にかなった形態でしょう。また、この形態は何か購入したとしても商品は後日配送なので、その日、他の用事が控えている人にとっても、買い物による手荷物が増えないメリットがあります。その点からも、交通の便が良い立地にある商業施設にとって、ショールーミングは相性の良い店舗形態と言えます。

ひとつショールーミングの弱点を挙げるなら、その場で購入手続きまで完了してもらわないと、あとで買おう、と思ったまま顧客が離脱してしまう懸念があることでしょう。

そのため店舗側では、お客がその場でストレスなく購入手続きを完了できるように、登録無しで利用できる無料Wi-Fiを売り場に整えたり、店を出たあとでも離脱せず注文を完了してもらえるように特別クーポンを配布したりと、様々な工夫をしています。

以前はその場で購入品を持ち帰れないことへのもどかしさもありましたが、コロナ禍でキャッシュレス化が進んだためバッグも身軽に小型化しており、ショールーミングはむしろ“買い物をした荷物を持ち歩かなくていい”というメリットとして、新たに捉え直されているようにも感じます。

リアルとECの融合で生まれた、新しい買い物のかたち

ショールーミングの他にも、コロナ禍で急速に売上を伸ばすECと既存のリアル店舗が連携をした、新しい店の在り方が機能し始めています。

その好例が、コロナ禍を契機に発達した、店舗スタッフによるオンラインショップでの商品紹介やコーディネート提案です。ライブ配信による双方向コミュニケーションが可能なインスタライブ等で紹介されたアイテムは、紹介と同時にECで飛ぶように売れ、即日完売する物も多々目にします。これまでは、閉店時間になれば店頭スタッフと相談しながらの買い物はできなくなっていました。しかし、購買力のある層は仕事や家事などなにかと忙しいことも多く、買い物をしたくてもお店が開いている時間帯に行きづらい、という悩みも耳にします。

その点、インスタライブは夜8時や夜9時など、一日の終わりにホッと一息つける頃に始まります。そしてライブ配信のため、店頭と同じようにその場でスタッフに質問をすることもでき、EC経由で商品をその場で購入することもできるので、実質的に店の営業時間が拡張されたようなものと言って良いでしょう。これは、アパレル企業にとっても、顧客にとっても、メリットがあります。

また、オンライン接客により、販売スタッフは勤務エリアに限られることなく、活躍の場が一気に全国区に拡がりました個々の実績も数字で可視化されやすいため、販売スタッフのモチベーションアップにも繋がります。そして、ECで販売スタッフのコーディネートを見てファンになったお客が実店舗へ会いに行き、そのスタッフに対面で相談をしながら買い物をする、というOMO(オンラインとオフラインの融合)化も形成されてきています。

そのため、店舗の販売スタッフに対する評価制度の在り方も、OMOを持続的に成功させるために重要な観点となります。店頭での売上成績だけでなく、EC経由での売上も総合的に評価する仕組みを整えたアパレル企業に、今後は優秀な販売スタッフが集まるようになっていくのではないでしょうか。

店頭に在庫がなくてもネット連携で補完

EC売上が存在感を増すにつれ、実店舗とEC間で在庫データの一元化が進み、Web上で見つけた商品の店頭試着をそのまま画面から予約できるようになったり、ECで完売した商品をお客が自分で店舗在庫を検索して購入しに行ったり、ということが簡単にできるようになりました。あるいはその逆で、店頭で見た商品の欲しいサイズが売り切れていても、ECには在庫があり購入できることを店頭の販売スタッフが教えてくれるケースもあります。

このように、店頭で試着した商品をECサイト経由で購入する、EC経由で見つけた商品を店舗へ買いに行く、といった双方向の顧客の動きが一般化してきています。

以前であれば、店舗に在庫が無い場合、倉庫や在庫がある店舗から商品を取り寄せて、入荷次第連絡をし、顧客に来店してもらって購入、という流れが一般的でした。しかし、今は店頭に在庫がなければECから直接購入してもらう、あるいは店頭で直接Webから客注を受けて直送する、ということが普及しています。

多くのアパレル店舗では、かなりの数の在庫品を店舗のバックヤードに保管しており、店頭に出しきれていない在庫を常に抱えています。ECでは、そういった店舗のバックヤードに移動した商品も表示したままにできるので、お客が自分で検索して店舗在庫を掘り起こすこともでき、潜在的な機会損失を減らすことに繋がります。これまではお客側からは全く見えなかったバックヤード品が、ECとの連携によって可視化されたとも言えます。店舗の限られたスペースに陳列しきれない商品も、Web空間を通じて全てが常時陳列されているようなものです。それは同時に、店舗で過剰な“見えざる在庫”を持たなくても良いようになったとも解釈できるでしょう。

また、店舗販売とEC販売の垣根が無くなれば、欠品や顧客が迷っている等の理由から店頭で購入まで至らなかったケースでも、あとでECからも購入できますよ、とさりげなく案内することができます。そのように誘導することで、お客が店を出たあとでもEC経由で売上に繋がる可能性が残ります。

以前は、ECと直営店舗が連携していなかったこともあり、店頭で購入してもらえなければ店にとっては売り逃しとなりました。また、店舗には商品を見に来るだけで購入はネットショップ、という客は迷惑な存在として捉えられていた節があります。しかし、EC経由での買い物が定着し、OMOやショールーミングも普及した現在では、認識を変えていく必要性が増しています

この、新しい店の在り方が持続的に成功するためには、店舗とネットで売上を取り合わない構造であることが肝要です。リアル店舗とECのあいだを顧客がシームレスに動き回るようになった今、現場サイドにもOMOに対応した接客指針や評価システムを導入することで、ブランド全体として良好な顧客体験を作っていくことが重要になってきています。

店頭接客の一環として、iPadで自分のコーディネート投稿を見せながら着回しを提案。今、アパレルはこのような研修も取り入れています(「ファッション販売」2022年5月号より)

(文:「ファッション販売」編集部 河波昌美)

ファッション業界のOMO化は、企業と顧客の双方にメリットをもたらすWin-Winの関係で進化し続けているようです。ECと実店舗の在庫を一元管理する管理システムの導入や更なる向上、ショールーミングやライブ配信といった新たな顧客体験の創出、それに合わせた店舗スタッフの教育や新しい評価制度の構築など、これからもアパレル企業のニーズはますます拡がっていきそうです。そのようなニーズに対して、どんなソリューションやサービスが世の中に浸透していくのか、スタートアップ企業の動向も含めて今後も注目していきたいです。

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