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2024関東大学ラグビー春季大会Aグループ:東海対早稲田を簡単な数字で見てみた

みなさんこんにちは
少し雨模様にもなった週末明け、いかがお過ごしでしょうか

今回は5/19に行われた関東大学ラグビー春季大会Aグループ、東海大学対早稲田大学の試合についてレビューをしていこうと思います

それではまずメンバー表から

次にスタッツです

それでは順番に見ていきましょう


東海のアタック・ディフェンス

東海のアタックシステム

東海は昨シーズンを持って絶対的司令塔であった武藤ゆらぎ選手が退団し、奥田選手が司令塔となってチームを動かしています
ただ、あくまでも傾向レベルであれば昨年度までのような10番を起点にしたラック感の幅の広い10シェイプ多めのアタックといった雰囲気はなく、どちらかというと12番のセブンスター選手までを組み込んだような9シェイプを多く用いるアタックをしているように思います

もちろん10シェイプが全くないというわけではないのですが、特に今回の試合では停滞時に逆目側にボールを振って狭いエリアを往復させるようなアタックをすることが多く、その際に多く用いられていたのが9シェイプといった感じです
ピストンアタックのように広いエリアを展開して攻めるようなシーンは比率的にはそこまで多くはなかったように感じています

アタックの中でキモとなっていたのは薄田、汐月、大森選手のようなバックローの選手と、WTB - 特に14番の中川選手 - が大きな存在感を持ってアタックに参加していました
9シェイプが多い傾向からコンタクトエリアでの強度が上がり、その部分でいかに出ることができるかが東海のアタックの良さを規定していたように思います

アタックの中ではフィジカル的な部分で優位に立っているように見えていて、早稲田のダブルタックルに押し込まれるシーンもありましたが、全体的に勝負には勝つことができていたような印象です
キャリアーに少し迷いが見られるようなシーンもあって迷いなく相手に仕掛けることができていたというわけではなさそうですが、同数での勝負であればグッと押し込むことができていました

アタック全体を見ると、ある程度は階層構造を作り出そうとしている印象を受けましたが、全体的に深さが一定の範囲内で収まってしまっており、相手ディフェンスの足を止めるほどにはランダム性を前に出すことができていなかったように見えました
特に後ろのラインで展開している時はそこから浅い位置にいる選手にボールが回るシーンがそこまで見られておらず、前に出てくる相手ディフェンスの裏をかくことができていなかったように思います

そのため、アタックはアンストラクチャーや意図しないキャリーが生まれたようなシーンでは少し単調になっており、数的優位性もそこまで作れていないことからマンツーマンで抑えられているようなシーンが多かったように感じます
ラインの深さも中途半端になってしまっているシーンが散見され、相手に仕掛けるスピードもコントロールしきれていないため相手ディフェンスに自由に動かれてしまっていました

キックゲームの部分に注目してみると、大きく押し込まれるシーンこそ少なかったものの、セブンスター選手が CTBを務めることになってフロントラインに上がった影響か、全体的に距離が伸びきっていなかったようにも感じました
15番の千葉選手が試合展開や空気を読みながらキックを挟んで中川選手がうまくそれに応じる形でキック前後の動きを整えていましたが、戦略的には昨シーズンと少し様相が変化しているようにも思います

東海のキャリー

東海のキャリーは、今回の試合ではパワーハウス系の選手があまり出ていなかったこともあって、力ずくでシーンを打開するような状況はあまり見られなかったように思います
25番のスミス選手がもしかするとその辺りを期待されているのかもしれませんが、今シーズンから本格的に出場してきたこともあってか、うまく周囲の選手との息が合っていなかったように見えました

体の使い方のあたりを見ていくと、頭を下げすぎず上げすぎず、「コンタクトをする際に力が入るポジション」でコンタクトをすることができている選手が多かったように感じます
昨シーズンのオフィナ選手のような圧倒的なキャリー力を持っている選手は不在でしたが、全体的にコンタクトシーンやフィジカルの部分では少し上手だったように思います

回数を見ていくと1試合通じたキャリー数は105回と、展開の割にはキャリー数が伸びているような印象ですね
早稲田の得点シーンはフェイズを重ねていないこともあってキャリー数が東海より若干多いくらいに止まっており、あえて言及するのであれば「東海がキャリーを得点に繋げることができていない」ということができるかもしれません

細かく回数を見ていきましょう
キャリー全体のうち50回がポッドを用いたキャリーになっており、45回が9シェイプ、5回が10シェイプになっています
前後半で比率が極端に変わっているといった様相もないので、この辺りはある程度意識した展開であったことが予想されるかと思います

シェイプから外れたものを見ていくと、中央でのキャリーが20回、エッジでのキャリーが15回生まれているという結果になりました
この辺りにゲームモデルや意識があるかは見て取ることはできませんでしたが、中川選手をはじめとする外側の選手に決定力があるようにも感じたので、もう少し外側のエリアを効果的に使うのもアリなのかもしれないとは感じました

東海のパス

全体的に見て精度が悪い感じはありませんでしたが、リズムが少し短調すぎるきらいがあったようにも思うので、その結果として早稲田側が容易に動きをコントロールすることができていたようにも感じました
特にバックラインで回している時のパスワークの多くが似たような角度で動いていたために早稲田側も一定のスピードで詰め切ることができているようにも見え、プレッシャーを受けやすくなっている様相はあったように思います

キャリー・パス比としては2:3より少しパス比率が低いといった感じで、回数だけを見ても昨年度とかなり違うラグビーをしているというように表現することができるかと思います
今回の相手でもある早稲田のディフェンス的にパス回数をこなせば崩せたというわけではないかとも思いますが、もう少し違う展開をするのも戦略的にはありかもしれません

パス回数を見ていくと、ラックからのボールは45回が9シェイプへ、20回がバックスラインへと展開されています
定義レベルの課題はあるかもしれませんが、このあたりの数字を見てもSOにボールが渡るシーンの少なさを見て取ることができるかもしれません

バックスラインへと回ったボールは2回が10シェイプへ、29回がライン上でのパスワークとなっています
こちらも昨年度と比べると圧倒的に10シェイプを用いる回数が減っているような様相を見ることができ、武藤選手が抜けたことに酔う影響を感じることができます
バックスラインへとボールが回った回数を加味して考えると1つのフェイズのライン上で何度もパス交換があったという感じでもないので、外側のエリアを意識して使うといった雰囲気はなかったように思います

スイベルパスのような裏のラインを使うパスは前後半合わせて8回となっており、「多いチームはもっとしているし、少ないチームよりは多い」くらいの数値感になっているかと思います
一応表裏を作るようなライン構成はしているかと思いますが、表裏を組み合わせながら、というよりは「表をダミーに裏を一気に通す」といったようなパスワークだったように見受けられ、表のラインで釣ることができていない時はかなりプレッシャーを受けていたように見えました

東海のディフェンス

何よりもタックル成功率の部分に渋いところがあると思っていて、関東リーグ戦で見ることの多いような相手を弾き飛ばすようなキャリーを受けるシーンこそ少なかったものの、「少しのステップや位置関係のエラーでタックルを外されるようなシーン」が多かったように思います

全体的にディフェンスラインもコンパクトで、言い方を変えれば「幅感が出せていない」ような状態でもあり、流動的に動きながらラインの幅感を出してくる早稲田のアタックにうまく対応することができていなかったようにも感じました
ラインの上がり方も波打つような感じで、突出して裏からカバーして、を繰り返すような動きをしていたように見えました

詰めるか流すかの判断もチーム内でコンセンサスが得られていないような感じで、ある選手は詰めてある選手は流したりと「体の向きがバラバラになっている」ようにも見受けられました
そのため突発的にギャップが生まれてしまうシーンがあり、うまく縦をついてくる早稲田のアタックに食い込まれているシーンが散見されていました

ただ、9シェイプへのプレッシャーはかなり高い精度でこなすことができていて、相手との位置関係や相手のキャリー戦略にもよりますが、一人で仕留め切ることも二人で押し返すこともできていた印象です
この辺りはバックローの選手のワークレートも光っており、大森選手や薄田選手がいい形で刺さることができていましたね

一方フォールディングで幅感を出すことができていないこともあって2パス以上重なってくる位置へのプレッシャーが甘くなる様相も感じていて、全体的な動きとしては流す傾向にあったように見ています
幅を作りながらラインをセットすることができないので常に横方向へのベクトルを持ちながら移動することになり、タテる動きにはかなり弱そうな印象を受けました

早稲田のアタック・ディフェンス

早稲田のアタックシステム

今回は昨シーズンまでも10番に入ることが多かった野中選手がSO役に入っていたこともあり、流経戦に比べても10シェイプをうまく活用するようなシーンが多かったようにも見えました
ポッドの中心選手でもある佐藤選手はどの位置に入っても良さを発揮することができるので、グラウンドのさまざまな位置にポッドを作ることができていた印象です

全体的にライン幅が広く、 SHからもSOからも広いアタックをすることができるので、ディフェンスラインが狭くなっていた東海のディフェンスにうまくハマっていたように感じます
BKは展開に長けた選手とキャリーしてからの繋ぎに長けた選手が揃っていてバランスが良く、FWの選手にも走力がある選手がいるので全体的なスピード感の部分で圧倒していましたね

アタックのテンポはかなり早く、スタートの細矢選手も控えの糸瀬選手もかなり意識的に早さを上げていたように思います
選手が大きく立ち位置を変えるようなことが少ないためにセットが比較的早く、前後移動を中心としたコスパの良いアタックをしていたということができるかもしれません

選手個人に着目していくとやはり佐藤選手のうまさが際立っていたように感じられ、どのエリアでも安定感のあるプレーをすることができるのが何よりも大きな要素であるように思っています
特にラインアウトからの2ndフェイズではほぼ佐藤選手がキャリーをたんとしており、「テンポを出したいがセットが間に合いにくい」シーンでの対応力を遺憾なく発揮しているように感じました

 CTB陣もかなり安定してきていて、特に福島選手は13番のプレースタイルがかなり落ち着いてきたように思います
昨年度まで13番に入っていた岡﨑選手とはプレースタイルが少し異なっており、福島選手はどちらかというと「キャリーから打開する」タイプなので相手との接近戦に強く、かなり意識的にオフロードを狙っている様子が見受けられました
ただ、少し狙い過ぎているような気もするので、この辺りは匙加減になってくるかもしれません

アタックスピードがかなり速い早稲田のラグビーですがブレイクダウンには少し安定感を欠いているような印象があり、ボールを置く動きやサポートの部分で不安定さを感じるシーンもありました
東海のプレッシャーがそこまで強烈だったわけでもないと思うので、この辺りは改善の余地があるようにも感じています

早稲田のキャリー

どの選手も相手を弾き飛ばすような強さがあるというよりは「ずらして前に出る」ことに特化しているような印象を感じました
もちろん9シェイプをはじめとしてコンタクトが避けられないシーンでは手堅いコンタクトをしているのですが、常にコンタクトでの優位性よりも位置的な優位性を細かく狙っていくような動きをしていて、それを実現しうるステップワークのうまさも兼ね備えている選手が多いように思います

特にバックファイブの選手は走力に長けており、気が利くので SHの動きに合わせてきっちりと走り込むようなシーンも多かったように思います
少しずらしを入れながら前に出るので相手に懐に入られるシーンも少なく、動きながらキャリーをすることで相手の勢いを殺すこともできていたように見えました

キャリーの回数は125回となっていて、打ち合いの様相をきっちりと反映したような数値になっていると思います
東海と比べてもそこまで多い数値にはなっていないことからポゼッションで圧倒したというわけでもなさそうですが、何よりもトライ効率がいいのでこれくらいのキャリー数でもペナルティトライ含めて9回のスコアを産んでいるのだと思います

キャリーを細かく見ていくと9シェイプを使ったキャリーが36回で10シェイプを使ったキャリーが11回とポッドアタックが47回となっています
キャリー全体の4割弱を占めている形となっており、この辺りにはある程度のこだわりを感じ取ることができます

一方でシェイプ外のキャリーは中央エリアで20回、エッジエリアで26回とこちらも一定数の割合を示しており、ポッドを使ったアタック一辺倒というわけではないという状態を示しています
どちらかというと外のエリアを使ったアタックをしているといった点でも試合展開のイメージに沿った数字となっており、鈴木選手のような好ランナーがうまくチャンスメイクをしていたように思います

早稲田のパス

パスワークとして特筆するような特別な動きはなかったですが、むしろ一般的なパスワークの水準が高くて距離が出るので、狭いディフェンスラインを敷いていた東海側のディフェンスラインを崩すシーンが多く見られていたと思います
SOの野中選手の動きや捌きもよく、パスワークからアタックの勢いを作り出すということを体現していたように思います

あとは随所でのオフロードの精度も光っていたように思います
数こそ多くはなかったですがオフロードによってチャンスメイクされたシーンも多く、効率的なパスワークの一助になっていたように感じました
キャリーの姿勢もある程度オフロードを見越した状態でこなせる選手も多く、それでいて無理な繋ぎが少なかったことは好印象でした

パス回数全体では200回のパスが生まれており、どちらかというと大学シーンでは多めの部類に入る回数かと思います
キャリー・パス比も2:3に比べるとパスが多めといった形になっており、パスワークを積み重ねてアタックをしている様相が見て取れるかと思います
一つ一つのパスが短くてもそれを重ねていくことで幅にバリエーションを生んでいるので、グラウンド自体は広く使っていたように感じました

ラックからのパスアウトは46回が9シェイプへ、38回がバックスラインへと供給されています
偶然ですがどちらも前後半同じ回数になっていたので、無意識のうちに比率をイメージしながら動いている可能性もあるかと思います
バックスラインへの展開回数も多く、昨シーズンのような動かし方もある程度視野に入れながらラグビーをしているかもしれません

バックスラインへと回ったボールは合計13回10シェイプに送られ、48回がバックスライン上でのパス回しとなっています
10シェイプの多さもありますが、回数的にはバックスライン上でかなり動かしているのが目立ってくるところではないかと思います
 SHもSOも大きくパスを放ることもできますが、狭いライン幅で細かくパスを繋いでいたのも印象的でした

早稲田のディフェンス

慶應ほどの勢いはなく、帝京ほどの圧倒的プレッシャーもないとは思いますが、手堅くキャリアーを仕留め切るタックルをなん度もこなすことができるのが早稲田の「ディフェンスの形」ではないかと思います
もちろん外されることもありますが、一人一人の精度が高いために致命傷にはならない感じですね

また、タックルシーンだけではなく「隣の選手がタックルに入った時の反応力」も非常に高いものがあると思っています
早稲田のディフェンスは丁寧にダブルタックルに入るところにも特徴があると思っていますが、それを実現しているのも反応と対応力であるように感じていて、サポートタックルに入るか入らないかの判断やラックへのコミットをするかどうかの判断も非常に優れています

一方で相手の流れるような動きで行われるキャリーに対しては少し後手に回るような印象があり、これは縦方向へのベクトルを重視しているからではないかと見ています
早稲田は統率された動きでディフェンスラインを上げることができているのでラインが高精度出揃っているのですが、現段階では勢いのコントロールの部分で改善の余地があるように見られ、前段階で芯を外されるとある程度前に持っていかれるシーンが散見されていました

まとめ

打ち合いの様相を呈しましたが、どちらもいいプレーから生まれたトライが多く、全体的には引き締まった試合展開になったのではないかいと思います
まだ春も試合数をこなしているわけでないですし、まだ戦線に復帰していない選手もいると思うので、両校のこれからを非常に楽しみにしています

今回は以上になります
それではまた!

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