マガジンのカバー画像

小説置き場

20
運営しているクリエイター

#炎節

炎節の旅立ち

炎節の旅立ち

 あの夏も暑かっただろうに、なぜだかうまく思い出せない。思い出せるのは、目が眩むような日差しと思考を奪う蝉の鳴き声。感情を浮遊させていた葬祭会場のしんとした空気と、指先の冷たさだ。

 ほとんど話したことがないクラスメイトが亡くなった。「嘘やと思った」と別のクラスメイトが言う。嘘だとしたらタチが悪すぎるけれど、嘘の方が良かった。

 同じ教室で数ヶ月過ごしただけなのに、訃報を受けてから、彼と交わし

もっとみる