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【前世の記憶】ロシアのスナイパーだったと言う息子


ダナにはエヴァンという息子がいる。小さい頃のエヴァンは笑ったり泣いたり遊んだりと普通の幼児だったのだが、3〜4歳の頃からぐずるようになっていく。

息子が不機嫌で泣き続ける理由がダナには分からなかった。時には慰めようがないほど悲観に暮れ、泣き疲れるまで続くことも。ダナはだんだん心配し始める。

エヴァンが小学校に行き始めた頃、先生からコメントをもらう。それは休み時間に彼が他の子達と関わろうとしないというものだった。いつも1人で居て、他の子達から距離を取っていると。

誰かが一緒に遊ぼうと声をかけると、それを拒否して隅っこで1人静かにしていると言うのだ。一匹狼の彼を団体行動に導くのは難しかった。

ダナは、息子が一匹狼なこと自体はそれほど心配していなかった。かつての自分もそうだったし、性格的なものだと思っていたからだ。しかし友達からの誘いを断ることは彼女を心配させた。

成長するにつれエヴァンは悪夢を見るようになる。しかしそれが何なのかを伝えるには幼すぎた。恐らく自分でもよく理解していなかったのだろう。そのほとんどは叫び声と啜り泣き、目覚めた時の恐怖だった。

ダナは息子と話し、コミュニケーションをオープンに保つように努める。彼が抱えている恐怖や悩みを話す機会も十分に与えた。が、特に問題を抱えているようには見えず、幼少期の単なる悪夢だと受け止めていた。

しかし年齢が上がるにつれ、悪夢はさらに激しくなり、頻繁に起こるようになる。何が原因なのか・・。なぜ息子はこんなにたくさんの悪夢を見るのか・・。

小学校では先生から、彼の語彙力がいかに高いかというコメントを常にもらっていた。が、同時に、アルファベットを習った通りに書けないことも指摘されていた。鏡文字になっていたり違う文字が挿入されたりしていて、英語ではないようにも見える、と。

ダナは家で教えようとし、Rを書いて見せると、彼は「違う、こう書くんだよ」と主張した。

先生がエヴァンに、他の言語を喋るのか聞いたことから、それがロシア語のアルファベットだったことが判明する。

彼の周りにロシア人がいたことはない。家族も親戚もロシア語は喋れないため、彼がどこで学んだのかもさえ分からない。

小さい頃のエヴァンはおもちゃの兵隊で遊ぶのが好きだった。戦争について学んだ時は、暴力的なことに興味を示すというより、実際にどのように起こったのか、誰が関与したか、その戦略について興味を持っていた。

5〜6歳の頃から彼は、両手を開く動作を何度もするようになっていた。外を歩いている時も、まるで自分の世界にいるかのように。

ダナはその癖を直そうと試みる。

「少し変に見えるわ。普通の人は近寄ろうとしないわよ。」
 
それから少し成長したエヴァンが、その仕草の意味を言葉で伝えられるようになると、両手を開く動作は爆発を表していたことが分かる。

それまでは、夢で血や死んでいく人を見ても、何故なのか本人も理解していなかった。が、言葉で的確に伝えられるようになると、それは戦争の夢で、自分は殺す任務に就いていたのだと言う。

何故息子は殺すシーンを繰り返し夢に見るのか・・。

夢のほとんどは寒くて雪が降っている場所で、雪はほぼ全ての夢に出てきた。彼はソ連軍の陸軍兵士で、どこにいたか、何をしなければいけなかったか、仲間の兵士たち、場所、名前について鮮明で詳細な記憶があった。よく見ていた建物のサインも覚えていた。

翌日、エヴァンはインターネットで、その場所が確かに存在することを確認する。

夢の中での言葉はロシア語。ある日ダナとエヴァンはそれらを翻訳すると、その結果に驚く。

夢によく出てくる言葉は、「銃を持て」「走れ」「急げ」「もっと早く」「左へ行け」「右へ行け」

などシンプルな指示だ。

「信じられなかったけど、全てが戦争と関係があるような言葉でした。」

ダナはこれまでのことから、息子はもしかしたら前世の記憶を持っているのでは?と思い始める。

小さい頃から見ていた爆発の夢、アルファベットを違うように書くこと、手で爆発を表現する仕草、ロシア語を知っていること、鮮明な記憶・・。

「これら全てのことはただの偶然以上のものがあると思いました」

エヴァンはこれまで母親に話さなかったことをたくさん話す。

彼はソ連軍の兵士で、ドイツと戦っていた。仕事はライフル銃で人々を連れ出すこと。彼は自分はスナイパーだったと思っていた。ライフル銃を扱い、1人になることが多く、多くの人々を殺さなければいけなかったからだ。

その時ダナは考え始めていた。もっと何かがあるはず。何かが起こっている・・と。

夢について話す時のエヴァンは明らかに取り乱していた。

「殺したくなんかなかった。でも仕方なかったんだ。」

彼はその記憶の対処に苦痛を感じていた。自分とその人達両方の痛みを感じていたのだ。苦悩、恐怖、全てを。

彼は自分の死に際を見たと言う。友達が自分に会いに来ていて、そこには自分の妻と2人の子供がいた。そして娘に手を握られながら死んでいったと。肺の病気が死因となったようで、そこには明らかな苦しみがあった。

ダナは言う。

「死の淵にいるときにどんな感情や考えがよぎっていたかを知るのは辛いことです。ただでさえ死とは辛いもの。自分の息子の口から家族の元を去らなければいけなかった時の気持ちを聞いたら涙が出ました。」

悪夢が続いていたため、ダナはエヴァンをカウンセリングに連れて行く。しばらく通った後、伝えられたのは彼がPTSDで苦しんでいるということ。

彼の人生において、トラウマになるような出来事は一度もなかった。息子の前世のトラウマが現世に影響してるのか?

その頃のエヴァンは引きこもるようになっていた。周囲から遠ざかり、他人との接触を望まない。不安やストレスを抱えていた。

ダナは答えが欲しいと思った。

「彼が現世で生きるように手助けしなければと思いました。」

そこで一緒にエヴァンの見る夢の詳細について調べ始める。そこで分かったのは、Ivan Mikhailovich Sidorenko(イヴァン・ミカイルヴィッチ・シドリンコ)という狙撃手がいたこと。彼はロシアで一番の狙撃手の1人だ。

エヴァンは彼の写真を見ると、何かのつながりを感じる。外見にも共通点があった。

エヴァンは言った。

「誰かの目を見て何か感じることってあるでしょ。彼の目を見るとそれを感じるんだ。」

そして彼の軍人としてのキャリアを読んでいくと、ほとんどがエヴァンが夢で見たものと一致していた。

1944年にイヴァン・シドリンコはソ連のヒーローとして表彰されている。これは非常に名誉ある賞だ。彼は第二次世界大戦中にモスクワ近郊で行われたモスクワの戦いで戦っている。その戦いの多くの詳細が、エヴァンが夢で見たと言っていたものと一致していた。

「エヴァンは、イヴァン・シドリンコだったのではないかと思っています。エヴァンの名前さえもマッチしています。参りました。」

「イヴァン・ミカイルヴィッチ」と「エヴァン・マイケル」。

エヴァンは二十歳になっていた。

「長年続いていたことの背景にある意味が分かってとても嬉しいです。並行して実在した人物を見られるということにも。」

エヴァンは前ほど頻繁ではない今でも悪夢を見る。フラッシュバックもあるし不安も消えていない。

「前世では僕はイヴァン・シドリンコという、第二次世界大戦中のソ連兵だったと思います。子供の頃は悪夢をよく見てた。第二次世界大戦の東部戦線の設定で。そこではナチスとソ連が戦っていて、1941年か1942年辺りだったと思います。ある夢では人工の溝に沿って這ってた。そこで機関銃が発砲されて爆発が起きました。すごく大きな音だった。自分の他に男性2人と女性が1人。そして古く大きな建物が近くにあることに気がつきました。それが目的地だったんだと思います。そこに着いたら仲間達だけなのでもう戦わなくていいと思ってた。そこで誰か・・帽子を被った男が僕の肩を叩いて、『イヴァンあそこに登れ。』とロシア語で言うのを覚えています。男が指差すのは狭い通路でした。そこに登るとたくさんのドイツの戦車が向かってくるのが見えます。なんてこった、と思いました。僕が対処しなければいけないのが分かったから。これで終わりだ・・と思ったのを覚えています。仲間達を守れるかは僕次第だから。失敗したら自分達は皆死んでしまう。あの夢は特に怖かった。」

ダナは言う。

「何世代も前に起こった戦争の記憶と闘うなんて・・。解決策を見つけなくてはと思いました。息子は前世の記憶を手放すことができるのか・・。手遅れでなければいいけど。」

ダナは心理療法士ミシェルに会うことを心待ちにしていた。ミシェルは悲しみや喪失だけでなく、霊的な方面にも特化した心理療法士だ。

エヴァンがミシェルに改めて成り行きを話す。

「子供の頃から奇妙な経験をしました。それが何だったのか分かってからは自分はおかしくないんだと気付きました。次の問題は誰に話せばいいのかということでした。この件については誰を信用していいのか・・。」

「自分探しをたくさんしたようだけど、それは今人生にどんな影響を与えてる?」

「まだ悪夢は続いていて、フラッシュバックも不安もあります。」

「完璧にはなくなってないのね」

「全く消えてなくなることは無理です。僕を部屋に例えると、黒いクモが部屋の隅にいる感じ。クモは前は部屋全体を使っていたけど、誰かが来てクモを部屋の隅に追いやった。だからクモはまだ居て時々僕を食べようとする感じ。」

「いつも煩わせるわけじゃないけど、クモは潜んでいて、いつ現れるかわからないのね。」

「潜んでいる・・完璧な表現です。」

「過去にPTSDだと診断されたと聞きましたが・・。」

とのミシェルの言葉にダナが答える。

「その時は精神科医にかかることを勧められました。でも原因の追求をせず彼に薬が処方されることを恐れていました。前世をチェックしてみましょう、なんていう精神科医は多くないでしょうから。」

ミシェルはこれは一つの案なんだけど・・と言いながら、ある哲学的な考えを紹介する。

魂はさまざまな角度から学ぶために常に戻ってこなければならない。被害者の時もあれば加害者の時もある。熱愛の時もあれば孤独な時もある。知識を得るためには何度も何度も違う命として戻ってくる必要がある。この人は悪魔でこの人はいい人というものではない。戦争中に人を殺したからといって悪い評価は評価されない。それが得意だったとしても悪い魂ということにはならない。それはひとつの人生からの一つのレッスン。

「ってことは、個人的なことではなくて、ただ僕に起こった出来事という考えですね。」

と興味を示すエヴァン。

「この夢にいつか終わりが来るのかといつも思っていました。もう心配しなくてよい日が来るのか。それとも常にあるままなのか・・。」

「きれいにするために取り組めば取り組むほどアクセスしやすくなると思います。もしそうしたいならばね。でも望まないのなら起こらなくなると思います。」

「ということは、少しづつ減っていくということですね。それなら嬉しい。」

「エヴァンのロシアのスナイパーだった前世が克服しなければならないものだとは思いません。」

ミシェルはエヴァンに、物事の全体図を見やすくする本とCD、ワークシートを渡す。

「進むべき方向が分かった感覚です。前進することへの手助になるはずです。」

エヴァンは感想を述べる。

「セラピーはうまくいきました。もうすでに進展が見られています。」

ダナも満足していた。

その後も心理療法士ミシェルに会い続け、エヴァンの悪夢はだんだん減ってきていると言う。

最後にエヴァンが言った。

「次の数年でどこまで変わっているかは想像つきません。でもどこに行こうが何をしようが、前向きな光の中に自分を見つけられることでしょう。この知識は完璧に助けになったと感じます。」


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