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「官能句会」を振り返って~ どんな句が詠まれ、どんな句が人気を集めたか?


6月27日放送に放送のBSフジ「タイプライターズ~物書きの世界~」に「女性のための官能俳句を読(詠)む夕べ」主催者としてリモート出演したことを記念して、「さっぽろ俳句倶楽部」では先日「官能句会」(夏雲システムを活用したオンライン句会)なるものを開催しました。

リモート出演の詳細は、こちらで書いています。

「官能句会」はひとり2句まで投句で、36名が参加、全69句が集まる句会となりました。

「官能俳句」の定義は特にしていなかったのですが、事前に、「女性のための官能俳句を読(詠)む夕べ」で使用したテキストを配布。そこには例句の他、「エロティシズムを感じさせる俳句の小道具」として、以下のような参考例を挙げていました。『俳句とエロス』(復本一郎)、『エロチシズム ~Series俳句世界 (1)』(金子兜太・夏石番矢・復本一郎編)などを参考図書としています。

・身体の部位……髪、肌、耳、唇、頬、眉、項、喉、手・指、腿、乳房、        陰、男根、髭、筋肉
・しぐさ……髪をかきあげる、髪を梳く、湯あみ、お酒を飲む、化粧、
身をそらす、息、脱ぐ、身に付ける
・季語……髪洗う、香水、寒紅、汗、帯、足袋、春ショール、日傘、手袋、姫始め、野遊び、薄氷
・メタファ……貝、白桃、薔薇、椿、夕顔、櫛、月、蛇

「官能=性愛行為」ばかりに傾かないように、甘い幻想を誘う句、リビドーを引き起こすモノを見る視点などを期待しての情報提供です。

実際に句会を進行していく中で多く出たのは、「詠むより、選んで選評を書くのが難しい」という声でした。

確かに……(笑)「妄想スイッチ」を発動して勢いで詠めても、冷静な頭で「選句」して更にそれを解釈して評を書くのは、「心理的ハードル」もあったりで、なかなかに難易度が高いかもしれません。それでも、皆さん楽しんでトライしてくださり、とても盛り上がりました^^

俳句には期せずして自分の一部がさらけ出されてしまうようなところがありますが、「官能句会」では普通の句会以上に「丸裸」にされてしまうような感覚を持つ人もいたかもしれませんね。それゆえ、この句会を通じて、さらに絆が深まったかも?(笑)「プライベート」かつ「密室」で扱うような内容を言葉にして人目に晒す……つくづく「物書き(俳人もその端くれ)」って業の深い生き物だと思います。

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では、実際に、どのような句が詠まれ、人気を得たか?具体的に見ていきましょう(特選2点、並選1点にて集計)。

11点句
短夜の鎖骨に棲まう白い蛇(優理子)
薄化粧して八日目の蝉になる(美髯)

10点句
洗い髪束ねる口に緋のリボン(悦子)

9点句
日雷愛しきひとの喉仏(悦子)
のうぜんかずらこの世の隅に絡み合ふ(千秋)
これきりと云へずに外す単足袋(祐)


直接的な性愛の場面を詠んだ句も散見される中で、上位になった句を見ると、場面を特定せず読み手に「想像させる」余地のある句が並んだなという印象です。行為による身体の刺激ではなく、言葉による脳への刺激から得る快感。そこに「官能句」を味わう愉しみがあるのかもしれません。

最高点句「短夜の鎖骨に棲まう白い蛇」と「薄化粧して八日目の蝉になる」は、共に「蛇」「蝉」と生き物をメタファとしながら、周囲に「短夜」「鎖骨」「白い」「薄化粧」「八日目」などの、官能を呼び起こす単語と組み合わせているという特徴がありました。とくに「八日目の蝉」は、交尾の後に命尽きることを暗示してもいて、「官能」と「死」との距離の近さを思わせます。

ちなみに、その他詠まれた生き物としては「心音や夏蝶触るる指の先」(昌秀)、「閨に満つ声に応ふか青葉木菟」(昼顔)、「惚けてなほ乳吸ふ夫や青葉木菟」(裕)、「掌の中の小鳥の震え合歓の夜」(眞紅)などがありました。「惚けてなほ~」や「掌の中の~」の句は、官能句縛りでなければ、いろいろな読みが可能な厚みのある句と思います。

10点句「洗い髪束ねる口に緋のリボン」、9点句「日雷愛しきひとの喉仏」は、「髪」「口」「喉仏」と身体の部位が詠まれた句という共通項がありました。11点句の「短夜の~」にも「鎖骨」の語が入っていますね。両句とも「緋のリボン」「日雷」という、鮮烈な映像を組み合わせている点も特徴でした。

やはり、エロティシズムを感じる小道具として「身体の部位」は外せないもの。その他、「ちりちりと足首疼く竜舌花」(詩想)、「熱源をたしかめる唇夏の宵」(春陽)、「ふとももの指跡あかし朝の雷」(月波)、「従順の証残りし髪洗ふ」(簫子)、「ピアスする臍にプールの水残る」(草民)、「さくらんぼ嬲り食ひせし舌ピアス」(正則)、「大夕立胸あらはなるワンピース」(紀宣)、「あらはなる白き背中に夏の月」(和奘)、「洗ひ髪はじめてみせる逢瀬かな」(春陽)など、多数ありました。

方向性としては、自身の身体感覚を写し取るタイプと、相手の体の一部を凝視して描くタイプに大きく分かれるでしょうか。挙げた中には「疼く」「嬲り」など、動詞そのもので性的な場面を彷彿させる句もありますが、全体として読むと、その動詞のどぎつさは薄まっています。

「竜舌花」という季語があることで俗に流れきらず詩的飛躍に舵を切る方向に向けたり、「舌ピアス」というクールな物で下五を着地させることで転換を図ったりなど、「俳句」として表現しようとする工夫があるからでしょう。

9点句は他に「のうぜんかずらこの世の隅に絡み合ふ」「これきりと云へずに外す単足袋」。前者は植物を詠み込んだ句、後者は「衣類」を詠んだ句。これらの小道具も、複数見られました。「濡れ髪の女ぼうたん愛でてをり」(英利子)、「子宮いま満潮となる仏桑花」(優理子)、「百日紅はだか湿ってはりついて」(雪晒)、「たをやかな薔薇に唇見つけたり」(昌秀)、「夏帯を解かれ目眩の渦にをり」(簫子)、「脱ぎすてたうすものは波夜半に漕ぐ」(月波)、「小糠雨傘を持たずに白浴衣」(美髯)などです。

花は女性のメタファとして働きますし、衣服に関しては「脱ぐ」「解く」という動作とセットで男女のむつごとを想像させる舞台装置となります。また、裸や衣服が「湿る」「濡れる」ことも、官能を引き起こすスイッチとなるようです。

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ここまでの分類に入らなかった注目句として、「かき氷初めて抱いたひとの肌」(和弘)、「君の汗流るるを眼の端で追う」(風里)、「揺れながら女を見てた冷奴」(義雄)、「夏恋のなごりのシーツ風そよぐ」(たかこ)、「惜しみなく女すわりや夏の岩」(凡夫)、「つま先をぬらりとぬいた蛇の衣」(雪晒)、「あなたからわたしを剥がす晩夏光」(秀子)なども。

純な恋テイストだったり、オノマトペで質感を出したり、健康的なエロスだったり、「見る」ことの快楽だったり、愛の衰退への感慨だったり……それぞれの感性が光りますね。

全体としては、時間設定が「夜」の句(明らかに書いてある、書いていなくてもそう思わせる)が多かったのも「官能句」縛りで詠んだことによる特徴でしょうか。明るい昼間よりは「夜の闇」に浮かんだり、聞こえたりする何かに妖艶さは宿りやすいのかもしれません。

花鳥諷詠だけではない、ディープな俳句の世界。思いつきで開催したイベントがテレビで取り上げられたことをきっかけに、より多くの方と俳句を楽しむきっかけになり嬉しかったです。

今回は「官能俳句」というところから発想して作句しましたが、あえて意識して詠まなくても言葉の不思議な作用で「官能」が醸し出される句というのもあるでしょう。俳句の「読み」の広がりの中に「官能」という要素が入ってくるのもまた、楽しい化学反応と言えるかもしれません。

ちなみに、この「官能句会」は好評だったので、今後も不定期で開催の予定。

Twitterでも開催情報流しますので、参加してみたい方は @yurikoseto をフォローしてくださいね。FBに「さっぽろ俳句倶楽部」のグループページもありますので、こちらに参加ご希望の方は、メッセージを添えてお友達申請してくだされば、ご招待いたします。(普通の句会も随時やってます♪)

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