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#旅する日本語

抱えているもの

抱えているもの

昔を思い出してばかりいる時期と、今目の前にあることしか考えられない時期とがある。
昔を思い出すときは、生活が落ち着いているとき。
今しか考えられないときは、今やっていることに必死なとき。

今は仕事でもプライベートでも新しく手掛けていることがあって、それに必死なときなので、今しか興味がない時期のはずなのだ。
だけど夏休みという時節柄なのか、最近、自分の小さかった頃のことをよく思い出す。

子どもの

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あいつがやって来る

あいつがやって来る

夜には虫の鳴き声が聞こえるようになり、
冷蔵庫が自分を冷やそうと大きな音を出すことはなくなり、
猫がお膝抱っこをねだる回数が増え、
ベッドで頼りない肌掛けに必死にくるまるようになり、
風呂が長くなり、
日傘とノースリーブの出番が少なくなり、
そうめんの消費のためににゅうめんを作るようになり、
そうして涼しげな風とともに秋の野郎がひたひたとやって来つつある。

ぶきっちょな三段論法

ぶきっちょな三段論法

人のためになにかをすることは、人間の本能であると言われることもあれば、「人」の「為」と書いて「偽り」などと言われることもある。

人のためになにかをすれば、「結果がよければ」という条件付きで、それをした側が気分がいいことは確かだ。
なにかをしてあげるべき、あるいはしたほうがいい状況だったのにしなかった/できなかったときは、罪悪感を覚える。罪悪感から自分を正当化することもある。

先だって、近所のマ

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夏の明け方

夏の明け方

中二の夏休み、友達(女)と午前3時に待ち合わせするのが日課だった。
なにがきっかけだったのかも、待ち合わせてなにをしていたのかも記憶にない。
待ち合わせ場所にしていた橋に自転車で駆けつけ、その子と会えた瞬間だけしか覚えていない。
明け方になるまでどうでもいい話をしていたんだろう、たぶん。

とはいえ、寝ても寝ても寝たりない10代の子どものことだ。
ある晩、家を抜け出すためにセットしていた目覚ましが

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正直なサービスってなんだろう

正直なサービスってなんだろう

昨日はお腹を壊し、一日なにも食べられなかった(わたしは腸があまりよろしくない)。
今日のお昼になってもお腹がすかなかったけれど、さすがに歩くのもつらくなってきて、なにか食べないとまずいでしょうと思い、出先でなにか食べることにした。

そうめんが無性に食べたかったけど、そうめんを出してくれそうな店があるとは思えなかったので(そうめんを外食したいときってどこに行けばいいんだろう)、チェーンのイタリア料

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甘い麦茶

甘い麦茶

幼稚園生だったころ、わたしは毎日ゆうちゃんの家に入り浸っていた。ゆうちゃんの家は、我が家から徒歩30秒のところにある、きちんと整理整頓されたこぢんまりとした家だった。
ゆうちゃんは、わたしより1つ歳下の女の子だ。

だけど、あんなに毎日ゆうちゃんと一緒に遊んでいたのに、なにをして遊んだのか、どんなことを話していたのか、今やまったく記憶にない。
覚えているのは、茶の間の片隅にお母さんが趣味で使ってい

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物持ちがよすぎる

物持ちがよすぎる

今使っている定期入れ(パスケース)は、25年くらい前に買ったものだ。別の言い方をすれば、四半世紀前ということになる。「四半世紀」という言葉のもつインパクトにびっくりする。
「銀座かねまつ」の本店で、この定期入れと、口紅くらいしか入らない小さなポーチと、あともう一個なにか小物がセットになって1万円だった。
角っこが多少ハゲてはいるものの、壊れもせず問題なく使っている。
もう何年も新しい定期入れを探し

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いい夏をすごすのだ

いい夏をすごすのだ

アブラゼミが頑張っているところに、ヒグラシが優雅に声を響かせ、遠くから盆踊りの音楽がかすかに聞こえてくる。

まるで田舎のおばあちゃんちにいるみたいだけど、ここはれっきとした東京(のやや郊外)。

男の子が二人、浴衣を着たお母さんを両脇からエスコートしている。男の子たちはお揃いの粋な甚平を着ている。
小学生くらいのお兄ちゃんが、弟に「お母さん、きれいだろ」と言っている。弟くんは「そうだね!」とニコ

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どうしておなかがへるのかな

どうしておなかがへるのかな

訳あって1泊2日で宮城県某所に行ってきた。
事前に天気を調べていたら、最高気温が25℃って東京じゃありえない数字だった。
北海道じゃあるまいし、いくら北の方とはいえ、東京都10℃も気温が違うってありうるのか!? と天気予報さえも疑った。
多少外れることはあっても、少なくともわたしよりは正しいはずの天気予報に対して、意味のない懐疑をする自分は愚かだと思いつつ、酷暑にやられちまって頭がおかしくなってい

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