Umi

2021.9.18〜 小説作家

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最近の記事

【10分エッセイ】「もう知らない」

「あと3年早ければなあ(笑)」 あの人にだけは知られたくなかった。 どうすることもできない私の気持ち。 尊敬と恋の間でゆらゆら揺れていた2年前。 音楽仲間と開いた飲み会。 今のような世の中の混乱はなく、繁華街は賑わいとネオンの灯りでいっぱいだった。 年齢も職業もバラバラの約15人。 会はひとしきり盛り上がり、飲食のペースが落ち着いてきたころ。 「そういえば付き合っている人とかいるの?」 会話の中心にいる人が私に尋ねた。 よくある恋愛話だ。 「いませんよ。」 シン

    • 【読み切りドラマ】小説「スズラン」

      才能と努力は、虚像と実像のようなものである。 「スズランの花言葉って知ってる?」 広大な植物園には、ピンク・黄色・赤・紫、色鮮やかな花が咲き誇る。 その中で、私の目を引いたのはどの色にも染まらないこの場所。 そこで、持参した組み立て式の椅子に腰掛けて、ありったけの画材を並べる。 すると、その花に吸い寄せられるように1組の家族が近づいてきた。 眩しいほど白いワンピースを来た小さな女の子は、目の前の花の花言葉を尋ねた。 「幸せの再来……」 その質問に答えたのが私である

      • 【2000字ドラマ】 小説「Olive」

        凪とは、風が止まることで波が穏やかになる現象のことだ。 水曜日の午後1時。 天井の高いカフェで、英字のメニューに目をしかめる。 白い壁に赤茶の床には、緊張感と暖かさが共存している。 「先輩はオリーブのピザか、マルゲリータだったらどっちがいいですか?」 目の前の彼が、クリクリとした目をこちらに向ける。 「マルゲリータかな。オリーブってちょっと苦手なんだよね」 鮮やかなシアンブルーの椅子に背中を押されるように答えた。 だがすぐに彼の顔を控えめに覗き込み、 「でも、有川く

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