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2023大学ラグビー関東対抗戦:早稲田対帝京を簡単な数字で見てみた

みなさんこんにちは
今週はなんとか2試合レビューができそうです

今回は11/5に行われた関東大学対抗戦、早稲田大学対帝京大学の試合についてレビューをしていこうと思います

まずはメンバー表から

次にスタッツです

それでは順番に見ていきましょう


早稲田大学のアタック・ディフェンス

早稲田大学のアタックシステム

今回の試合では早稲田は10番に久富選手、12番に野中選手、15番に伊藤選手とSOの役割を務めることのできる選手を3人ほど抜擢していたのが印象的な布陣でしたね
元々SHの宮尾選手や島本選手のアタックのテンポがかなり速いこともあり、誰か一人がズレた位置に立っていてもそれ以外の選手がうまく1stレシーバーに入ることができるため、よりテンポを上げたラグビーができるというわけです

さらに今回の試合では1−3−3−1のポッド配置に対して合間をSOの役割を務めることのできる選手たちが埋める形でのアタックが帝京のディフェンスに対してうまくハマっていたように思います
帝京のディフェンスは極端に前には出てきませんが主にFWのポッドでコンタクトが起きるであろうエリアでのディフェンスがかなり硬く、他のチームはその部分で押し込まれ前に出ることができていない印象でした

一方、今回の試合では早稲田は9シェイプよりも10シェイプやCTBの選手を経由した12シェイプともいうべきポッドでのコンタクト回数を増やし、中央の若干外よりでのコンタクト回数を増やすことによって、厚い帝京のディフェンスの壁から少し離れた位置でアタックをすることに成功していました
また、早稲田はそれに合わせたポッド内でのパスやポッド内の選手に対するパサーの投げ分けなどもあり、相手のプレッシャーを緩和するような形でゲームを作っていたように見えます

キャリアーとしては2番の佐藤選手が安定したキャリーを見せており、アングルをつけたランニングや表裏に投げ分けられるパススキル、また相手を振り切ることのできるクラッシュを兼ね備えていたりとかなりスキルのバランスが良いプレーヤーなので、帝京側としても目を離せないプレーヤーだったと思います

それ以外にも13番の岡崎選手もキャリーでは目立っており、もちろんBKの選手としての一般的なパスやランのスキルに関しては高いものがあるのですが、今回の試合では力強いコンタクト・ランが目立っていましたね

キック戦略の部分ではおそらくは少しハイボールでの競り合いでチャンスを見出そうとした要素があるように感じていて、回数的にも普段よりかは少しPuntを多く用いていた傾向にあるかと思います
帝京にはそこまで突出してハイボールに強い選手がいるわけではないので、戦略的判断としては悪くないかと
ただ、こだわるのであればもう少しこだわって蹴り込むのもアリだったかもしれませんね

セットピースに関しても、アタックにおけるスクラム・ラインアウトは比較的安定して出すことができていたかと思います
帝京は春・夏・秋シーズンにかけてスクラムの部分で相手を圧倒してアタックに持ち込ませていなかったシーンを見せており、アタックだけでもマイボールを獲得できたのは大きかったのではないでしょうか
一方でディフェンス時のスクラムに関してはかなり押し込まれていて、スクラム関連の反則が試合を通じて8回と多くなっていました

早稲田のキャリー

キャリーの質に関して言えば、今回の試合ではこれまでの試合と比較しても高いクオリティをキープすることができていたかと思います
まだ上位校とそこまで当たっていないこともあって断言は難しいですが、極端に相手に差し込まれることも少なく、相手に押し込まれることなくグッと前に出ることもできていたので、ラックの安定感やアタックのテンポの向上につながっていたかと思います

先述したようにキャリアーとしては2番の佐藤選手や13番の岡崎選手がFW/BKのそれぞれで目立っており、共通点としては共にコンタクトをした位置から前に出ることができている点が挙げられるかと思います
佐藤選手は体の強さを生かしてコンタクトした後の足の踏み方で、岡崎選手はスピードや体をうまく使ってのコンタクトで前に出ることができており、ラックを前に押し込みながら作ることで相手のディフェンスを下げ、オーバーの選手が普段よりさらに一歩前に出ることでSHがボールを捌きやすくなっていました

また、特徴的だったのはFWのキャリーにおける「ハンマー」と呼ばれるプレーの部分かと思います
味方のプレーヤーに対して、コンタクトが起きる前や直後からサポートについて倒れるまで一緒に押し込むプレーを主にハンマーと呼ぶことが多いのですが、早稲田はその部分のクオリティが高く、パスをうまく使って相手のディフェンス1人に対してコンタクトをするシチュエーションを作り、それに対して早稲田側が2人でまとまって押し込むという場面を何度も作っていました
単純にパワーが乗るので前に出やすいというわけですね

キャリー回数を見ていきましょう
回数としては76回と、極端な大差はありませんね
後述しますが帝京のキャリー回数は同数となっていたこともあり、ポゼッションの観点から見るとほぼ同じような時間アタックをし合っていたということができるかと思います

内訳を見ていくと、9シェイプでのキャリーが22回、10シェイプでのキャリーが6回となっており、回数的には9シェイプが多く用いられていることがわかります
シェイプ外のキャリーでは中央エリアでのキャリーが16回、エッジエリアでのキャリーが19回となっており、合計して35回のキャリーが主なシェイプからは外れている計算となります

ただ、今回の試合で着目したいのは12シェイプと言えるようなCTBの選手を経由するポッドアタックです
記録用紙の都合で具体的な回数までは記録できていませんが、感覚的には4,5回はCTBからのパスでポッドがコンタクトをしていたかと思います
そのため、10シェイプでのキャリーと合わせると10回前後のキャリーがパスを普段よりも多く経由したポッドでのキャリーと言えるかもしれません

早稲田のパス

パス自体に極端に特色はありませんが、表裏をかなり意識したアタックをしているということはできるかと思います
10・12・15番の選手がSOの役割を務めることでできるため、どのポッド/選手からでもバックドアへのパスをすることができるというわけです
数値としては前後半合わせて10回のパスがバックドアへのスイベルパスとなっており、ある程度は裏を使ったアタックをしていると言えますね

また、スイベルパスに着目して見ていくと、選手のパスのクオリティに関してこれまでの試合よりも良いものを見ることができたかと思います
これまでの試合では佐藤選手が質の高いスイベルパスを見せていましたが、今回の試合では他の選手もスイベルパスがハマっており、それに合わせて外側からボールをもらいにくるフリをする選手のランニングコースも良かったため、帝京のディフェンスがポッドに引き寄せられるシーンが何度も起きていました

パス回数としては158回とかなり多く、キャリー・パス比を見ると1:2に近い数値となっており、比率的にもパス回数が多いということができるかと思います
実際、キャリーでは中央エリアが平均して多い場所となっていましたが、一度外に回し始まると外方向への意識がかなり高い様子が見受けられ、パスを重ねてエッジまでボールを持ち込むシーンが何度も見られていました

特に多かったのがラックからバックスラインへのボールの供給とバックスライン上でのパス回しの回数となっています
前者は1試合で35回、後者は34回となっており、Otherの一部が外方向へのパス回しであることを考えると、半数程度がBKの選手が主に絡んだパスであるということができます
実際の試合を見ていくと、WTBに入った矢崎選手や守屋選手がキャリアーとしてアタックに絡む回数こそ少なかったものの、LOやFLの選手がエッジに立ってボールをもらっていたり、13番の岡崎選手や15番の伊藤選手が外のエリアでボールをもらうことも多く、回数としては突出していなくても意識している様子は見て取れたかと思います

別の観点で見ると、アタックのテンポの割にオフロードパスは少なかったですね
元々オフロードパスがそこまで多くないのがチームの特色だとは思いますが、裏に出ることができてもそこまで意識的にラックを作らずにアタックを継続させようとする様子は見られませんでした

早稲田のディフェンス

ディフェンスは少し評価が難しい部分があると思います
タックルの成功率だけを見ると1試合通じて82.7%と決して高い数字ということはできません
ただ、今回の試合では相手の強みでもあるFWのポッドでのキャリーをかなり高い精度で抑え込むことに成功しており、裏を取られてもサポートの選手がしっかり追いついて相手のミスを誘ったりと、決して悪い結果ばかりではありません

特に目立っていたのは9シェイプに関連したディフェンスの部分ですね
帝京は9シェイプを用いることが比較的多いチームで、そのエリアで強烈なバックファイブの選手が前に出ることでテンポやアタックのペースを掴んでいくチームであると思っています
しかし、今回の試合では早稲田側が9シェイプを中心にFWのポッドに対して前に出てプレッシャーをかけることができていて、ゲインラインの部分で大きく負け越すことがなかったのが相手のスコアをある程度抑えることができた要因ではないかと踏んでいます

要所要所でのダブルタックルもハマっており、外のエリアでのディフェンスでは一人でうまく倒し切ることが出ていて、帝京が強みとしている中央エリアでは互角にディフェンスで戦うことができていました
帝京は2番の江良選手、6番の青木選手、7番の奥井選手がオフロードパスがうまく、1人だけでタックルをしてしまうと上から繋がれるということも多いのですが、今回の試合ではそういった部分もある程度抑えることができており、相手に楽なアタックはさせていなかったのではないでしょうか

帝京のアタック・ディフェンス

帝京のアタックシステム

今回の試合で、帝京は普段通りのイメージでアタックをすることができていませんでした
実況解説などでは「エラーが多かった」ということなどが挙げられていたかと思いますが、個人的には「普段通りのアタックしかしていなかったからこそ、今回のような展開になった」のではないかと考えています

帝京の基本スタンスは外から見ている限りでは9シェイプや10シェイプでグッと前に出て、外のランナーに良いボールを供給することでアタックライン全体を前に押し上げて最終的にはスコアにつなげるラグビーをしているように感じています
そのため、FWの選手のキャリーがキモになってくるわけですね

そういった前情報のもとで今回の試合を見ていくと、そこまでやっていることが変わらない様子が見て取れるかと思います
9シェイプでのキャリーを中心に10シェイプや表裏を使ったアタックを交えつつ、FW戦で前に出ようとしている、といった形です
極端な話をしてしまうと「普段と変わらない」わけです

今回の試合では早稲田側がFWのポッドが主に立っているエリアでディフェンスをグッと前に押し出してきており、これまで相手取ってきたチームとは違うプレッシャーをかけてきていました
ディフェンスの精度としては春夏に試合をしていた早稲田以上のクオリティでディフェンスをしていたと思います
それに対して、帝京は次点の策を出していなかったように見えました

もちろん局所戦では強烈な選手がちゃんと目立っていましたし、トライの取り方や崩し方は帝京らしい素晴らしいものがあったように感じています
ただ、メインのアタックシステムがうまくいかなかった時の次の戦略は個人的にはうまく見てとることができませんでした
早稲田側がうまく対策をしてきていた感じですね

キック戦略も普段通りで、自陣の中盤ではラックからのBoxを中心に競り合いながらもボールを前に出して、SOを務めている井上選手やCTBの大町選手が細かいキック戦術で裏に転がすイメージですね
この部分でも後手には回らないまでも圧倒はできていなかった印象で、もちろん楕円球の運というのもありますが、競り合いの部分で早稲田に上を取られていたり、バウンドの妙でアタックを繋げられなかったりと、普段とは違う流れになっていたのではないかと思います

ラックに関しては普段通りかなり安定していますね
ゲインを切れなくても個々の選手はコンタクト位置から前に出ることができているため相手がオフサイドポジションになりやすく、オーバーに入る選手の質も高いため安定したブレイクダウンワークができていました

帝京のキャリー

帝京にしては比較的少ないキャリー数となっているイメージですね
特に後半に関しては早稲田も少ないキャリー数ですが帝京はそれ以上に少ないキャリー数となっています
キック自体はそこまで多くなく、エラーもそこまで多発している感じでもないので、個人的には少し不思議ですね

キャリーの質に関しては安定の強さを誇っています
これまでの試合ほど圧倒できている感じはありませんでしたが、どのエリアでもバランスよくキャリーしており、「このエリアで勝負してくる」といった傾向が絞りづらいアタックをしていた印象です
どの選手も確実にコンタクト位置よりも前に出てくるので、早稲田側としては少なからず消耗させられていたのではないでしょうか

目立ったキャリアーとしては、先述しましたが2番の江良選手、6番の青木選手あたりが目立っていましたね
2人とも体の強さに懐の深さを兼ねなえており、例え懐に入られたとしても体の強さで前に出ることができていました
さらにオフロードのうまさもあるので、ディフェンス側としてはかなり守りづらかったのではないかと思います

今回の試合では対照的に4番の本橋選手や8番の延原選手が少し静かでしたね
普段の試合であれば5番の尹選手とともに強烈なペネトレーターとして積極的に前に出るシーンが多く見られるのですが、今回は早稲田のディフェンスのプレッシャーもあり、尹選手が一度トライに持ち込んだキャリーくらいが目立った箇所でした

細かく回数を見ていくと、9シェイプでのキャリーが21回、10シェイプでのキャリーが5回となっていますね
普段に比べると少し10シェイプが少なめな印象でしょうか
シェイプ外では中央エリアで12回、エッジエリアで11回の合計23回のキャリーが起きており、回数的には9シェイプとトントンといいた感じです

帝京のパス

パスワークに関しても特殊なものはありませんでしたね
ただ、元々策を弄したようなパスワークをしないチームですが、今回の試合の中では不要なつなぎ・オフロードパスが多かったように思います

パス回数を見ていくと111回となっており、キャリー・パス比は7:11くらいとキャリーが多い傾向にあります
普段の帝京はもう少しパスの比率も大きいような気がするので、今回の試合は普段通りのアタックをイメージしながらも、普段通りのアタックには至っていなかったように見えました

先述した「不要なつなぎ」に関してですが、今回の試合ではターンオーバーになることこそ少なかったものの、ラックを安定させてもいいのではないかと考えられるような場面でオフロードパスや細かいパスを使って繋ごうとする様子が見受けられ、それがうまくいかないことによる弊害があったのではないかと思います
普段であれば繋がるようなパスワークでも早稲田のプレッシャーを受けて綺麗につながらない場面も多く、アタックでテンポが出せていないからか無理なパスを放っていたようにも見えました

正直、トライこそ5本とることができていましたが、これまで対抗戦で見せてきた帝京のアタックがうまくハマってとることができたトライというわけではなかったかと思います
かといってそこで普段はやらないようなパスワークをするようなチームではないので、アタックが完成されているが故のバリエーションの少なさが露呈した試合だったよう感じました

パス回数を細かく見ていくと、9シェイプへのパスが22回と最も多く、10シェイプへのパスは8回にとどまっていました
10シェイプでは江良選手がもらうことも多かったので、そこからのスイベルパスなど、外方向へのつなぎは何度か見せていましたね
バックスライン上でのパスワークは17回となっており、これも帝京にしては比較的少ない回数ということができるかと思います
また、オフロードも5回にとどまっていましたね

帝京のディフェンス

アタックでうまくいかなくてもディフェンスの硬さに優位性を見出していたのが王者らしくて良かったですね
3本取られたトライのうち、1本はモールから、1本はイレギュラーなキックミスからと、セットピースを起点とするジェネラルアタックでは得点をほぼ許していません

特に印象的だったのは1人目がタックルに入った後の2人目のタックラーの差し込む勢いですね
1人目で勢いを殺し、2人目で相手を押し返すという部分はかなり徹底されていたようにみえ、特にバックローの選手の差し込みは恐ろしいものがありました
それも基本的にはペナルティを取られることのない高さで完結しているので素晴らしいです

少しネックになったのは相手の中央エリアでのキャリーに対するディフェンスですね
ラインブレイクの多くが外ではなく中央エリアで起きており、特に10シェイプや12シェイプといった少しパスを経由したポッドアタックにゲインされることが多い印象でした
外であればパスを回している間に内側の選手がサポートに回ることができるのですが、中央エリアで差し込まれることが多かったためにラインブレイクのほとんどがそのままビッグゲインにつながっていました

イメージとしてはポッドの対面に立った選手に迷いが生じ、細かいパスワークや一つのパスによって一気に切られるといった形になっていたかと思います
特に早稲田はポッド内でのパスワークやワンパスでのずらしに優れたアタックをする傾向にあるため、帝京がここまで経験してこなかった「パスを重ねて一つのパスで相手を切る」といったアタックに翻弄されているように見えました

まとめ

今回の試合、早稲田はセットピースこそ苦戦したものの今シーズンのベストパフォーマンスを見せた試合だったように思います
その分、今回で帝京を下す事ができなかったことが今後どのように響いてくるかが気になる部分ではありますね

帝京は試合をうまく運ぶことができる状況に慣れすぎていたようにも見え、うまくいかない場合の動きが少し固まっていなかったように感じます
ただ、苦戦や敗戦を経験した帝京はその後のシーズンで爆発する傾向にあるので、今後が違う意味で楽しみになってきました

今回は以上になります
それではまた!


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