見出し画像

GENからJIENへ      


みなさま、こんにちは。

2014年にイタリアで創業し、食文化教育ベンチャーとして出発したGENも今年ではや9年目となりました。代表の齋藤由佳子です。コロナ禍で住んでいるイタリアとの行き来もままならない時期も乗り越え、株式会社GENJapanとしても7年目を迎えることができ、皆様に支えていただき活動を継続して参りましたが、この12月をもってGENの活動を閉め、あらたに新会社JIENを設立することにいたしました。

GENに関わっていただいたすべての方ひとりひとりに御礼をお伝えしたいのですが、ますは拙い言葉でも、どうにか感謝の一端でも伝えなければという想いでこのnoteを書いています。

・・・・・・・・

この9年間、GENの食文化や建築の研修で旅をした地域を数えたら、ちょうど20都道府県に渡りました。イタリアから20の地域に通いながら、30ヵ国以上の外国人研修生と共にたくさんの旅をしました。GENの研修を受け入れてくださった農家、漁師、料理人、大学の先生方、食の生産者の皆様、行政の皆様には、体験を通して自然のこと、土地のこと、信仰のこと、命のことを教えて頂きました。

2015年 GEN第一回目の三重県食文化プログラム

GENという挑戦をはじめた時、私は日本人でありながら、日本人とは何かはおろか、食べるということの本当の意味も知りませんでした。なんでも頭でばかり考え、体も心も本当に満たされる経験に乏しいまま大人になり、人間にとって大事なものが決定的に欠けていたのだと思います。それは自分を大事にできないことや、突発的に沸き起こる虚しさや衝動的な怒りや不安となって現れました。30を過ぎて子どもの親となってもなお孤独感に苛まされていましたが、それをストレスや環境のせいだと思っていました。当時の私は人や社会や自然との繋がりが、自分の勝手な好き嫌いや、その日の気分で一方的に断ち切れるほど薄っぺらく脆弱でした。

それが根本的な心の不安定さの原因だったと今はよくわかります。

GENの活動を通じて、日本各地の信じられないほど生き生きとした食べ物の存在を知り、細胞が喜ぶエネルギーに満ちた美味しさに出会い、自然に畏敬の念を抱きながらもその恵みに感謝することを忘れない尊い人たちと、共に食べて飲み、笑い、美しい時間を過ごさせていただきました。


鶴岡市 羽黒の出羽三山神社で

そういう場所には大抵、深くて複雑な繋がりがあり、それはしがらみや厄介さと裏表ではあっても、自分の勝手では断ち切ることは不可能なほど何世代も続く強固なもので、人と土地をしっかりと結びつけるものでした。そういったほんとうの「つながり」は衝撃的なほど自分の人生にないものでした。その時はじめて、「人間は土から離れては生きていけないのよ」という有名な台詞が体験を通じて腹に落ちました。

そんな美しくも複雑な土地のつながりの中に「ああ、受け入れてもらえた」という瞬間は忘れ難く格別な喜びでした。

それは、ぶっきらぼうな生産者のおじさんの照れくさそうなほほえみだったり、農家のおばあちゃんの瞳の奥のきらめきだったり、寒い日に差し出された温かい一杯のお茶だったりと、ささいな出来事の中に感じ取ることができました。

時間をかけて少しずつ、心を通わせその土地の受け入れてもらうという得難い体験は私の胸を深く打ち、この美しい場所や人を失いたくない、この土地を一緒に守りたいという強い思いを湧き上がらせました。GENのプログラムを通じて研修生以上に、私自身が日本のこのような美しさの深淵に触れ、日本人であることへの誇りや命のちからを取り戻す機会を頂きました。

しかし同時にそういった美しさを守っていくことの難しさは年々増し、簡単に太刀打ちできないほど大きくなっているように思います。都会でも田舎でもつながりはますます失われ、地域の子どもたちの居場所が消え、守り手となるその土地のリーダーの高齢化と孤独の深まりに、容赦のない環境と経済の変化が追い討ちをかけています。

震災から12年の歳月が過ぎ、日本では復興という言葉も耳にすることが減っています。しかし、私は次の12年こそ真の復興の正念場ではないかと思います。目に見える建物は次々に新しくなっても、その土地との人や自然の繋がりは依然失われたままのように思うからです。

被災地以外でも日本全体の自然や土地の回復力は失われているように思います。魂の欠けた箱物事業が横行し、いずれ廃棄物になる自然に還すことのできない負の遺産に巨額な投資が行われ、致命的な自然破壊の規模やスピードはあがる一方です。これは自然の生態系だけでなく、その一部である私たち人間の心や体、土地との結びつきも壊してしまうと強い危機感を感じています。


生物多様性資本を地域で本気でつくる


そんな時にコロナが起きました。イタリアから身動きのとれない間、2021年にGENを次のステージに進化させるべく、JINOWAという土壌再生のための企業コンソーシアムをイタリアで設立しました。これは組織や企業になっておらず、あくまでもコンソーシアムでしたが、そのきっかけとなった土の建築家である遠野未来さんとのヴェネチアビエンナーレでの土と木の循環建築の取り組み、そしてその後にJINOWAの設立によって、土の再生と教育に取り組む日本を代表する資源循環企業である石坂産業株式会社の石坂代表に出会うことができました。
そしてこの遠野さん、石坂社長との新しいプロジェクトがいよいよこの9月に完成し、来年本格的に動き始めます。まさにこのような取り組みを飛躍的なものにするために、2024年から本格的に活動を開始する新しい会社JIENの設立を共に進めていこうと決意しました。

この会社ではフィンランドやイタリアから専門家や企業家も参画する国を超えた共創の地域づくりに挑戦していきます。JIENは、建築、自然素材とデザイン、循環型農業、廃棄物の再資源化、持続可能な食生産、生物多様性、観光などの各分野における専門知識を統合し、環境再生型のイノベーションをローカルコミュニティに適した形で生み出すことを目指しています。

次の12年間で生物多様性資本による地域づくりを一つでも多く実現する

世界のGDPの半分以上に相当する44兆ドルが自然資本に依存している事実を踏まえ「社会経済の基盤にあるのはネイチャー(自然資本)である」という考えのもと、2030年までに自然回復を増やすネイチャー・ポジティブを目指すことが国際目標(2030年自然協約)になりました。

今まで以上に地球規模の環境再生に貢献するローカルな取り組みを行い、地域の生態系回復に真摯に取り組むという国際社会の動きがますます加速していきます。さらに企業の評価にTNFDという自然環境や生物多様性が企業に与える影響や生態系サービス(「多様な生物がかかわりあう生態系から人間が得ることができる恵み」のこと)における財務上のリスクや機会を任意のフレームワークに沿って情報を開示することも求めらるようになりました。この流れは日本の国内でも無視することはできません。

いろいろ難しく聞こえますが、環境にポジティブインパクトを与える活動を行い、なかなかその成果が経済や評価に結び付かなかった企業にとっては大きなチャンスで、環境再生への貢献の成果を測って開示すれば、きちんと企業や地域の価値として正当に評価され、国内外から投資も集まるという時代の到来なのです。

JIENが目指すのはまさに生物多様性を資本とする地域づくりと、地域の「自然発酵」のような進化です。

立派な施設や環境整備を進めても、そこにエネルギーと物質の循環がなく、資源を注ぎ込み続けないと生きられない仕組みではいずれ廃墟となってしまいます。

ですから最初に多様な菌が混じり合い、その土地にもっとも適した形で有機的に支え合う仕組みが醸成され、永続的に醸されていくような共生による発展の形は、時間はかかりますが、長い目でみればスクラップビルドのような発展や莫大な運用や管理を必要とする人間中心主義の地域開発よりも価値を出すことができ、本当の意味で持続可能なのです。そしてそのような自然発酵型の地域づくりにおいて、地縁とはまさに発酵をおしすすめる、ドライバーのようなものだと考えます。

地縁を生み出す地域づくりにおける社会的インパクトは、経済的な価値だけでは計りきれません。よってあたらしいインパクト指標の設定も必要になります。このインパクト指標があることによって、大量に資源を使う、消費を拡大する、利益追求するという今までの資本主義で求められた評価を覆す新しい経済を実現することが可能になります。

自然の生態系回復や地域に根差した新しい教育の場を作っていくには時間がかかり、継続的な投資が必要です。自然環境整備や教育は社会的責任の名の下に行う慈善事業、寄付金で行われるサステナビリティ支援という意識では、回復のスピードがとても間に合いません。生態系回復や教育投資が本質的に地域の取り組みの中心となる世界を目指す新しい新調達モデルを確立させたいとJIENは考えています。

地域づくりの予算の組み方は最も重要です。銀行や出資先から大規模な予算を集めるためには右肩あがりの成長経済を求められたり、何よりその予算を使い切ったら終わり、という仕組みである限り、毎年あらたな予算や寄付金、補助金の申請に奔走することになります。経済的なリターンだけをインセンティブとしない投資家を集めた新しいお金の循環の仕組みや、ファンドを作り予算を使うだけでなく、地域で増やすという仕組みに変える必要があります。

そこで12月19日に東京のkudan houseでこのような思いで地域づくりに取り組んでいる実践者のみなさんが集まり、第一回目の「生物多様性資本による地域づくり会議」を行います。埼玉、長野、静岡などで新しい地域づくりに取り組むリーダー会議です。

その前に、「生物多様性のあるほんものの生態系のつくりかた」を森づくりを通してご一緒に学べたらと考えました。

講師として、宮脇式の森づくりの専門家でもある非営利型一般社団法人Silva(シルワ)代表理事の川下 都志子さんをお招きします。

もし皆さんがひとつでも下記にあてはまることがあれば、私たちJIENと共に一緒にインパクト指標を設計したり、生態系回復や地域の教育をコアとした地域づくりについて話し合っていきませんか。

  1. 従来の観光施設や施設開発、いわゆる箱物事業はしたくない

  2. 銀行融資、企業協賛や行政の補助金に依存しない持続可能な地域経済モデルを考えたい

  3. 慈善活動やボランティアではなく、経済効果も生みながら教育や環境再生に取り組みたい

  4. 自然環境を破壊せず、生態系を再生しながら産業や雇用を産むなど経済効果も生み出したい

  5. 活用がうまくいっていない施設、空き家があり、修復や運用管理費が膨大にかかっている

  6. 地域に人材がいない、という状況から脱却したい

  7. イベントや企画ものに頼らず、地域に賑わいや世代を超えた交流を永続的に取り戻したい

  8. こどもたちや若者に地域への愛着を深めてもらいたい

  9. 地域の生産品や農作物、海産物を地域で消費し味わえるようにしたい

  10. 国や地域を超えて、人と人のつながりがうまれる場所をつくりたい

魔法のように全てを一気に解決することはできませんが、森づくりのように着実に新しいスキームと地域間の共創を実現し、環境再生のスピードをはやめ、世界的に評価されるネイチャーポジティブインパクトを一緒に作り上げることを目指したいと考えています。

完全招待制 生物多様性資本による地域づくり会議

12月19日 会場 Kudan house  主催 JIEN株式会社

11時00〜12時00 生物多様性講座「潜在植生でマイクロフォレストをつくり生態系回復に取り組む」

講師 非営利型一般社団法人 Silva 代表理事 川下都志子さん

12時00〜昼食(お弁当)

13時00〜14時00 【土に触れる】 Kudan houseの庭めぐり 

建築家遠野未来が自ら解説をしながらKudan houseの再生土を使ったアート作品
やJIEN設立への思いを語ります。

14時30〜16時00

公開会議 第1回 「人間と土地の結びつきを取り戻す、生物多様性資本による地域づくり会議」

出席予定者(敬称略 順不同)
・遠野未来 JIEN代表
・齋藤由佳子 JIEN共同代表
・石坂典子 石坂産業株式会社 代表取締役社長
・長野県 長野 鎮守の杜プロジェクトオーナー 
・静岡県 おくしずプロジェクトオーナー
・三重県 鳥羽市なかまち プロジェクトオーナー
 ほか

地域づくりにプロジェクトマネージャーやオーナーとして携わっている方、今後携わっていきたい方をお招きします。ご招待のご希望、お申し込みは直接、メール(yukako@gen.education)まで。

この会議の後、同じ会場で続けて一般公開型の下記のような機会もあります。あわせてぜひご参加ください。こちらは会費制の有料での公開イベントとなります。

17時30〜20時00 石坂産業株式会社主催「自然と文化と人々をふたたびつなぐ」 生物多様性のある森づくり Nature Positive Design

お申し込み https://toiletowa2023.peatix.com/view

協力 Kudan house / JIEN

最後になりますが、創業時に初めて仕事をいただいた三重県鳥羽市商工会議所のこと、最初の大きな研究プロジェクトを任せてくださった富山市や三重県のこと、そして日本法人GENJapan設立という飛躍の機会を下さったUNESCO食文化創造都市鶴岡市での出会いを考えると奇跡のような幸運に心から感謝しています。

いろいろな地域で食文化で地域を発展させるという強い想いある方々と次々とご縁がつながり、いつの間にか9年も続く道を拓いてくださりました。経営者として、ちゃんとした事業計画も書けず、未熟なままで漕ぎ出したGENという船を助けようと一緒に働いて下さった歴代のGENファミリーのみなさまに、とても言葉では言い尽くせないほどありがたく思っています。

GENからJIENへの進化が飛躍的なものとなるよう、ぜひ引き続きご協力とご支援をいただければ幸甚です。

長い文章をお読みいただき本当にありがとうございました。

齋藤由佳子 2023年12月1日 心からの感謝を込めて


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?