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時間に支配されないための時間の捉え方「限りある時間の使い方」読みどころ紹介

なぜ、私たちは時間に追われてしまうのか?限られた時間をもっと効率よく使うにはどうすればいいのか? “時間の有効活用”という普遍的なテーマに対して、世の中にはタイムマネジメントに関する本がたくさん存在しますが、今回はそんな時間との向き合い方について新しい気づきを与えてくれる全米ベストセラー「限りある時間の使い方」をご紹介したいと思います。

時間との関係を再考し、本当に有効な時間の使い方を学ぶ

著者のオリバー・バークマン氏はイギリス全国紙ガーディアンの記者として、外国人記者クラブの若手ジャーナリスト賞などを受賞するほか、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルといったアメリカの有名紙にも記事を寄せる気鋭のライター。もともとはどうすれば時間とうまく付き合えるのか、ということから時間をコントロールしようといろんなことにチャレンジし、時間とお金を費やしてきた「生産性オタク」だったと言います。
1日を全部15分単位に区切って行動」したり、「25分間仕事をして5分間の休憩を挟んで」みたりと、さまざまなライフハックを駆使して生産性の向上を追求しますが、「どんなに時間を管理しても、タスクがゼロになることはない。何も心配事のない平穏な状態なんて、実現できるわけがない」と気づき、その事実を受け入れることで気持ちが楽になったそうです。
そして、「なぜこれらの方法が必然的に失敗するのか」という本質的な問題と向き合います。今まで駆使してきた、従来のタイムマネジメント術に見切りをつけ、時間との関係を再考する機会をもたらすのが本書のテーマ。著者はタイムマネジメントの本ではなく「時間をできるだけ有効に使うための本」だと述べています。

本書は根本的な時間の考え方から実用的なテクニックまでさまざまな角度で時間の使い方を指南していますが、今回は特におすすめの読みどころをいくつかピックアップしたいと思います。

生産性を追い求めるほど、不自由になっていく「効率化の罠」

著者は、人生に与えられた時間が80歳くらいまで生きると仮定しても4,000週間しかないことから、「時間をうまく使うことが人の最重要課題になるはずだ」と述べます。しかし、実際には多くの人が膨大な受信トレイ、長すぎるやることリストを前にして「もっとやるべきことがあるのではないかと」と焦り、どんどん増え続ける仕事を「限られた1日の長さになんとか押し込める」ことに必死になっていると言います。

そして、仕事で忙しいこと自体は悪くないものの、数々のタイムマネジメント論で語られている「1日のなかにもう少しだけ詰め込んでみよう。そうすればやることリストは片付き、安らかな心を手に入れられる」という前提そのものに疑問を呈します。なぜなら、多くのタスクをこなすほど周囲の期待値はさらに上がり、メールを早く返信するほどメールがさらに増えるなど、「どんなに高性能な生産性ツールを取り入れても、どんなにライフハックを駆使しても、時間はけっして余らない」、いわゆる「効率化の罠」に陥るからだと指摘します。また、効率化の罠は量だけでなく質にも影響し、些細なタスクを効率的に片付ければ片付けるほど、自分の人生にとって本当に重要なことがいつまでも先延ばしになってしまうとも述べています。

もう一つ、効率化の罠に潜む問題として挙げているのが、「便利さ」の誘惑です。著者は時間と手間を省くためのサービスはさまざまな業界に浸透しているものの、便利ツールで生み出された時間はすぐに別のやることリストで埋まってしまうため、便利さ=手軽さを選ぶことが常に最善策であるとは限らないと述べます。さらに、便利さを追求し過ぎると、自分が何をやりたいのか分からなくなったり、便利ではない部分にイライラしたりと、忙しい生活をこなすための「効率性や利便性」が生きる意味を損なっていることに触れ、「効率や便利さでは忙しさを解決できない」ことを指摘しています。

本書では自分ができることの限界を受け入れた上で、「やらないことをいかに選ぶか」という考え方が重要であると説いており、著者は哲学者など先人の教えを踏まえた上で、「タスクを上手に減らす3つの原則」を提唱しています。例えば、自分のための時間を確保しないと他のことに使ってしまい大事なことができなくなることから、他の予定が入らないように自分自身とのミーティングをスケジューリングしておくといった「まず自分の取り分をとっておく」こと。「進行中」の仕事を○個までと決めて制限すること。そして、人生の中でさほど重要ではないが「そこそこ面白い仕事のチャンスやまあまあ楽しい友人関係」などは限られた時間を最も食いつぶしている可能性のある「適度に魅力的な選択肢」であることから、断る決断の大切さについて紹介しています。

ちっぽけな自分を受け入れることで、時間の有意義な使い方は多様に広がる

著者は「現実世界でのあらゆる選択は、できるかもしれなかった無数の生き方を失うことに直結する。厳しいけれど、それが現実だ。現実逃避をやめて、喪失を受け入れることができれば、有害な先延ばしに陥らなくてすむ」と、生産性を追求して全てを手に入れようとするのではなく、何かを手放すことによって本当に大事なことだけに時間を使うことができるようになると説いています。

一方で、「本当に大事なことだけをする」という考え方には落とし穴もあると言います。例えば、「会社なんか今すぐ辞めて、援助活動をするか、宇宙飛行士になるべきじゃないのか。それができないなら、自分の人生には何の意味もない」という考え方のように、「あまりにも大きな理想を抱くと、人は動けなくなってしまう」ということです。つまり、社会を革命的に変えるようなことだけを重視した結果、親戚のお年寄りの世話をしたり、地域で花を植えるような活動には意味がないという考えにつながってしまう。このように、自分の存在を過大評価しすぎると、「「時間をうまく使う」ことのハードルがありえないほど高くなってしまう」と指摘しています。
著者は実際のところ、宇宙の膨大な時間の中で私たちの人生は無に近い点のようなものであり、「宇宙をへこませてやろう」と言い出した「スティーブ・ジョブズでさえ、見方によっては宇宙に何の影響も与えていない」と、例え話を挙げながら、宇宙的視点から見れば誰が何に時間を使おうと些細なことに過ぎないと述べます。

そして、「どんな仕事であれ、それが誰かの状況を少しでも良くするのであれば、人生を費やす価値はある」と、たとえ社会を変革できなくても、誰かに良い影響を与えることができるのであれば、それは学びのある価値であり、「今までくだらないと思っていたことが、本当はとても価値のあることだと気づくかもしれない」と説いています。「ちっぽけな自分を受け入れる」ことの真意は、限りある時間を有意義に使う方法が、今までよりもずっと多様になる可能性が開かれるということなのです。

忙しい日々に追われる中で、一度立ち止まりたい時におすすめの一冊

本書の終盤には、「人生を生きはじめるための5つの質問」という項目があり、「生活や仕事のなかで、ちょっとした不快に耐えるのがいやで、楽なほうに逃げている部分はないか?」などの本質的な問いを通して、自分が置かれた現実と向き合い、限られた時間をどう生きるのかを考えるきっかけがもらえます。

さらに「有限性を受け入れるための10のツール」と題して、限られた時間を有効に使うためのより実用的なテクニックを掲載しています。例えば、「重要なことをすべて成し遂げること」は難しく、必ず何かを捨てなければならないという前提から、うまく選択と集中をする方法として、「開放」と「固定」の2種類のやることリストを作ることを紹介しています。開放リストには抱えているタスクを全て突っ込んだ上で、「最大〇〇個」とあらかじめタスク数の上限を決めておいた固定リストに重要なタスクを移動させる。その上で、一つのタスクが終わるまでは決して別のタスクを追加しないようにすることで、集中して重要なことを多く達成できるようになると伝えています。またこの方法の補完的な戦略として「〇時までに必要なことを終わらせる」と時間制限を決めることで、より時間の制約を意識して賢く行動できるようになることも挙げています。

今回ご紹介した内容の他にも、「デジタルデトックスが失敗する理由」や「余暇を無駄にしない唯一の方法」「忍耐を身につける3つのルール」など、面白いテーマがたくさんありますので、興味を持った方はぜひ本書を手に取ってみてください

本書は時間という当たり前すぎる概念を捉え直した上で、大量のタスクを効率的にこなすタイムマネジメントではなく、本当にやるべき重要なことに集中するためのマインドと手法を学ぶことができます。もちろん、生産性の向上が欠かせない今の時代にタイムマネジメントは重要な役割を果たしますが、忙しい日々に追われる中で、人生の目的や目標を見失いがちな時や、一度立ち止まって自分と向き合いたい時に、本書は新たな気づきと発見をもたらしてくれるかもしれません。もっと時間を有効活用したいと考える全ての人におすすめの一冊です。


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