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創作物まとめ

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さまざまな企画に参加させていただいたショートショートや、小説等の創作物まとめです。
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記事一覧

クエラクエラ #シロクマ文芸部

クエラクエラ #シロクマ文芸部

「紅葉鳥って鳥のこと言うんじゃないの?ほらあのちっちゃい鳥」
「いや、違うよ、鹿のことを隠語で紅葉鳥って言うって先生言ってたじゃん」
「えーでもさ〜」

今日もあの馬鹿女がハセベくんに話しかけている。

校則で膝丈の長さにしないといけないスカートは短いし、
部活ばっかりしているから定期テストの順位は低いし、
授業中いつも話ばかりしているし。

なのに、頭の良いハセベくんはあの馬鹿女のすっとぼけた言

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日本昔ばなしカラオケ大会 #シロクマ文芸部

日本昔ばなしカラオケ大会 #シロクマ文芸部

誕生日は、桃太郎からカラオケセットをプレゼントしてもらった。

今度、わりと大きなカラオケ大会があるからだ。

桃太郎も本当に大きくなった。
沢山ご飯食べて、勉強や喧嘩をしたり、たまには私やおじいさんに反発したり。
大変なことはあったけど、楽しい思い出が多い。

私が川で洗濯していたら、どんぶらこ、どんぶらことあの大きい桃が流れてきたのが懐かしい。
あそこから出てきたほっぺを桃色に染めた可愛い子が

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声の主を求めて #シロクマ文芸部

声の主を求めて #シロクマ文芸部

「逃げる夢をずっと見続けていてね」

電車のボックス席で向かいに座ってきた老婆が話し始めた。

「私は、あんたくらいの娘だった頃からずっとずっと逃げる夢を毎晩のように見るのよ」

登山が好きな私は、ある休日山へ向かう電車へ乗っていた。

ボックス席に揺られながら眺むる風景は、都会と比べて色が少なく田舎ならではの平凡なつまらなさがあり、それが私を安心させた。

いつのまにか向かいに老婆が座り、
突然

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浮かんでいる #シロクマ文芸部

浮かんでいる #シロクマ文芸部

十二月になっても迎えはこなかった。

八月に入ったばかりの土日、
お父さんとお母さん、
小学生のお姉ちゃん
まだ歩けるばかりになった妹のまどか。
そして私、五人で千葉の海へ行った。

お父さんはお姉ちゃんにクロールを教えていて、
お母さんは砂浜で妹と小さなお城を作っていて、
私は浮き輪で海に浮いていた。

プカプカと浮き輪で浮いていると、
どんどんお母さんと妹の姿は遠くなっていった。

お姉ちゃん

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世界の終わり #シロクマ文芸部

世界の終わり #シロクマ文芸部

最後の日、だと思った。

当時私はまだ小さくて、「皆既日食」なんて現象は理解できなかった。
大人たちは「●年ぶりだ」と大騒ぎだった。

大人のそのソワソワしている様子は楽しそうで、
大晦日の忙しくしながらも楽しそうな、あの雰囲気を漂わせていた。

その皆既日食の日はたまたま休みで、
お父さんとお母さんとお兄ちゃんと庭に出てその瞬間を見届けようとしていた。

「あと5分もしないで始まるぞ」
外では風

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美しい瞬間 #シロクマ文芸部

美しい瞬間 #シロクマ文芸部

新しい朝が来た。
電車のホームに着き、白い息を吐く。

今日は上司に何の理由で怒られるだろうか。
今日は何に緊張しなければいけないのか。

私は真面目に仕事をしているつもりなのに、どうして理不尽なことで怒られなければいけないのだろうか。
三連休明けの日、電車を遅延させる人の気持ちが分からないこともない。

「理不尽なことを我慢するのもお給料に含まれる」って母親に言われたっけな。
私は理不尽なことを

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レンタサイクルの彼女 #椎名ピザカバー

▼夫、椎名ピザのレンタサイクルの彼女を自己流カバーして書きました。

珈琲とコーラを一つずつ頼んだ。

僕の口の中で想定外の苦味が広がり、彼女の珈琲を間違えて飲んでしまったことに気がついた。

「あっごめん」
「いや、コーラは炭酸のシュワシュワ見れば分かるじゃん」
彼女は上目遣いで子どもっぽく口を膨らまし、抗議した。

腕時計に目を落とし彼女がすっと顔色を変えた。
「ごめん、レンタサイクル返す時間

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流れていくもの #シロクマ文芸部

流れていくもの #シロクマ文芸部

本を書く部屋は川の流れる音がした。

私の父は、本を書く人で、昔小説で何かの賞を取ったことがあるらしい。ただその1回だけで、それ以降は全く本を書いても売れないらしい。
そして、もうほとんど本を書いていない。

父の書斎は沢山の本はあったが、それよりも地域の将棋大会で優勝したときの賞状がずらりと並び、存在感を放っていた。

その部屋からは家の横を流れる小川が見え、ツンとする匂いがした。
ちょろちょろ

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来世でまた #シロクマ文芸部

来世でまた #シロクマ文芸部

消えた鍵は多分、フジロック会場で無くしてしまった。

消えた鍵というのは、彼氏と同棲している部屋の鍵だ。
もう私たちは別れるだろうなと思いながらも、
別れを告げるのはフジロックの後がいいかなと、私たちは今年も一緒に参戦した。

彼とは、高校の時から付き合っている。
好きな海外のバンドが一緒で、なかなか他に知っている人なんていなかったから、初めて話した時は大いに盛り上がった。

その海外のバンドは、

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夜とチャリとポップコーン #シロクマ文芸部

夜とチャリとポップコーン #シロクマ文芸部

食べる、夜に、ポップコーンを。

20時に娘を寝かしつけ、いつもは保育園の送迎に使うママチャリで映画館へ向かう。

自転車ってこんなにいい乗り物だったっけ。

朝は車に轢かれないよう、安全に娘を保育園まで送り届けることに夢中で、
夕方は仕事に疲れた体で娘を迎えに行き、夕飯のことを考えながら自転車を漕ぐ。
周りの風景なんて考える暇もない。

だが、この今は目の前のこの状態だけに目を向けられる。
空気

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畳窓の向こう #シロクマ文芸部

畳窓の向こう #シロクマ文芸部

書く時間は、蝉の声が聞こえた。
今でも、あの畳の窓から見た竹藪と蝉の声があった夏を思い出す。

小学生の頃、毎週金曜日は学校が終わると妹と一緒に習字教室へ通っていた。
畳のテーブルがいくつか並び、10人ほど入るその教室で、おばあちゃん先生1人で回していた。

その教室には、「習字は静かに正座をして書くのが基本。おしゃべりは禁止」と書かれた大きい紙が、一番前の壁に飾ってあった。

墨の匂い、
何枚も

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どうでもいいこと #シロクマ文芸部

どうでもいいこと #シロクマ文芸部

「平和とは、どうでもいいことで悩めること」
と、おばあちゃんが言っていた。

私がまだ学生の頃、
一緒に住んでいたおばあちゃんに、
学校の友達の話や勉強の話を沢山していた。

「いいね、あんたみたいな若者がそういう、小さなどうでもいいことで悩める平和だっちゅうことだね」
おばあちゃんはニコニコしながらそう言った。

こっちとしては真剣に悩んでいたことも、このように返されて少し腹が立ったことを覚えて

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風鈴と部室 #シロクマ文芸部

風鈴と部室 #シロクマ文芸部

文芸部の部室の窓には、風鈴がかけられていました。
夏に限らず一年中かかっていたそれは、あなたが持ってきていたものだそうですね。
チリンチリンと鳴る風鈴の音と本の匂いで充満する部室は、私にとって高校時代を思い出す愛おしい風景です。

私たちの通っていた高校は女子校で、
文芸部は、セーラー服のスカートを校則通り膝下に履くような人たちが集まるところでした。

教室で目立たない私たちは、
文芸部で真面目に

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月夜の晩に #シロクマ文芸部

月夜の晩に #シロクマ文芸部

りんご箱を見るたびにザワザワした気持ちになり、思い出す。
幼稚園にも通っていなかった頃に見た夢を。

夢の中の場所は、当時私の住んでいた家だ。
その家は築50年ほどの平家で、家の中心に広い畳の部屋があった。
畳は縁側と繋がっており、よくおばあちゃんはその縁側で近所の人とお茶をしていた。

畳部屋には仏壇があり、仏壇の近くにはその季節の果物があった。
みかんやりんごがどっさり箱に入って置かれていたの

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