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才能が羨ましい~「うたうおばけ」「常識のない喫茶店」「いかれた慕情」「書きたい生活」11月前半の読書記録

単行本を読んでいるので別に買わなくても良かったのだけれど、くどうれいんさんの「うたうおばけ」の文庫本を買った。


Webで公開されていた文庫版に寄せた「あとがき」がものすごく良かったので、思わず手元に置いておきたくなってしまったのだ。

このエッセイは主に著者の青春時代(高校や大学)周辺のことが描かれている。くどうさんのエッセイの中ではこの「うたうおばけ」より後に発行された社会人~作家デビューまでを書いた「虎のたましい人魚の涙」の方を私は好み、よく読み返していた。
というのも、「うたうおばけ」に収められたキラキラですこやかな青春の話は、私の過ごした青春とは表情がまるで違っている気がして、読んでいて素直に羨ましくも妬ましくもある。恋愛の話にピンとこない部分もあった。
しかし、文庫版を改めて読んでみると、以前読んだときよりも素直に「いいねいいね!」と思うシーンがたくさん出てきた。ここ数年の読書遍歴で、自分の感性が広がった気がして、それがとても嬉しかった。
私が読書を加速させるきっかけになった本は何冊かあるけれど、くどうさんの「わたしを空腹にしないほうがいい」がその中のひとつであることは間違いない。
くどうさんの紡がれる文章に出会いたくて、著書が出たらほぼ反射的に買ってしまうくらいのファンではある。

ずっと気になっていた、僕のマリさんの本を読む。(僕のマリ、が著者名)
初めに図書館で借りた「常識のない喫茶店」を読み、創作かな?と思っていたのだけれど、これは喫茶店に勤める著者の実話エッセイだったことにびっくりした。


とても面白かったので、たまらず「いかれた慕情」をネットで購入。本当に良かった。共感できる部分が8割、個人的に沿うことが難しい感情が2割、という感じだった。全体的に著書の内面がえぐり出されていて暗い感じがする。


わたしはいつも、家族にも友人にも本音を言うのが苦手だった。何年生きても薄い関係しか築けないのが、ずっとコンプレックスだった。自分を晒すことにどうしても抵抗があり、踏み込みのも踏み込まれるのも躊躇した。そうやって生きてきたから、誰かの友情や愛情を目の当たりにすると、決まって後ろめたい気持ちになった。冷めたふりして飄々と生きているつもりだったけれど、本当はものすごく寂しかった。

いかれた慕情「確かに恋だった」188 ページより

この気持ちはわかるなぁ。。

私にも、ものすごく寂しいと思う時期があった。特に10代後半から20代後半。ずっとしんどくて、孤独を感じない日はなかったし、自分という乗り物すら上手く乗りこなせないのに、社会の1ピースになることにしんどさを感じたりとか。様々な人間と社会人として接することの難しさとか。
そして私は友人が少ない方なので、そういうことも影響しているかもしれない。
このしんどさに対して「30を超えたら楽になるよ!(=年齢を重ねたら楽になるよ!)」と先輩方が励ましてくれたこともあったけど、30になってしばらく経っても私は楽になったとはなかなか思えなくて、ただ単に苦しみを延期し続けているだけのような気がしていた。(1つ良かったことをあげるなら30歳になった春に奨学金を前倒しで全額返済し、その引き落としがなくなった時だけはほんとうに楽になったと思った。息苦しさの栓がポロッと抜けた気がして、嬉しくて、当時ひとりで住んでいたワンルームマンションの白い机に顔をつっぷしたまましばらく泣いた。その白い机は引っ越しの際にも持ってきたので、今住んでいる家にもある。今は夫婦でごはんを囲んだりコーヒーを飲んだりするときに使われている、泣き顔を見せるばかりじゃなくて本当に良かった。)

「自分を晒すことにどうしても抵抗があり、踏み込みのも踏み込まれるのも躊躇した」…これは私は今でもそうなので、別に守っていいんじゃないかなと思っているし、薄い関係しか築けないのも別にいいんじゃないかと思う。外交的な人には憧れるし何だったら今からでもそうなりたいし、私もそれに対してのコンプレックスは今でも持ち続けているけれど、わかってもらえる人にだけ、わたしの小さな国のことをわかってもらえれば良いかなと思って暮らしている。

引き続き、僕のマリさんの「書きたい生活」を購入し読む。喫茶店でのお仕事を退職し、文筆を主な軸とされてパートナーと暮らしている様子が書かれている。

僕のマリさんは書きたい生活の中で「書きたいことでいつも頭のなかがしゅわしゅわしている」と言い、くどうれいんさんは「毎日書き留めておきたいことがありすぎて、それなのに、書き留めている間のわたしのことは書き留めることができない。」と日記の練習という連載の中で言っている。

(余談ではあるが、この「日記の練習」の出だしの一文に度肝を抜かれた。こんな一文、普通に思い付きそうなのに思い付かなくて、その着眼点がすごすぎて読みながら脱力してしまった。)

実は、私もこの秋、冬と、公募に挑戦しようと考えている。書きたいこと、たくさん出てくるだろうか。自分のこころをちゃんと伝えられるだろうか。楽しんで読んでもらえるだろうか。そもそも、エッセイとして形にできるのだろうか。

書くことが楽しい、書きたいことがたくさんある!と思える感受性と才能が素直に羨ましい。
私は書きたいこと書きたいこと…う~んと唸りながら向き合ってみることにしようと思う。


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