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【cinema】ユンヒへ

始まりは雪深い小樽。1人の高齢女性が手紙をポストへ投函する。深々と降り積もる雪。

「雪はいつ止むのかねぇ」
彼女がポツリと呟く。この言葉はこの後も何度か出てくるのだが、決してグチではなく、かといって願望でもなく。しかし何かに折り合いをつけるかのように繰り返される。

場所は韓国へと変わり。一人の女子高生がその手紙を受け取る。しかしその手紙は彼女に宛てられたものではない。彼女の母ユンヒへ書かれたものである。また、その手紙の主は前の高齢女性ではなく、その姪ジュンによるものだ。

これは結ばれることのなかった二人の女性ユンヒとジュンを再びつなぐ物語。20年以上音信不通だった二人が、ユンヒの娘セボム、ジュンの叔母マサコの半ば思いつきのような行動から再会を果たすまでを描く。それはそれは丁寧に、その出会うまでの過程を、二人がはなればなれになっていた時間を紡ぐかのように。二人が出会ってからは、スルリと、清々しく終わりへと向かう。

好きなシーンがいくつもある。中でも好きなのは、ハグのシーンだ。最初はマサコがジュンに呼びかけてするハグ。次にセボムが彼氏のギョンスと雪の中でするハグ。最後にユンヒが元夫とするハグ。それぞれに意味があって、どれもとても良くて、笑みを浮かべながら、また、涙ぐみながら、そのシーンを噛みしめた。

一番最初の叔母が姪に呼びかけて、ハグするシーンだが、自分の甥っ子(小学2年生)のことを思い出してしまった。彼が時折「ギューってしよ」と言うことがあるのだが、こないだウチに遊びに来ていた時、「おばちゃん、明日会社早いからもう今晩でお別れだね」と言ったら、「じゃ、ギューってしよ」と言って、しばらくハグして、なんとも言えない気持ちになった。手を繋いだりするのとはまた違う感覚。きっと彼はいつしかそんなこと言わなくなるけど、そうしたら、今度は私がマサコのようになれるといいなと思いつつ。

また、元夫が自分の再婚を告げにユンヒの家へ訪れ、彼が涙しながら報告するのをユンヒが宥めて抱きしめるシーン。ここもとても好きだった。今でも思い出しながら泣けてくる。私は彼の気持ちが痛いほどわかるし、ユンヒもわかっていた。この元夫婦はやっと分かりあえた、のかな…

私は小樽はおろか北海道へ訪れたことがないけども、どの景色もとても懐かしくなって、郷愁にかられた。ゲストハウス 、バー、カフェ、街角…
雪は溶けもしないし、空気はきっと冷たいのだろうけど、それでも温かく感じたのはなぜなのだろう…

いまやLGBTQのテーマを扱う映画は珍しくないのかもしれない。私もこれまで数々の作品を目にして、自分なりに考えてきた。声高に叫ぶもの、闘うもの、苦しくて苦しくてひたすら苦しいもの、コメディタッチに仕上げたもの、前向きになれるもの…

「ユンヒへ」がそのどれに当たるのかはわからないけれど、ユンヒとジュンの苦しさは互いの手紙の中では言葉にされているが、あとは彼女たちの表情で読みとるばかり。あまり多くは語られないけれど、彼女たちのその硬さから、どんなに辛い思いをしてきたかを私たちは理解していく。それを解きほぐすのが、叔母マサコであり、娘セボムなのだ。彼女たちに存在はまさに光。

英題は「Moonlight Winter」。真冬の月は冷たくもその光は彼女たちを精一杯照らして。

猫好きの方にも是非見ていただきたい映画です☺️

日本版ポスター
ユンヒの娘セボム
ジュンの叔母マサコ
セボムとギョンス。この彼氏もなんかよかった。

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