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【読書感想文】「ただいま」を伝えたくて

町田そのこ『星を掬う』を読んだ。

あらすじ
子供の頃、母親に捨てられた過去を持つ主人公・千鶴は、DV夫から逃れるため、「さざめきハイツ」にやってくることになる。その家には、千鶴を捨てた母親・聖子と、娘に捨てられた彩子、聖子をママと呼ぶ恵真の3人が住んでいた。

没個性的だったはずの母は、同一人物と思えないほど、ぎらぎらする個性的な人物になっていて、やつれた千鶴の顔を見て、「げ」と言って遠慮も、優しさもなく顔を顰める……。

捨てる、捨てられる。

加害者、被害者。

子供にとって、母親とは。

娘にとって、母親とは。

母親にとって、娘とは、子供とは。

誰かに捨てられるということは、とても深い傷を残す。

母親という近しい存在であればあるほど、愛情を感じたい人物であればあるほど。

捨てられた側は、行き場のない孤独な思いをもてあまして、捨てた相手に憎しみを抱くこともある。

また捨てた側も、捨てさせられたのだという(ある意味勝手な)絶望を味わう。

自分は選んでもらえなかった。

と、お互いに思っている。

この本を読みながら、一青窈の「ただいま」をふと思い出した。

一青窈「ただいま」

一青窈さんは、8歳で父親と、16歳で母親と病気で死別している。

この「ただいま」という歌は、そんな人生を彷彿とさせるような歌詞が並ぶ。

運命につねられた
赤い目のあたしがいて

一青窈「ただいま」より

失った。

それは誰のせいとかでもなくて、失った。

まるで運命のいたずら。

運命につねられて、どうしたらいいのか分からない。泣くしかない無力な自分。後悔するしかない愚かな自分。

中略

少しだけ
後ろ髪ひかれてる幼き夢
いつだっておいでおいでする
あなたの優しさ
帰る場所をみつけたくて
自分の真ん中でささやく
ないものねだる子供だから
ただ、今をはやく伝えたい

無くしたって変わったって
想い通りいかなくても
ないものねだるどのあなたも
好きですきですきで・・・たまには叱って
帰る場所をみつけたから
あのときの私許して
ないものねだる子供のように
ただ、今をはやく伝えたい
「ただいま」をうまく伝えたい

一青窈「ただいま」より

この『星を掬う』の主人公・千鶴も、母親に「ただいま」を伝えたかったのだろうなと思った。

どんなに求めても、帰ってこなかった母親。裏切られ続けた人生。運命はつねるばかりで、そよ風も吹かない。

どんなに憎んでも、夢の中で母親と「また、いつか」と望む。

母親を憎んで、恨んで、「あんたのせいで私の人生は!」と思う。叫ぶ。

作中のあまじょっぱいバナナサンドがとても印象的。

「わたしの人生は、わたしのものだ!」

町田そのこ『星を掬う』より

誰もが、きっと帰りたい場所があって、でも同時にそこを恐れていて。安心できて、不安になって、温かくて、孤独な場所。

わたしの人生は、わたしのもの

魂の叫びのようなこのセリフが、この本の真髄なんだと思った。

母親であっても、娘であっても、親じゃなくても、本当の子どもじゃなくても、ただの元伴侶であっても。

またね。

いつかね。

って言える、ただ、今に、

「ただいま」って言いたい。

苦しいくらい、切実な願いのこもった1冊だった。

《注意》
本編に「ただいま」は特に大事なワードとしては、登場しません。

私の連想にすぎないので、ご注意を。

【今日の英作文】
様子が変だけど、一体どうしたの?
You're acting strangely. What's gotten into you?

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