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『説得力』を上げるテクニックまとめ

はじめに

「自分の発言に説得力をつけたい」

誰しもがこう持っているのではないでしょうか。
説得のテクニックはあらゆる場面で役に立ちます。近年では、テクノロジーの発達に伴って、個人でもメディアを持てる時代になりました。不特定多数に向けて意見を発信する機会が急増する社会において、説得のテクニックを知っていることは大きなアドバンテージになるでしょう。

例えばnoteならば、より説得力のある記事を書くことができるようになるでしょう。会社でのプレゼンテーションや、YouTubeやSNS等で不特定多数に意見を発信する場合は、「あの人の発言には説得力がある」と一目置かれる存在になるかもしれません。

この記事は行動経済学、社会心理学の見地から人を説得する方法についてまとめたものです。元々は書籍で学んだ内容を自分用にマインドマップにまとめていたものでしたが、もしかしたら他の人にも需要があるかもしれないと思い、文章化してみました。




人間は正しくありたい生き物


説得のテクニックを学ぶ前に、まず全ての人間に共通する性質を把握しなければなりません。
人間は「正しくありたい」という欲求を持ちます。説得はこの基本的欲求に訴えかける行為です。
とはいえ、あなたは間違っていますと正論をぶつけるだけでは、相手は納得しないでしょう。

大切なのは、相手の選択権を阻害せず正しい方向へ誘導することです。行動経済学では、これを肘で軽く後押しするという意味でナッジ(nudge)と呼ばれます。


意見と態度の違い

人を説得するには「意見」と「態度」の違いを理解しなければなりません。
「意見」は一時的で変化しうるものです。特に思い入れがない中立的存在について述べる場合は「意見」となります。例えば、ある人が納豆を食べるとダイエットになるという意見を持っていたとしましょう。ところが、納豆は一切ダイエットにならないという科学的結論が示されれば、この人は意見を変えるでしょう。

他方で、「態度」は情動的で変化しにくい性質を持ちます。論理よりも好き嫌いによる判断が大勢を占めます。簡単に言えば、その人が好きなものについての否定的意見は、いくら内容が正しくとも受け入れられないのです。

相手の態度に逆らった説得は困難を極めます。例えば、学歴至上主義の親に「子どもを無理に大学へ行かせる必要はない」と説得してみたとしましょう。
「いい大学から一流企業に入って終身雇用が約束された時代は終わっています。テクノロジーの発展でクラウドソーシングが進み、優秀な人はスキルを身につけフリーランスになっているんですよ。無理矢理大学へ行かせるよりも、お子さんが本当にやりたいことをさせてあげるべきです」
この場合は、情報の真偽を確かめるでもなく、そもそも聞く耳は持たれないはずです。仮に聞く耳を持ったとしても、この親の学歴至上主義を無くすのは難しいでしょう。


反対に、相手の態度に沿った説得はより簡単になるでしょう。

子どもを大学に行かせるよう説得してみましょう。「クラウドソーシングにおいても、学歴があれば信頼度は上がり仕事が取りやすくなります。お子さんは是非大学に行かせるべきです」
学歴至上主義の親ならこの言葉ならば、にっこりと同意するはずです。


つまり、相手を説得する際には、まず相手はそのモノに対して意見と態度のどちらを持っているかを見極める必要があります。相手の態度と相反する説得はほぼ失敗に終わるため、できるだけ避けなければなりません。

利益相反は説得力を下げる

説得力を上げるには、その人が説得によって利益を得るかどうかが重要視されます。
例えば、電力会社が「電気代の値上げは長期的に見て国民の生活にプラスになりますよ」と言っても説得力は低く感じます。他方で、これを利権と関係のない海外の学者が言えば、説得力は上がります。
このように、説得の結果によって自分が利益を得ない場合のほうが、より説得力は増すのです。

仕事や恋愛でもこれは同じでしょう。自分で自分を売り込むよりも、他人に自分を紹介してもらったほうがより効果的となるのです。


議論では相手の目線に立つべきか?

議論において説得力を上げるのは「一面的提示」と「両面的提示」のどちらでしょうか?一面的提示とは賛成意見か反対意見の一方のみを述べる方法です。対して両面的提示は両方の意見に言及します。

結論から言ってしまうと、多くの場合、両面的提示のほうが説得力は上がります。両面的提示は、信頼性や説得力を高める効果を持つのです。両面的提示は知識が豊富な人や反対意見を持っている人に対して特に有効となります。
政治家のテレビ討論、YouTube動画、ネットの記事など、不特定多数の人が目にする場所でも、両面的提示が有効に働くでしょう。


あなたはここまでの話で、「相手の意見も考慮したほうがいいなんて、そんなことは当たり前じゃないか」と思われたかもしれません。
しかし、一面的提示のほうが効果的な場合も存在します。それは、知識が少ない人や元々賛成に傾いていた人を説得する場合です。これらの人を説得する場合、反対意見にまで言及してしまうと、余計に混乱させてしまう可能性があります。
例としては、政治家の演説などが挙げられます。トランプが自分の支持者に向けての演説でヒラリーの政策の有効性について説明していたらおかしいですよね。

私たちにとって身近な例で言えばクローズドコミュニティでの発言が当てはまるでしょう。
クローズドコミュニティとはTwitterの鍵アカウント、オンラインサロン、各種ファンサイト等のことです。同一の意見を持った親密な人や自分のファンには一面的提示のほうが効果的と思われます


結論として、説得力を上げるなら場面に応じて一面的提示と両面的提示の使い分けが大切となるのです。

統計よりも実例のほうが効果的

人間は統計には興味がありません。より説得力を上げるには統計的数字ではなく鮮明な具体例が有効です
ある病気のワクチンの募金を募る際、「この病気で毎年数何万人の人が亡くなっています」と訴えかけるよりも、一人の子どもが病気で苦しんでいる写真を見せるほうが募金率は上昇するのです。


伝え手の信憑性により説得方法は変わる

ベストな説得方法は伝え手の信憑性によって変化します。まず、伝え手の信憑性が高い場合は、極端な意見が説得力を生みます
例えば、ホリエモンが「ビジネスで成功したければ1日12時間勉強しろ」と言えばその言葉は説得力を生みます。しかし、普通のビジネスマンが同じ言葉を言っても「何を言ってるんだ?」といぶかしがられるだけでしょう。

反対に、伝え手の信憑性が低い場合は、身近な意見が説得力を生みます。普通のビジネスマンが、「隙間時間を見つけて1日30分だけ勉強するようにしたら、仕事が上手く回るようになったよ」と言えばその言葉は説得力を生むのです。


相手を説得するには自分が信頼してもらっているかどうかで、臨機応変に内容を変えなければならないでしょう。



事前警告は説得力を下げる


事前警告は説得力を減少させることが明らかになっています。事前警告とは、「これからあなたを説得しますよ」というメッセージのことで、行動経済学でいうプライミング(先行刺激)の1つです。
事前警告の例としては「スポンサーからのメッセージです」「広告を含みます」という言葉が該当するでしょう。事前警告によって人々は心理的リアクタンスを起こします。

心理的リアクタンスとは、自分の選択肢が阻害されることへの反抗のことです。
特に心理的リアクタンスを引き起こしやすいものは「図々しいもの」と「有無を言わさぬもの」の2つです。「禁酒をすべき」という言い方は説得力を減少させる悪い例となります。たとえ相手にメリットがある提案だとしても、心理的リアクタンスによって拒否されてしまうことがあるのです。
心理的リアクタンスを回避し、説得力を下げないためにはよりマイルドな言い方が吉となるでしょう。

とはいえ、そもそも事前警告が無ければ人々が身構えることはありません。この人間の性質を逆手にとって生まれたのがステルスマーケティングです。人々は、それを広告だと認識せずに商品を勧められれば、心理的リアクタンスが起きないため説得させられやすいのです。


CM、ステルスマーケティングなど、規模が大きな話になってきましたが、事前警告の話は個人でも十分に応用可能です。
例えばセールストークならば、「ところで、ここからが仕事の話なのですが」という前置きは絶対にNGであることが分かります。まずは雑談で相手との親密度を深め、事前警告を与えず、雑談の延長として自然にセールストークに移行するのが効果的となるのです。

まとめると、私たちが相手を説得しようとするならば、事前警告をせず、マイルドな言い方を心がけることが大切となります。


真逆の信念を持つ人の説得方法は?


自分と真逆の信念を持つ人の説得にはどうすればよいのでしょうか?
ある実験では、被験者に不快な音楽を聴かせることで説得の成功率が上がったそうです。不快な音楽と説得に何の関係があるのでしょうか?
これは二重過程理論や脳機能の観点から説明がつくでしょう。こう聞くと何やら難しそうですが、内容はいたってシンプルです。人間は物事をまず感情で判断し、次に論理で判断するという話です。

人間はまず、大脳辺縁系と呼ばれる感情等をつかさどる太古からの脳で物事を捉えます。その後、大脳新皮質と呼ばれる論理をつかさどる新しく発達した脳で物事を分析します。
ここで問題なのが、論理的思考を働かせるには「集中」が必要という点です。もし試験中に耳元で雑音が鳴っていれば、誰しもパフォーマンスが落ちてしまうでしょう。

これらを踏まえて、自分と真逆の信念を持つ人の説得方法を考えてみましょう。説得を成功させるには、相手の大脳新皮質を働かせなければいいのです。より簡単に言えば、相手の集中力を阻害するということです。冷静な状態の相手ならば反論されてしまう内容でも、論理の穴を指摘する合理的思考ができない状態ならば話は変わってきます。「確かにそうなのかもしれない」と相手は説得される可能性が高まるのです。
先に挙げた実験では、不快な音楽を流すことで被験者の大脳新皮質の働きを抑えられたのです。その結果、説得の成功率が上がったのでしょう。

論理的思考を働かせるためには「集中」が必要という話は前述しました。加えて、人間が「集中」するためには大量のエネルギーが必要です。つまり、脳が疲れているとき、人間は説得されやすい状態になるわけです。
昔から、頭のいい政治家はこれを応用してきました。あえて重要な演説は朝方ではなく夕方に行うのです。
頭がクリアな朝では自分の政策の粗を指摘されてしまいます。一方、夕方ならば、仕事終わりで頭が疲れている人々は論理的思考が働かず、政治家に言われるがままに説得されてしまうのです。

具体的に私たちが信念の異なる相手を説得する方法を考えてみましょう。時間ならば、仕事終わりなど、相手が疲れているタイミングを狙うのが効果的でしょう。場所は、静かで集中できる空間よりは、ガヤガヤと雑音の多い空間が望ましいと考えられます。

注意点として、私たちはいつも説得する側に回るとも限りません。上記のような状況でセールスマンに会ったり、通販番組を見てしまえば、いらない商品を売りつけられてしまう危険性も高まるわけですね。



おわりに

人間の心理を利用した説得のテクニックには様々なものが存在します。「フットインザドア」「ドアインザフェイス」「ローボールテクニック」などが代表的でしょう。
しかし、これらのテクニックは、既に心理学を学んでいない人々の間でも広く知られています。そこで、この記事ではあえて一般にはあまり知られていないと思われる情報に絞って紹介してみました。

説得のテクニックは、使う人によって善にも悪にもなり得ます。ここであなたは疑問に思うかもしれません。私は本文中で例としてセールスを挙げましたが、セールスで説得のテクニックを使い商品を売ることは倫理的に正しいのでしょうか?

セールスの場合は、相手にメリットがある商品を売るのならば何も問題はありません。相手にとって何の価値もない商品を売りつけることは詐欺にあたります。

この記事を読んだあなたが、他人を正しい方向へナッジ(nudge)できるようになることを願っております。それが積み重なることで、社会全体がよりよい方向へと進んでいくでしょう。


2019/6/27 バーチャルエコノミスト千莉

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