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からくりはなんであれ

大学が始まると、途端にアホみたいに忙しい。

ところが、突進する猪のような勢いで一日中仕事を続け、そろそろ夜も3時を回ろうかという頃、頭はきっちりと冴えていて、集中力もばっちり、まだまだやれる!と意気込んでダッシュを続けようとすると、身体が錆びたブレーキのように鈍く重いストップをかけ、これ以上は続けられないという状況になることが増えた。

特に最近の私の最も深刻な問題は右手&右肩。マウスのスクロール&クリックのし過ぎで、腱鞘炎気味になっています(気味というか、既に腱鞘炎なのかもしれない)。右手、右腕と右肩から肩甲骨の辺りまでの痛み、たまに痺れ、そして張り。そこから派生して首の凝り&頭痛も激しい。(タッチパネルのパソコンに替えてから少し改善。)

色々の締切の迫った時期などは、身体の不調を押して、スーパーサイヤ人3になった時の悟空も驚くほどの驚異の集中力で限界突破しますが(または自来也がフカサクさんの背中にメッセージを残した時のように)、そういう日は、肩と手の痛みで眠れなくなる。

これ、この身体的限界問題、これは若い頃の私が全く想像しなかった、人生に及ぼす大問題の一つ。

まさか身体の痛みのせいで達成できるタスクの量に限りが出ることになるとは…。この問題、実際に体験した時の驚きと落胆といったらない。

高校生だった頃、NHKのラジオで、夢をかなえるのに必要な三原則として、「夢、体力、挑戦力」と誰か(ノーベル賞を取った方とかそういうレベルで著名な方だった)が言ったのを耳にしたことがある。

つまり、一つ目に夢をもつこと、二つ目に体力があること、そして三つ目に継続して挑戦する力があること。

どれも核心をついていて、ゴモットモなのですが、

この二つ目の原則、体力があること。これの重大さを厭ほど思い知る四十路のわたくし。

何か新しいことにとりかかるにも、継続してやり続けるにも、体力がなければ難しいのです。体力なめたらあかん。(できれば体力なめずに飴なめたいよね。)

そのうえ、新学期の始まる三週間ほど前から、身体の痛み問題のみならず、「頭がぼーっとして集中できない、寝ても寝ても疲れが取れない」という原因不明の極度の疲労感に悩まされていて、なんだかとっても先行き不安だった。

というわけで、主治医にも相談し、通り一遍の健康診断もしたけれど、特に異常なし。もともと甲状腺の病気持ちではありますが、それも今は安定していると言われ、少し前から頭をよぎっていたある疑惑について、

「ひょっとして、これって更年期ですかね?」と主治医に尋ねれば「そうですね。」とあっさり即答。もともと適当な医者ではあるが、何を根拠にあなたはそれを言う?と突っ込みたくなるほど適当にさらっとこういうことを言う。
そして産婦人科受診を勧められました。

更年期にはまだ早い気もしますが、一つ一つの小さな仕事にも大嵐の中錆びついた舵を切るような労力を要する尋常じゃない疲労感には心底うんざりしており、とにかく産婦人科に診てもらおうと電話をすれば、来年の2月中旬まで次の空きはないらしい。

しかし新学期が始まる前に、この疲労感をどうにかしなければならない、と更年期に関してググりにググった挙句、遂に日本のショッピングサイトから購入してしまいました。

そう、「命の母」。マザー・オブ・ラーイフ!

その昔、私が子どもの頃のテレビCMでは、かなりご年配の方が、これですっかり疲れが取れた云々と言っていた「命の母」(養命酒のCMと混同してる可能性もあり)。

まさかまさか自分が手を出す日が、こんなに早く訪れることになろうとは。(そんなに早くもないけど。それに更年期のタイミングは個人差ありなので、全く不思議はない。)

もちろん、更年期以外に理由があるかもしれないし、原因が分かっても症状は良くならないかもしれませんが、今の私を救えるかもしれない唯一の拠り所、「命の母」(つくづくこの命名からすごい)。迷わず購入!

そうなると疲労感に効くとなればなんでも試したくなる衝動で、下戸の私が「ヘパリーゼ(錠剤)」と「セサミン」も日本からお取り寄せ。薬局からビタミンB6、前から摂取していたビタミンDとカルシウムも合わせて、なんだか尋常じゃない量の錠剤をのみまくること二か月。

これほど色々摂っていると、結局何が効いているのかさっぱりわからないが、とりあえず異常な疲労感はいつの間にかなくなりました。ばんざい!

産んでもらった覚えはないが、命の母が私の命の生命力をぐいぐいと再生してくれたのか、はたまたヘパリーゼのおかげか。それとも単なるプラセボ効果か。

そういえば、「単なる」と侮ってはいけないプラセボ効果に関して、慢性痛やリウマチ痛が改善した、とか、胃腸疾患が改善したという研究があった。

膝のリウマチ患者180人を3つのグループに分けて、実際に膝の手術を受ける人、生理食塩水で膝関節を洗うだけの人、三つ目は完全にプラセボグループ、そのすべての患者に、手術までの手続きや説明などは実際の手順で行い(実際、医者たちも手術台に患者を寝かせ麻酔をするまで、その患者がどのグループに属するかは知らされていない)、プラセボのグループも、患者が麻酔で寝てる間、実際の手術のビデオを流し、その通りに器具を取ったり、すべての手順をそっくり真似て過ごす(手術で残る小さな穴は同じように開ける)。すると、3つのすべてのグループで、術後の膝の痛みが同じように改善した(Bruce Moseleyその他、“A Controlled Trial of Arthroscopic Surgery for Osteoarthritis of the Knee”)。

その後も、同じような研究がおこなわれてきたが、痛みに関していえば、プラセボグループと実際に手術を受けた群とに効果の差がないということが分かってきた。

手術ではなく、シュガーピルを用いて、ハーバード大学のKaptchuk教授が80人の過敏性腸症候群など胃腸疾患に悩む患者に行った、プラセボをプラセボだと知らせた上でも同じ効果があるのか、という研究では、プラセボだと分かっていて薬を服用した患者たちでも、その症状が改善したという。

この研究に参加した、十年に渡って耐えがたいお腹の痛みと下痢症状に苦しんだ患者が(彼女によると出産よりも激しい痛みだという)、バカバカしいと思いながらもプラセボのシュガーピルを飲み始めて4日目、痛みや不快感、下痢の症状がぱたりとなくなり、噓でしょ?と非常に驚いたことを報告している。

Kaptchuk教授は、腰痛、癌治療による疲労症状などに苦しむ患者にも同じく、プラセボをプラセボと知らせた上で効果を調べる研究をしたが、胃腸疾患の研究と同じかそれ以上の研究結果を報告している。

2018年のノースウエスタン大学の研究でも、シュガーピルが、慢性痛の患者に効くという結果が発表されていた。かと言って、もちろん、慢性痛が心理的なものであるとか、気の持ちようということではない。痛みは本物に違いないが、プラセボが何らかの変化を脳に及ぼすことで、その痛みを除去することが可能かもしれないということです。

痛みの元は除去しているのに、痛みだけが消えない慢性痛の問題、どんなメカニズムでプラセボが効くのかわからないこともまだ多いようですが、からくりは何であれ、効果があれば使わない手はなし、というところでしょうか。

そう、からくりはもうなんでも良いのです、その辺の知らないマザーでも誰でも良いので、この疲労感から少しでも回復させてくれるのならば、なんでも飲みます。という今の心境。

それにしても、大学の学期中のこの忙しさはどうにかならないものか、と毎度思うが、どうにもならなさそう。
働き方改革というのは個人でやってどうにかなるものではないのだとつくづく実感している(個人でできる改革には限界があるのだ)。システムそのものが改革されないと、いつまでもこんな地獄のような労働環境で苦しむことになる。

マザーオブライフにも限界あるよねー。