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シジミ蝶


国道二号線を走っていたら
ふいに視野の右端から
何か飛び込んで来た
と思ったらサイドミラーの上に
シジミ蝶が止まっていた
小指の爪ほどの大きさの
灰白色の翅をピタリと閉じて
全身で風を浴びている
すぐに飛んで行くだろう
ちらりちらりと見ていると
アクセルを踏む足が緩んでくる
バックミラーの後続車が迫って来た
少し焦ってアクセルを踏み込む
吹き飛ばされるかな?
だがシジミ蝶は動かない
ちら見を続けていると
またアクセルが緩んでくる
後ろの車が迫って来て
アクセルを踏み込む
これをもう一度繰り返したが
シジミ蝶は動かない
道路の両側に続いていた
古い街並みを抜けると
港の棕櫚の木が見えてきた
十字路に差し掛かり
赤信号で停止する
風が止んだ
遠くに海が見える
ふっと シジミ蝶が飛び立った
フロントガラスの表面を滑るように
曲線を三つ四つ描いた後
身を翻して港の方へ消えた
港からは船が出て行く
故郷の島に寄る船だ
何年も帰っていない
もうすぐ四月
母の七回忌がやって来る



*30行以内にリライトしたものを月刊「ココア共和国」’22.8月号に投稿佳作(電子版)。上の作品は元のかたち。

港からは船が出て行く
シジミ蝶


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