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【読書感想文】少しはマトモな坂口安吾

アタシは坂口安吾が専門だったわけでもないのだが、どうしても『堕落論』や『白痴』などから、安吾はダメなヤツ、というイメージがあった。今回読んだ短編集でも、そのダメっぷりは十分発揮されているので、まあ、ダメなヤツなんだろう。

だがこの短編集の中で、あれ?安吾さん、ちょっとマトモな発言?っていう箇所があったので、ここに披露しておきたい。

「青春は絶望する。なぜなら大きな希望がある。少年の希望は自在で、王者にも天才にもみずから化して夢と現実の区別がないが、青春の希望の裏には、限定された自我がある。わが力量の限界に自覚があり、希望に足場が失われている。」(『暗い青春』より)

「政治とか社会制度は常に一時的なもの、他より良きものに置き換えられるべき進化の一段階であることを自覚さるべき性のもので、政治はただ現実の欠陥を修繕訂正する実際の施策で足りる。政治は無限の訂正だ。」(出典同上)

青春にしても政治にしても、何とかっていうものは、と、定義づけするような作業は、それがいかに曖昧な定義であっても、これはとりわけ難しいし、勇気がいるものだ。いくら大人になってから振り返って「青春は絶望する」なんて言うといっても、やはり勇気がいることには変わらない。

「死に至る病とは、絶望のことである。」という、キルケゴールの有名な出だしの一節を思い出した。彼はキリスト教との関連をその著作の第二部で語っているが、宗教と連関を持つと、そうではない言葉と比べて、割と「語りやすく」なるのではないかと思う。(宗教批判をしているわけではない。)むしろ背中に何にもおぶってない人間が或る抽象的な概念について語ることの方が、難しく、勇気を伴う作業だと、アタシは言いたいのである。

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