見出し画像

実録「上から書店員」08:モンスターとの死闘?

いらっしゃいませ。

出版の世界の片隅に、うちを見つけてくれてありがとう♪と、日頃から感謝の気持ちを持ちつつも、本を愛するあまりについつい上から目線になる、接客に向かない書店員・魚住です(あいさつ長っ!)。

突然ですが、皆さんのまわりにモンスターはいますか?
日頃あなたが狩っているモンスターのことじゃありません。
ひとのカタチをしていて、自分の意見が絶対だとし、微塵も疑わず、主張し、魔王のように理不尽さと無理難題をごり押ししてくる異常なモンスターのことです。
そうです、モンスターペアレントのことです。ああ、怖ろしい。

有象無象書店ホルス無双店には絶対に来てほしくない人たちです。
百歩譲って来る時は「実るほど 頭をたれる 稲穂かな」という俳句を百回唱えてからご来店ください。

モンスターペアレントまでいかなくても、その昔「教育ママ」という存在もいました。懐かしいですね(笑)。モンスターペアレントとの違いがちょっと分かりませんが、「口うるさく」「いちゃもんをつけてくる」というのは同じです。
教育ママは、とにかく「勉強しろ」とうるさいママです。「ゲーム」や「マンガ」はもっての外。挙げ句の果てに「あの子と遊んじゃいけません」とか言うわけです。

あ、モンスターペアレントとの違いが少し見えてきました。
教育ママが成績重視で子供に向かってガミガミ言う母親というのに対して、モンスターペアレントは学校・先生・世間に向かって何でもいちゃもんをつける父親か母親(祖父母の場合もある)。

さて、今日お話しする客はどっちでしょうか。

その日、有象無象書店ホルス無双店のレジカウンターにツン先輩(人見知りであまり笑わないけど、笑うととっても可愛い19歳)とともに立っていたところ、40代ぐらいの女性がすごい剣幕でやってきました。

私「いらっしゃいませ」
ママゴン「ちょっと! これ、見なさいよ!

やたらと憤慨しているその女性は、絵に描いたような教育ママ。黒縁メガネをかけています。なんてベタなんだ。キーキー声の女性の背後には、おずおずと…恥ずかしそうに小さくなっている中学生男子の姿(学生服)。怒られてる時の子供そのままです。可哀想にのお。

ママゴン「こんなマンガを置くなんて、子供がすぐに手に取りやすいでしょう! 間違って買ったらどうするの! この店はどうなっているの!」
ツン先輩&私「「は?」」

レジカウンターにバンっ!と置かれたコミックス。
そのマンガのタイトルは…『暗殺教室』!!!

は言わずと知れた「週刊少年ジャンプ」の人気マンガ。コミックス1、2巻が出て数ヶ月後のことでしたが、すでに人気沸騰。ベストセラーになっていました(ちなみに、アニメ化されるのも、実写映画化されるのも、この数年後のこと)。

「この店はどうなっているの!」って言われても「こうなっています」としか返しようがありませんがな。

ママゴン「この子がね、こんな危険な有害図書を買いたいって言うのよ! 子供たちが見つけやすい場所に置かないでほしいわ! 悪い影響受けたらどうするの!」
私「お客様…『暗殺教室』は学園コメディマンガですよ。有害図書ではありません」
ママゴン「誰が読むのよ、こんな危険なマンガ!
私「誰って…大ヒットしてますが…とても人気のマンガなんですよ」
ママゴン「だって、『暗殺』って題名じゃない。教室で人殺しをするマンガでしょう!? それとも人殺しを教えるの?」
ツン先輩「殺すのは人じゃないですよ。それに殺せないです、速いから(笑)」
ママゴン「え? 何なの、それ? 有害図書じゃないの? この子に与えても大丈夫なのー?」
私「(そもそも有害図書って何だよと思いながら)全然危険な内容じゃありません」(だいたい危険な内容って何だよと心の中でツッコミながら)

私「(息子くんの方に向かって)ねぇ、学校で人気あるよね、このマンガ」
息子くん、無言でこくっとうなずく。
私「君が読みたいんだよね」
息子くん、再びこくっとうなずいた。

こりゃあ普段、相当怖いママゴンなんだな。可哀想に。
すると、少し落ち着いてきたママゴンが妥協案(?)を出してきた。

ママゴン「わかりました! そういうことなら息子に読ませる前に、まずは私が読みます!
ツン先輩&私&息子くん「えええーーーっ!?」

ママゴン「私が読んで、危険じゃないと判断したら、その後に息子に読ませます!」

ツン先輩&私&息子くん(めんどくせーーーっ!!!)

『暗殺教室』1巻と2巻を購入して、ママゴンはうなだれる息子を引き連れて、帰って行った。
なんか一見正論のようだけど、全然納得できない感じがする。

マンガって親の許可を得て読まなきゃいけないものなのか?
子供って文科省推薦図書以外読んじゃいけないのかな?
私が子供の頃からマンガのほとんどが有害図書扱いだった。詰め込み教育のまっただ中というのもあったが、マンガ自体とても虐げられた存在だった。
そんな中でこっそり読むマンガのおもしろいことおもしろいこと!
親や学校の先生が教えてくれないことをマンガから学んだ。難しくて読めない漢字や分からない言葉は辞書をひいた。今ならGoogle先生がいるよね。

話ずれるけど、高校時代に社会科の授業で、先生が「おまえら、戦闘機っていくらぐらいするか分かるかー!」と突然言い出した。
「100万ぐらいだと思う者ー? 1000万ぐらいだと思う者?」と手を挙げさせておいて「そんなんじゃ買えないんだぞー! じゃあ、1億円だと思う者?」とほとんどが手を挙げたところで「全然そんな金額じゃ買えないんだ」と続ける。私が全然手を挙げないのを見て「お! おまえはいくらだと思うんだ?」と指されたので「91億」と答えた(ブルゾンではなーい!)。
「正解だ! 戦闘機は90億以上するんだ! よく知ってるな!」と褒められたことがある。
実はこの知識、手塚治虫先生の『ブラックジャック』で学んだこと。こんなところで役立つとは。やっぱりマンガは役に立つのですよ。

私は、マンガや小説って、自分で見つけて、自分の意思で読むものだと思っている。怒られたらこっそり読むところから感性は磨かれると思う。
おもしろいかおもしろくないかは自分の感性で思えばいいことだ。

1995年頃から若手芸人の取材ばかりしていて、長年お笑いを身近に見て分かったことがある。
最初から「お笑い芸人になること」を親が勧めたり、家族で応援されてる子はプロの芸人にはなれない。なれても長続きしないか、売れない。何故なら、ちっともおもしろくないからだ。
「うちの子、おもしろいんですよ!」ってゴリゴリ押してくる親の子供は絶対におもしろくない。

自分が読む本やマンガも好きな音楽も進路も自分で選べ! その方が大成する。親に反対されてナンボやで!(反対されて説得できたらなお良し!)

有象無象書店ホルス無双店に来たママゴンは、果たして『暗殺教室』を読んでどんな判断を下したのでしょう。

息子くんよ、どっちの判断になってもこっそり読め。読みたい時に読め。
おもしろいかおもしろくないかは自分で決めた方が良い。
検討を祈る!

しかし、ふと思った。
あのママゴン、実は自分が読みたかっただけなのではないか、と(笑)。

ありがとうございました。また、お越しくださいませ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?