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子ども時代の読書が鮮やかによみがえる…映画『ストーリー・オブ・マイライフ』

いまや毎日の生活に欠かせない存在になっている、動画配信サイトであるが、ふとトップ画面を見たら劇場公開で見逃してしまった『ストーリー・オブ・マイライフ』を発見!興奮して心の中で歓声をあげながら再生ボタンを押した。

副題「わたしの若草物語」とあるように、1868年にアメリカの作家オルコットの書いた自伝的小説『若草物語』が原作である。長女のメグ、作家志望で男の子みたいなジョー、優しく恥ずかしがり屋のベス、末っ子でちょっとわがままなエイミーのマーチ家の4姉妹が織りなす物語は子どもの頃に夢中で読んだ記憶がある。

若草物語は何度も映像化舞台化されているようだが、私は本作品がはじめてだった。長女のメグをエマ・ワトソン、主人公のジョーにシアーシャ・ローナン。伯母役がメリル・ストリープというのも豪華なキャスティングだ。でも、愛読した思い入れのある作品というものは、映像化されてみると自分の想像と違っていて不満を感じてしまうことはよくあることだ。

私は4姉妹の母親のミセス・マーチがイメージと違っていてがっかりした。信仰心厚く、従軍牧師の夫の留守を守るだけでなく、近くにすむ貧しい一家の世話にも心を配る、強さと慈愛にあふれた母親として幼い私の心に理想的な人物として強い印象を与えた。だから映画冒頭で娘たちとのにぎやかなシーンで登場した時は、「えっこれがお母さま?もっと物静かなイメージだけど」と思ってしまった。でも、物語が進むにつれて納得していったから不思議だ。

短気ですぐカッとなることで、失敗が多いジョーをお母さまがなぐさめる場面がある。

「私って最低。何かやらかすたびに後悔してノートに書くのに。全然成長しない。すぐカッとなるし。」

「私にそっくりよ。本当は短気なのよ。でも、40年近く努力して、怒りを制御できるようになったの。」

そうそう、この場面はずっと心に残っていた。私はジョーと同じですぐにカッとなって我慢できなくなることがあるけれど、大人になったらお母さまみたいな女性になれるのかな、となんだか信じられないような気持ちで読んだし、その後も怒りに支配された時に、ふと思い出したりもした。最初から誰でも完璧というわけではないんだな、お母さまも娘たちを育てながら少しずつ成熟した大人になっていったんだ、今の私にはそれがよくわかった。

子どもの頃に読んだ本というのはなぜこんなにも鮮やかな印象を残しているのだろう。映画を見ながら、たくさんの場面が自分の中で今も鮮やかさを失っていないことに本当に驚いた。

エミリーが学校で先生に罰としてムチで手を打たれたこと、舞踏会に出かけたジョーがスカートの後ろの焼け焦げを隠して壁際でじっとしていたこと、ローリーの家でたくさんの蔵書を読めることに喜んだこと、ベスと気難しいローレンスさんの静かな心の交流、自慢の髪をお金に替えて泣いているジョー。全部全部くっきり覚えていた。

子どもの頃の読書は2度と得られない濃密な読書体験であることを改めて感じた。逆に、子どもの時にはわからなかったことが大人になった今わかることもあって面白い。意図したわけではないけれど、子どもの時に読んだ本が自分の財産になるというのは、こういうことなのかな、と思った。

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